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仕掛けの連鎖

星見市の異変はさらに広がっていた。電車は駅に閉じ込められ、信号は勝手に切り替わり、街角の大型ビジョンは意味不明な数列や記号を垂れ流している。人々は混乱し、逃げ惑い、あるいはその場で立ち尽くすばかりだ。


「完全に街を計算機にしてやがる……」


俺は息を切らしながら呟いた。通りの自販機は勝手に電源を落とされ、中から火花を散らしている。電源網や通信回線だけじゃない。街そのものが一つの演算装置として、何かを導き出している。そう思わざるを得なかった。


「先輩、あそこ……」


樹が指差した先では、エレベーターホールに閉じ込められた親子が必死にドアを叩いていた。俺たちは駆け寄り、制御パネルを叩いて強制的に回路を切る。かすかな唸りのあと、ドアがゆっくりと開き、母子は外へ飛び出してきた。


「ありがとうございます……!」


「いいから、すぐに安全なところへ行って!」


そう言って促しながら、俺はまた街の騒音へと身を戻す。こうして助けを必要とする人々の間を縫いながら進むしかなかった。


ファヌエルが追いついてきて、白いローブを風にはためかせながら口を開く。


「彼の仕掛けは、ただの罠ではありません。街全体が一つの呪文のように動かされています」


「呪文……?」


「比喩にすぎません。だが、人工衛星を呼び寄せるための計算式と、祈りに似た連鎖がここで同時に走っています。人々の混乱さえも、その一部なのです」


ファヌエルの言葉に背筋が冷たくなる。俺は額の汗を拭った。


「街ごと巻き込む仕掛け……やっぱり、あいつ、正気じゃない」


「正気かどうかではなく、目的に忠実なのでしょうね」


ファヌエルはそう言い、険しい顔で周囲を見渡した。その目は次の危機を探しながらも、確かに前を見据えている。


やがて、俺たちは人気のない商店街へと出た。そこでは、街灯が一斉に点滅し、モールス信号のように規則正しい点滅を繰り返していた。耳を澄ますと、スピーカーからノイズ混じりの声が漏れている。


「……???……???……」


意味の分からない単語が、延々と繰り返されていた。聞いているだけで頭の奥がざわめくような響きだった。


「何だ、今の……?」


「先輩……わたし、すごく嫌な気配がします。まるで名前を呼んでいるみたい……」


樹の声が震えていた。俺も答えられなかった。ただ、その言葉が的を射ていることだけは分かっていた。名前を呼び寄せる、ということは、何らかの存在をここへ引きずり込むということだ。


ファヌエルが低く呟く。


「可能性は、ポシビリティは……そんなものまで呼び寄せるというのか……」


俺は息を詰めた。人工衛星を落とすだけではない。もっと別の何かまで引きずり込もうとしているのか。ピーターパンは本当にそれを望んでいるのか。考えがまとまらないまま、俺は拳を握りしめた。


そのとき、街の向こうで閃光が走った。高圧電線が破裂し、炎が散ったのだ。その陰で、緑の姿が一瞬、きらりと動いたように見えた。


「……いた!」


俺の声に二人も振り向く。ピーターパンは路地を駆け抜け、次の仕掛けを仕込もうとしていた。俺たちは再び走り出す。


心臓がうるさく鳴る。だが足は止まらない。街も、人も、そして俺たち自身の未来も。ここでやつの企みを止めなければならないのだから。


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