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兆し

夜の星見市は、ひどくざわめいていた。昼間には見えなかった奇妙なざらつきのような違和感が、街全体に漂っている。まるで空気そのものが波打ち、電気的なざわめきを帯びているかのようだった。


「……なんだ、この感じ」


晴人は足を止め、辺りを見回した。街灯が不規則に瞬き、電車の運行表示板が一瞬だけ乱れる。人々は気づいていないのか、足早に行き交うばかりだったが、得体の知れない直感が警告を鳴らしていた。


樹も同じく眉をひそめて、空を仰ぐ。


「ただの電波障害じゃない……もっと広い範囲に干渉が起きてる」


その時、耳の奥に直接響くようにファヌエルの声がした。


「感じるでしょう? これは偶然ではありません。誰かが意図して、都市の構造そのものに手を加えている」


「……あいつだな」


晴人は強く言い切った。緑の男の姿が脳裏にちらつく。緑のタイツ、赤い羽根、濃い顔。悪趣味でしかない滑稽な外見が、今は底知れぬ不気味さをまとって思い出された。


「ピーターパン……」


樹が唇を噛み、悔しげに名を吐いた。


「あいつ、街ごと巻き込むような大きな仕掛けを動かしてる……」


晴人の声には焦燥が滲んでいた。


「どうすれば止められるんですか、ファヌエルさん」


「私の力で完全に防ぐのは難しい。けれど……人の手で止める道は、必ず残されている」


ファヌエルの言葉は淡々としていた。しかし、どこかで二人を試すような響きもある。


「試されてるってことか……」


晴人がぼそりとつぶやくと、樹が鋭く顔を向けた。


「でも先輩、躊躇してる時間はないです。もう始まってます」


その声音には迷いがなかった。けれど晴人の胸にはまだ、どこかためらいが渦巻いていた。自分たちで何ができるのか、その一歩を踏み出す決断が。


ファヌエルはふと柔らかに微笑んだ。


「晴人。あなたの最初の一歩は、誰かを支えます。ためらってはいけません」


その言葉に背を押され、晴人は息を吐いた。短く、だが決意を込めて。


「……分かった。やるしかないんだな」


樹も力強くうなずく。


その瞬間、視界が歪んだ。どこからともなく映像が割り込んでくる。空のさらに上、暗黒の宇宙に浮かぶ銀色の影。無数のパネルを広げた人工衛星が、冷たい光を反射していた。ほんの一瞬の映像なのに、背筋を冷たいものが走る。


「まさか……人工衛星を落とすつもりか!」


晴人の叫びは夜のざわめきに溶け込んだ。ファヌエルの沈黙が、逆に答えを肯定しているようだった。


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