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第06話 あぁ、とても順調で

俺は馬小屋で起きた朝、いつもの変身を使いまくっているそれにちょっとした変化を設けてみた。


昨日やった、部分変身がどういう感じにできるのかの実験である。


右腕だけ、筋肉質な、冒険者ギルドで見かける男をイメージして変身してみると!


おぉ!


腕だけごわんと盛り上がったではないか!


では、反対の腕を並行して、セナの細くて柔らかい腕に――できない?


とりあえず、いったん、右腕を解除して、もう一回左腕をセナに……とするとできた。


どうやら、変身のスイッチは1つだけ、ということなのだろうか。


同時にバラバラがダメなのかな、と、左右の腕をムキムキに、と思うと上手くできた。


変身を願う先が1つ同じならできるのかもしれない。


ムキムキにすると重たいものも持てる気がしてきた。


ということで、こんどはセナに全身を変身してみる。


魔法が使えないかな、と思ったのである。


ムムムムム、なんか、使えそうだが、こう魔力めいたものも分かる。指先にわずかに雷がピシッとなるもうまくいかない。


魔法は難しいのだろうか?


できそうでできないことにむず痒さを覚える。


うーん、もどかしい。


その後、いつも通り冒険者ギルドへ向かいセナを待った。


結局、昨日はどうなったんだろうな?


---


今日はセナと一緒に、薬草採取となった。変わらぬ日々、これも良い。


そんな薬草を取りに向かう道中で、


「ねぇ、しばらくパーブルさんのパーティーに厄介になってみたいんだけどどう思う? その、アスマには悪いんだけど」


「俺は問題ないし、いいんじゃないか。何か組みたい理由でも見つかった?」


「うん、えっと、もっと成長できそうかなとか、冒険者として」


「確かに、先達と一緒にで、友好的な関係でってなら、良さそうではある」


「でも、アスマは困らない?」


「昨日、一応、猫探しの依頼もできたし、たぶんランク1くらいしか今後もできなさそうだけど、なんとかするさ」


「そっか、なんかごめんね」


「いやいや。俺の生活は俺の問題だ、気にすんな。あ、そうそう、ちょっと試したいことがあるんで、森の中で」


「試す?」


こうして、いったん森の中でひとしきり薬草鳥の作業が終わって、


「というわけで、相談。そのために、まずはセナに変身します」


「うん」


慣れた感じでセナに変身する。もう本当になれてしまった。よくよく考えたらまだ鏡などで確認してないから、どれくらい似てるのかわかってないのだが、まぁ、今回はいいとしよう。


「実は、猫になったときは匂いがよく分かるようになったんだが、セナになったら何となく魔力の感覚が分かるんだよ」


「なるほど」


「でもだな」


と、腕をのばし手をピストルの形にして、指先に雷を少し走らせる。


「魔法をやろうと思っても、こんな感じにしかできないんだ」


「あー、そう言うこと。えっと、私の使っている魔法は媒体魔法とよばれるものなの。つまり、この杖、などの魔法を使うための触媒がないと、自力でやるのは大変なのよ。エルフとかだと、その辺だいぶ違うみたいだけど」


「そういうことか」


そして、セナは、ポケットから小さな宝石のようなものを渡してきた。


「これに意識を集中させて、ここを起点に魔法をやってみて」


「わかった」


受け取った宝石を親指と人差し指で握って、電撃をイメージするとビリッと、電気がはしり、それが指に当たった痛みで宝石を手放しおとしてしまう。


「うわっ、ごめん」


慌てて拾う。


「ううん、電撃はそういう事故が起こりやすいから、杖とかの方がいいのよね」


拾い直して、今度は別の、風をイメージしてみると、そっと風が吹いた。


「おぉ」


「へぇ、あれ、私、風の魔法なんてアスマの前で使った?」


「いや、できる気がした」


「へー」


そうして、もう一つ、近くの空間に円盤をイメージすると、何かしらバリア的なものが生成された。


「おぉ、障壁かなにか?」


「防御円ね、物理的なものをあるていどはじけるの。私じゃ、そこまで強くないけど」


「なるほど、とりあえず理由が分かったので返す」


と、セナに宝石を返す。


「にしても、わざわざ宝石なんてなんで持ってるんだ。杖があるじゃないか」


「媒体魔法は、杖を奪われたり落としちゃったとき、とっさに対応できるように、小さい代用品をいくつか持っておくのよ」


「なるほど、杖一本だと危ないもんな」


「他の魔法、精霊魔法だと精霊に対して話す言葉があって、それを唱えればいいというものや、術式魔法という円や線、刻印をどこかに刻んで使う魔法もあるけど」


という感じで、セナからこの世界の魔法についていくつか聞いた。


精霊魔法は、専用の言霊、精霊言語によって精霊にお願いしてやってもらう魔法らしい。ただ、精霊を知覚するには先天的な才能か、特殊な魔導具が必要とのこと。


イメージでいうとAIでの画像生成やテキスト生成に近いかもしれない。


1girl と指定すれば、女の子の画像を描いてくれるような。しかし、その指定ではランダムになってしまうので、上手く収束させるのが難しいのは精霊魔法も同様らしい。


精霊魔法と相性がいいのはエルフや小人族、一部の獣人族などだそうである。


どの種族も使いやすいのが、媒体魔術または術式魔術である。術式魔術というのは正確な分け方ではないらしい。精霊魔法を術式で行ったり、媒体魔法を術式で行ったりできるとのこと。つまり、どちらについても、あらかじめ、魔法陣や呪文を何かに刻印しておき、発動させるのが術式魔法なのだという。


術式魔法は、事前準備が必要な分、感覚的なイメージなどがほとんどいらないため、媒体魔術のとっかかりとして使うこともあるのだとか。


さて、そんな中で変身魔法なるものがあるかというと、精霊魔法にあるらしい。しかし、それは光の精霊の力を借りた幻覚によって、表面的にそう見えるだけの変身とのこと。


俺の場合、セナの魔法が使えたような、また、猫になって満腹になれる、そんな効果はないのである。


もし、それに近いことが可能なのがあるとすれば、それこそ魔族が使う変身なのだそうだ。頭に黒い角をもった魔族は、人の姿に変身し、擬態し、潜入し、人を混乱させ、暗躍するのだとか。


「というわけだから、精霊魔術が基本使えないアスマは、やっぱり変身については伏せておいた方が良いと思う」


「そうだな」


その後、帰り道に、小さなスライムの魔物を発見したのであるが、セナは臆することなく対処していた。


ずいぶんと見違えたものである。


---


セナに頼んで、媒体魔法の媒体を売っている魔法店に一緒に入ってみていた。不思議な道具や本などもある。魔術書というのだろうか。


しかし、小さな宝石の媒体もわりとお値段が高く、すぐには入手できなさそうなことが分かった。


むしろ、簡素な杖の方が極端に安かったりする。つまり、小型化は何でも難しい、高価になるということだろうとすると、元の世界に通じるところがある。


「杖、買ってみる?」


「いや、普段は使えないからなぁ……」


そう、セナに変身しないと使えないのに、杖を持っていても、と思うわけだ。魔力ゼロらしいし。


どの商品も冒険者ランク1での稼ぎではなかなか手を出すのが難しいものばかりである。


「あ、指輪だ」


「そいつぁ、精霊を見ることができる指輪でさぁ。まぁ、意思の疎通はできんので、半端ではありますがの」


そうしていろいろ踏まえると、セナってまぁ、この前、パーブルが言ってたけど、いいところの出身なんだなと言うことがよく分かる。


持っている杖も、ここに並んでいる簡素なものより高級というか、凄そうであるし、媒体の宝石ももっている。


どんなにお金持ちの家に生まれたとしても、必ずしも、幸せとは限らず、出て自由になりたい、なんてことはあるのかもしれない。


セナの年齢で、それをやったという意味では、俺ではまねできなかったことだなと思う。


そう、俺は結局、自分からは抜け出せなかったわけだし。


だからこそ、凄いな、と思う反面、守ってあげたいと思いつつ、俺には残念ながらそんな力はないよねとも思うんだよな。


変身してチート無双? 無理だと思うね。バレたら悪魔扱いされて厄介そうだし。


ほどなくして魔法店を出て、俺はネズミの肉を買いに向かった。


「そんな一口サイズでいいの?」


と、セナに聞かれたので。


こそっと、耳打ちして、猫になって食べることを告げた。


(そこまで、ひもじいの?)


(お腹いっぱい食べられる幸せってのがある。しかも、美味しい)


そうして俺たちは別れた。


---


旅慣れた傭兵の装いのバリスタードは、いくつかの村や町をまわって、次の町への途中の街道で、夜、薪をしているところだった。


どれだけ時間がかかるか分からない、されど、使命を果たすには急がなければならないというなんとも難しい任務である。


セルディア様が屋敷を出てしまってからもう1カ月半にもなる。


賢い彼女のことだ、きっと屋敷のある街やその近辺の村にいるとは考えられない。とはいえ、それでも探さないわけにもいかず、次のやや遠くの町をめざすには時間をかけてしまった。


大々的に捜索できていないのは訳がある。それは、失踪が他の人々に知れ、良からぬ者の耳に入り、誘拐などされては困ってしまうからである。


できることは俺のような一部の信用できる一人旅できるものが、動くことくらいしかできないのであった。


彼女の父、バルト様はたいそうお怒りである。


このままでは、縁談の破談もありうるのだ。


どうしたものかと、遠くの星々を見る。


セルディア様の痕跡は、髪型は違えど、あの独特の杖だけが頼りだった。


真理の杖、と呼ばれるもので彼女の魔法の家庭教師をしていたロハンが貸し与えていたものである。


そんな杖をもった少女を見かけなかったか、と尋ねて回って、村で見かけた、と聞けている先は次の町である。


つまりまだ、生きている可能性は高い。


その可能性を祈る。


そして、見つかりますようにと。


連れ帰るのが俺の役目ではあるが、はたして……それがセルディア様のためになるかと言うと難しいことも理解してはいる。


そう、まぁ、お相手があれではな……


---


数日、セナはパーブルのパーティーともうまく連携が取れるようになってきて、魔法も順調にこなれてきていた。


洞窟でのゴブリンからのこん棒の一撃を、セナは防御円で遠くからはじく。


それの余裕をもらったパーブルは大振りに振って一撃でゴブリンをしとめる。


ジョニーは前方で敵を食い止めながら他を警戒する。


じわじわと、ゴブリンたちは倒れていき、やがて静かになった。


「いやぁ、嬢ちゃん、広範囲雷撃での最初の一撃はほんとうにいいねぇ」


「ありがとうございます」


最初の一撃を、広範囲に放つように変えたのである。死ぬほどでもない、そんな程度に。であるが、それで一気に敵は動きが悪くなる。


「この調子なら、セナちゃんもランク2だな」


と、パーブルは調子がいい。


妙に距離間が近く、ややうっとうしいのが難点だが、その積極性ゆえに、今の私はここにいるのでもあった。


調子が良かった。


このパーティーに参加することも自分で決めたことで、その結果、上手く事が運んで魔術も上達して、蓄えも増えている。


とはいえ、やっぱりゴブリンなどは、見ると心がこわばる。


でも、仲間がいれば、勇気をもって動くことができた。


少しずつ、ちゃんと前に進んでいっているように感じる。


ここでもう少し経験を積めれば、また、次の町を目指してもいい。できるなら、あの場所から遠くへ行きたい。


ふと思う、そのとき、アスマとはどうしたらいいだろうかと。


遠くへは行きたい。けれど、アスマと離れるのも後ろ髪を引かれる。


彼は、順調にランク1の依頼で生活ができているらしい。


まだ馬小屋生活であるが、お金をためて頑張るぞと言っていた。


そういう0からのスタートの彼と違って、私はちょっとズルをしたのかもしれない。


お金も持ち出してきたし、杖やいくつかの魔導具だってそうである。


だからこそ、なんともアスマはすごいなと思う。


とはいえ、彼は変身しなければ、戦士のような力もなく、ただの凡人でしかない。そういう意味ではほっておけない。


そう、まったく持って頼もしい存在ではない。


グネムの時は頼もしかったが。


洞窟の捜索がひとしきり終わり、シーラがパーブルの傷をいやす。


ゴブリンの討伐も終わり、私たちは撤収した。


冒険者ギルドへ戻ったその時だった。


横から声をかけられた。


「セルディア様、こんなところにいらっしゃったのですね」


ふと、振り返ると。筆頭騎士バリスタードが無表情にそこにいた。


周囲がざわめく。


「依頼完了の手続きを先に終わらせさせて」


「いいでしょう」


とうとう見つかってしまった。


長く、この街にいすぎたのだ。

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