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第04話 猫は見ていた

朝、起きたらなるべく変身能力を使えるだけ使っておくようにしていた。


いざ、と言うときのため、とも言うのもあるが、せっかく異世界に来て獲得できた能力である。


そしてどうも成長するらしいのならば、どしどし使っていきたい。


ここ最近、セナに変身した時に不思議に体全身を包むオーラのような感覚を感じるようになってきた。


そして、杖に意識を向けると、ビリッっと、軽く電気の光が走るのである。


もしかしたら、ではあるが、変身した対象の能力を引き継げる、そんなことになっていたりするのだろうか。


もしそうだとするのならば、英雄に変身すれば、英雄として活躍できるのかもしれない。


まぁ、英雄になんて興味はないが。


あれは華やかそうでいて、個人的には弱者の奴隷なのではないかと思う。


力あるものはそれを役立てるべき、というのは、力を持ってしまったら、力がなくてもできる好きなことはやるな、という束縛なのだ。


そんな不自由は嫌だ。


でも、貴族ってそういう考え方なんだっけ、ノブリスなんとやら。


少し、ここの生活にも慣れてきたし、いい加減にここは夢ではなさそうだと確信してきたところである。


とすると、生活を、とくにまずは衣食住の住を改善したい。


宿ってどれくらいかかるんだろうなーなどとどんよりした気持ちになりながら、それでも、ベットで寝たいなーと思いながら冒険者ギルドへと向かうのだった。


---


依頼も終わり、冒険者ギルドの掲示板をながめていた。


どうやら異世界転移の恩恵は、言葉で発生する言語の意思疎通と、変身能力のようで、文字の読み書きには適応されない。


さて、そしてここで問題である。文字の読み書きは大変覚えにくいのだ。それも、この状況下においては。


英語で例えるとしよう。


This is a pen. そう書かれていて、それを読んでもらえれば、ディス イス ア ペン と聞こえてくる。


しかしだ、現在はこうなってしまう。


This is a pen. そう書かれていても、それを読んでもらうと、これはペンです と聞こえてくるのである。


つまり、自動翻訳の結果、読み上げられる文章と、書かれている文章が別の言語になってしまうのである。


だから、セナに頼んで教えてもらうようなこともできない。


どういう状況かと言えば、書き言葉の言語だけから、それを解析し、どういうふうな言語体系なのか、単語の発音不明で類推して覚えなければならない。


発音については、名前から少し類推できるが、その程度である。


依頼の張り紙から、金額表示、何かを集めてください、何かを討伐してください、そういう雰囲気はずいぶん見てわかるようになってきた。


まぁ、幸いなことに、識字率の低いこの世界では、他の仕事をするにしても、読み書きのいらない仕事は沢山ありそうである。


それはそうと、今日も今日とてセナはギルドで、パーブルという男冒険者に誘われていた。


パーブルは、細身、やや筋肉はあるかなという感じで騎士風の鎧を身にまとった微妙に似合わない青年である。冒険者ランクは3とそこそこは経験があるらしく「どうだい俺達のパーティーに」や「ご飯でもどう?」と誘っているのである。


少し話はそれるが、冒険者ランクは6段階ある。


まずランク1、これは雑用といってもいい。魔物はグネムや低級スライムなど、こん棒でも倒せるくらいの討伐依頼までで、近辺でとれる薬草の採取、簡単そうな探し物など、簡単ななんでも雑用屋みたいな依頼内容が多い。


ランク2になると、周辺に出没する、少し危険な魔物の討伐までが範囲となり、そのうえで、信頼が少しあるという意味もあって、ここから荷物の宅配なども含まれてくる。


ランク3は、危険な魔物の討伐となり、集団であることも多い。そうした相手をパーティーを組んで行える、また、護衛などもこのランクからが多くなっている。


ランク4では、ランク3の魔物を1人で討伐できるか、ギルドから信頼されている冒険者と言う扱いになる。大型の魔物の大人数での討伐の統率なども任せられたりするのがこのランクである。


ランク5からはおもむきが異なる。領主、貴族、そう言ったコネクションを持ち、そうした方面からの依頼を受けたり、便宜を図ってもらえる立場がランク5となる。


ランク6は伝説ともいえる。ランク5を超える、国家規模の冒険者であり、ほんの一握りしかいないとされている。


とまぁ、そう考えると、ランク3のパーティーに入れてもらえるのなら、セナにも悪い話でもないだろうが、グネムの克服がしきれていないのか、それとも、別の理由か、これまでずっと断っていた。のだが、


「その、食時、おごってくれるんだったらいいですよ」


と、あれー? なんだか今日のセナさんは雲行きが違うようだった。


「おごるおごる、いい店知ってるんだ、それじゃついて来いよ!」


という流れ。ほほう、こりゃどうなるのだろうと気になる。気になる。


絶対、パーブルには下心あるだろうなぁと思うし、そうなるのも分かるくらいセナは可愛い。うん、パーブルの審美眼は正しい。


二人が冒険者ギルドを出ていったので、こっそり後をつけてみる。


ほどなく、街でのなれない尾行に、どうも相手方は気づかない様子。


そして飲食店に入っていってしまった。うむ、さすがに中に入るとバレるよな。飲食店の入り口を見つめながら考える。


うーん、どんな話してるか気になるし、こっそりのぞいてみたいなと思う。


おぉ、のぞきたい、の・ぞ・きたい!


べつに、お風呂をのぞくわけでもないのだ、いいじゃないか。


ふと、お店の出口から黒猫が出ていくのが見える。あー、動物は出入り自由ですかー、いいねー。いいねー、ん?


もしかして、動物に変身できたりしないか?


そう思ったら、胸のあたりがそわそわしてきた。あぁっ、やってみたい。ぜひ、いやはや、これできるんじゃね、って言うのはやっぱり確かめたい。


すぐさま、周囲を確認し、人気のない場所をさがしてひょいと入る。


時間が勝負だ。そう簡単に二人が店を出るとは思はないが、もたもたしているとチャンスを逃す。


さぁ、猫、さっきの黒猫に、変身だっ!


すると、いつもの変身の感覚と共に視界が大きく変わった。まるで、自分が小さくなったようなと言うか、上手くいっているんだったら、きっとそうなっているはず。


「にゃーん」


うん、猫になってるっぽい。


ということで、お店にてくてく向かって入っていく。


おぉ、なんだか不思議だ。街の雰囲気が全然違うのだ。動物の視点とでもいうのか、全てが巨大でそして匂いの感じ方がまたちょっと違う。いつもより濃く繊細に感じられる。


お店に入ると、セナとパーブルが席に座っているのを見つけて、声が聞こえる空きの邪魔にならない床にちょこんとろに俺は鎮座する。


「ここの肉とスープは絶品なんだ、ぜひ堪能してくれ」


「ありがとうございます」


おぉ、肉、肉だと! くそぅ、この世界に着て肉なんて俺は食べてない。ズルいぞセナ、しかし許す、なんとも盗み聞きしているこの悪いことしてるぜ俺、と言う満足感が肉よりも圧倒的に大きかった。


「あぁ、肉はいいぞ。肉は肉体を作り、元気をみなぎらせ、活力となる冒険者には欠かせぬ食事だ。魔法使いでも、肉は食べたほうがいい」


わかる。肉っていいよなぁ、それに、野菜だけだと人間の栄養って補いきれなくて、タンパク質とかそういうのがいるわけだが、活力というのもわかる。


「それはそうと、良かったら、セナちゃんの魔法見せてくれよ。組んでくれるわけじゃなくてもほら、先輩冒険者として言えることはあると思うぜ」


「考えておきます」


「それにしても、ランク1は地味なのが多いから、ランク上げとか大変だろうな。まぁ、グネムとか出てきても、可愛いもんだろけど」


「うーん、私はあんまり可愛いとは思わないかな」


「そうかい。まぁ、可愛さでいうとセナちゃんはこの街でもとびっきりだけどね」


「そんなことはないと思うけど」


「ある、あるねぇ。うちのパーティー、今ちょうど美少女枠が空いてるんだよね!」


おぉ、セナが照れてる。押しに弱いのかな。なるほどなるほど、セナさん推しに弱いと。


「そう言えば、いつも組んでる男いるじゃん、どういう関係?」


「どうと言われても、妙な縁で雑用係みたいな」


そうだのぅ、俺は雑用、荷物運び屋さんだぜ。そして今は、隠れてセナを見守っているのだ。


「付き合ってはいないのか?」


ふと、セナが赤面して答える。いいねぇ、恋愛のお話に初々しさのあるセナの表情頂きましたー。これが元の世界なら確実に写真やスクショをとっている。


「そ、そんなんじゃないです」


って即答しちゃったけど……なんか、この否定の仕方、逆に誤解されそうな空気感が何なんだ。


まぁ、違うんだけどねー、セナちゃん可愛いから、いいなぁとは思うけど。ふむ、そしてそんな質問をするということは、やはり、パーブル、狙っておるな、お主の顔が少しほころんでおるぞ!


「そっかー、にしてもどういう男なんだ」


「アスマは、気がついたら近くの平原に倒れてたんだって」


「気がついたら? 故郷は遠くなのか?」


「どうなんだろ、一般常識とか全然知らない感じだったから、訳アリなのかなって思ってる」


「そんな、セナちゃんはどうなのよ。一人でどこから出てきた貴族かなにかのお嬢様って感じだぜ」


「えっっと、何でそう思うの?」


「少し、貴族さん方の護衛協力とかもしたからな、そういうときのに見た動きというか空気感、なんかあるな」


「ただの村娘です」


「いやいや、俺の目はごまかせんよ。前に挨拶するときに貴族式のドレスをあげる動きしかかってたし」


「それは……」


へー、セナって貴族なのか。まぁ、それはそれでありそうな話かもしれない。


「ま、ワケありなんだったら、知り合いとか多い方がいいだろ、できれば俺のと言いたいが、他の人ともパーティー組んでみたり、人脈広げてみるのは」


「そうなのかな?」


「その、アスマって男がそりゃ、頼りがいのあるやつならいいがよ。見てくれへっぽこそうじゃん。武器も持ってないし」


へっぽこで悪かったな。へっぽこだが。


「彼のことは悪く言わないで、腕っぷしはないけど、勇敢よ」


そのセリフを聞いた瞬間、猫耳がぴくっ、しっぽがびーんと天井を刺した。


思わず、俺の中の何かが「キュイン」と鳴った気がした。


セナ、今、俺のこと、勇敢って言ったよな!? マジで!?


ああもうダメだ、これは今日一日、ニヤけが止まらん自信がある。あぁ、ここに来て今日は正解だったわぁ。


「そりゃ悪いことをいった、すまん」


そんな話をしていると、おぉ、こおばしい焼けた肉の料理が運ばれてくる。


「おぉ、これだぜ!」


二人はそれぞれ、美味しそうに料理を食べはじめた。


「これは、美味しいわ」


「だろ!」


さて、まぁ、変身がいつ切れるのか、限界時間が最近わからないので、そろそろ退散しますか。


ということで、俺は黒猫の姿のまま店を後にした。


---


俺は猫の姿で街を駆けまわっている、ヤバイ、このままでは!妊娠させられる!


街の塀を駆け抜けて追ってくるは茶と白のまだらな猫、オスである。そして、おれはメス猫だった。


やばいやばい、こんなところで猫としての体験なんてしたくないし、猫の交尾ってメスって痛いんじゃなかったっけ?


いやーだー、慣れないながらも屋根の上に登って次に、うわぁ、高い高い高い、怖い怖い怖いと思いつつ、あー先がない、でも止まれない、跳躍!


「ニャオーーーーン!」


猫の反射的な動きで軽やかに地面に着地してたたたっと逃げ去っていく。助けて!

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