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第02話 馬小屋からスタートです

自由、それはいい響きだ。解放感、素敵だ、もし異世界転移して今の俺が現実なのだとしたら、もうあの勉強尽くしの敷かれたレールを突き進むだけのそんな人生からはおさらばできるということである。


とはいえ、いきなりオープンワールドに説明も能力もなくとーんと放り込まれてしまっては、自由だなんだと言ってられない。


野垂れ死にして終わるだけだ。


「ど……どうしよう」


異世界転移、もしくは転生モノというのはだいたいにして、何かしら能力を授かっているものである。


状況を整理する。もし仮に、異世界転移しているのだとしたら、特殊能力を……うーん、なるほど、つまり、もしかするとさっきの変身、が実際どれほどのものかは、俺自身は確認していないからわからないが、そう言った能力は授かっている……と。


元の世界にどうこうよりも、まずは当面、生きていけるのか、の方がまずは大切だ。そもそも生きていけなければ、帰る方法も探しようがない。


優先は、生き残る、能力について、夢かどうかの確認、帰る方法、このような順番だろうか。


率直に言って、帰れるかどうかはどうでもいいかもしれない。うん、新しい人生が楽しめるなら、心残りがあるのは、あのWeb小説を完結させられなかったこと、くらいだろうか。


というわけで、セナに土下座して頼み込む。


「お願いだ、生きていく方法を教えてくれ」


「あの……私は魔術師としては才はあるけれど、まだ新米の冒険者相手に、あなたは何を言っているの?」


「できるかぎりでよいので、御慈悲を!」


少し沈黙があって。


「分かったわ。依頼を手伝ってくれたら、少しは出す。けど、私もカツカツだから、あなたが食べられるのは一日一食程度よ」


「まず、餓死しないというだけでも感謝を」


「そうね、あなた、本当に魔族じゃないのよね、どうやって変身してるの?」


「……うーん」


できてしまったものは、できてしまったのである。たまたま、それは、サイコロを振って偶然6がでたのをどうして6がでたのか、必然の原因を述べよ、と言われているのに近しいが……


「もともと、できたわけではないんだ。気がついたらああなった」


「街中で、変身しちゃったら、大事よ。魔族だーって、だいたいなると思うから、発動の制御くらいできないと危険ね。ひとまず、やってみてよ」


と言われたので、あの時の流れを思い出してやってみる。


そう、あの時、セナのような可憐な美少女魔術師になれたらいいな、そんなふうに思いながら、ポーズを、とったのだった。


それと同じように、やってみるも、上手くいかない。


「魔法もそうよ、何か、心に、魂にスイッチみたいなのがあるんだけど、それを認識するところが最初だから、何度もやってみてよ」


そういわれて、何度も繰り返して「えいや」と、可愛らしくポーズをとっていくと――


何かがカチッッとハマる、そんな感覚と共に、全身があの時の不思議な感覚に包まれた。


目線も下がっている。


「できたじゃない!」


「そうみたい」


今回は落ち着いて、両手を見てみると、おぉ、小さな手になっており、服も変わっていた。


ほどなくして、ほわっと変身はもどった。


「今のは意識して戻したの?」


「いや、勝手に戻った」


「とりあえず、勝手に変身しないように、変身する感覚だけいまつかんじゃって」


と言われたので、森の中で何度か練習する。


10回ほどやった後、全くできなくなり、最後の時はすぐに変身が解けてしまった。


「魔力切れって感じとは違うみたいだけど、似たようなものかもね」


「なるほど、逆に言えば、限界までいったん変身しきっておけば、勝手に変身してしまう事故は起きないんじゃないか?」


「そうね。精神的に負担にならなければ、その方が安全かも」


こうして、変身しきったあと、二人で街へと戻った。


街は石畳と木造の家々が並び、人の声や馬車の音が絶えなかった。


冒険者ギルドでは依頼の料金をセナが受け取って、街でのやりとりに不安があったので、セナにはパンを買ってもらった。お金、銀貨を受け取ってどうこうにも、不安があったのである。


そして、寝る場所に関しては、宿などで寝れるはずもなく、馬小屋での寝泊まりの許可をセナの協力の元こぎつけた。ふぅ、危うく、外で野宿となるところであった。


馬小屋で、固いパンをかじる。……こういう時だけは、現実の飯が恋しくなる。あまり、お腹もふくれないし、味も美味しいとはいえなかった。


明日の朝は冒険者ギルドでセナと待ち合わせをしている。早めに寝ておこう。


寝返りを打つたび、藁が肌にチクチク刺さる。馬のにおいもほんのり漂っていた。


アラームなしで起きられるものだろうかと不安になる。


とはいえ、もともと、異世界に来たのは夜だった、そういう意味ではあの時間帯からだと真夜中であることや、薬草採取などの労働も手伝って、すぐに眠りにつくことができた。


藁という不自由な寝心地の悪い環境でも、人間と言うのは寝られるもんなのだな。


---


翌朝、朝日のおかげか目が覚めた。


ひとまず、外に出る前に、変身を全力で行った。今日は13回で力尽き、昨日よりほんの少し、変身の持続時間も伸びている気がする。


ともすると、筋トレや語学の勉強と同じく、練習すればどんどんと伸びていくものかもしれない。


語学でいうなら英語で例えるとわかりやすいだろうか。


最初は、英語の文字をかくことさえ大変であるわけだ。 This is a pen. そんな文章も、まずは一文字ずつである。


まずは一単語描くことに必死で、 This と書けるだけでもやっとなのが初めである。


そういう意味では、変身能力はわからないことが多いが、優れているところがある。


昨日、セナに私に変身された、そう言われているし、服などもそうらしい。まだ、鏡を見ての確認もしていないのでわからないが、ともすると、変身したいと軽くイメージできているだけで、鮮明なイメージ力は不要なのかもしれない。


そう言う意味では手軽に変身できている、のかもしれないのである。


よくよくあるのは頭の中ではできているつもりでも、文字や絵、数式に書き出してみると、意外にできなかったりする。


そういう意味では逆だ。


ゲーム的ともいえるだろう。


格闘ゲームで必殺技のボタン入力ができれば、はいあとは自動で、というその自動の手軽さが変身能力にはあるような気がする。


それはそうとして、セナと待ち合わせをしている、冒険者ギルドへと向かう。夜、ふろに入れなかったことの気持ち悪さを感じながら。


ギルドの中は木造の柱が立ち並び、酒場兼食堂になっているらしい。奥では誰かが大声で笑っていた。


冒険者ギルドは、戦士、剣士、槍使い、魔術師、僧侶といった各種のいでたちの人々と、街中でも見かけるわけだが、いわゆる人間、エルフなのか長耳で美麗な人、ドワーフっぽい髭の長い筋肉質な背の低めな人から、子供っぽい人、獣耳にしっぽをはやした人と様々である。


そういう点では、ザ・ファンタジーと言う感じである。


待っていると、セナがやって来た。


「お待たせ、早いのね」


「死なないためにもね」


「あ、そっか、朝食まだなんだ。依頼だけ先見て受けさせて」


「あぁ」


そして、セナは掲示板の方へと向かっていった、残念ながら、この世界の文字はさっぱりわからないみたいだった。


「そうそう、依頼探しておくから、あなたも冒険者登録だけしておきなさいよ」


といって、セナは登録に必要な銀貨を渡してきた。


「わかった。ありがとう」


銀貨を受け取って、受付へと俺は向かった。


受付で、登録料を渡し、受付の人に手伝ってもらって名前を用紙に記入した。


見知らぬ冒険者たちがちらりとこちらを見た、そんな気がする。


いろいろと、注意書きの文言が書かれている契約書らしいが、説明だけ聞いて中身は読めない。


おおざっぱには、死んでも自己責任、とか、冒険者どうしのもめ事にギルドは介入しないなど、そうした説明がされた。


今日は、仮のギルド証として木のカードが手渡された。正式にはランク1だと、木に名前などを掘るらしい。


その後、魔力検査として、水晶に手を当ててください、と促される


おお、ついにこのイベントか。


実は魔力が凄い高いとか、あったりしないかなー、ないかなー。


などと期待を胸に秘めながら、手を当ててみる。水晶に変化はない。


受付の人もけげんな表情をする。


「もう一個、予備の水晶を持ってきますね」


そうして、再度計った……が、残念ながら、変化しなかった。


「アスマ様って、生きてらっしゃいますよね?」


「はいこの通り」


「普通、ほんのわずかでも光るものなんですけどね、どうもアスマ様の魔力は水晶が光らないほど少ないということみたいです」


「あははは……」


つまり、異世界で魔法を使ってみよう、そんな夢が絶たれた瞬間であった。ちょっとは期待していたんだけどな。


いいさ、俺は俺としてできる限りで生きていくさ。


その後、セナが依頼を決めて、薬草採取の依頼を受け、荷物袋などを俺に押し付ける。


「荷物運びくらいはしてよね」


はいはい、させていただきますよお嬢様。ま、可愛いから許す。


そんなふうにして、俺はランク1の冒険者となり、セナの荷物持ちとして頑張ることにしたのであった。


---


森で薬草を採取していると、緑色の握りこぶしくらいの草の塊みたいなのが数匹目に飛び込んできた。ふよふよしている。


動く草の塊を指さして、セナに聞く。


「あれ、何だ?」


「えっと……グネムという魔物だと思う」


その言葉が出た瞬間、セナの杖の先に細い雷撃が走り、表情が真剣さを増す。


「やっかいなのか?」


「群れたら大変だけど、少なかったら大したことはない……はず」


そう言われて、グネムという魔物を見ると、まぁ、保護色になっていて視認性は悪いが、凶悪さは感じないなと思った。


「で、どうするんだ?」


「……そ、そりゃ、退治……するわよ」


ん?


様子がおかしいなと思ってセナをもう一度見てみると、手が震えている。


「怖いの?」


と、平静に聞いてみた。


「……そんなわけ」


そうは言うけれど、セナは動かなかった。


グネムたちがこちらに気づいたのか、近づいてくる。と、セナは半歩身を引いた。


俺は不思議と、恐怖は感じない。というか、奇妙な奴だな、とは思う。


グネムたちはさらに近づいて、もう、あと3メートルもないくらいにまで迫ってきていた。


しかし、セナは動けないでいる。


グネムってかじったりする系統なのか何なのかよく分からんが、セナに任せておく、と言うのはどうもできない気がしたので一歩前に出た。


そしてやって来た、グネムを一匹、転がる野球ボールを狙うように蹴りあげた。


ポーンとそれは跳んでいく。超運動音痴、と言うほどではないのが幸いであった。


そして、木にぶつかるとさわさわと周囲の葉っぱが剥がれ落ち、中身の黒いモニモニした存在がべしッと落ちるのを、最後まで確認することなく、次々とくる、グネムを蹴り飛ばしたり、足で踏んづけたりしていく。


ほどなく、そんなグネムへの対処をしていると、襲ってくるのはいなくなり。見渡せば、中身の黒いのが数体、倒れて動けなくなっているのが点在していた。


「ふぅ、終わった、かな」


少しの時間、周囲を警戒するも、どうやら、他に魔物はいないらしい。


「セナ、動けるか?」


「う、うん」


いなくなったのが確認出来て、セナも落ち着きはじめたが、


「私、何もできなかった」


「そうだな」


「こんなんじゃ……討伐依頼なんて受けられない……」


「セナ、グネムを見た経験は?」


「初めて……」


「じゃあ、仕方ないんじゃないか」


「あなたは平気だったじゃない」


「俺は俺、そんなに気になるなら、死体なのかな、グネムの、それに魔法打ち込むくらいはしてみたら」


少し時間が経って、セナは杖を構えた、そして、そこから雷撃がほとばしり、一体のグネムを焼き、煙が立ち込める。


「こんなことして、意味あるのかな……生きている相手にはできなかったら、意味がないじゃない」


「死体でもなんでも、とりあえずグネムに一発撃てたんだからいいじゃないか。そもそも、あれってかじってきたりする系統の魔物なの?」


「うん、下側に歯がついていて、森のネズミみたいに言われている」


「ふーん、食べれるの?」


「ううん、薬品の調合には使うみたい」


「持って帰る?」


「今日はやめとく」


ずいぶんと、セナは残念に思っているようだ。怖いのは仕方ないと思うし、このままそうか、最初だけかなんてわからないと思うけども。


それを言ったところで、次、実際会ってみないと分からないので仕方がない。


その後、無事、薬草は採取でき、依頼達成、貨幣の使い方を学んで、セナから銀貨を受け取り、自力でパンを買った俺は、馬小屋へと向かった。


味も素っ気もなく、まるで段ボールをかじっている気分だ。


一日二食、ひもじい。


そんなふうに簡単な依頼をこなす日々が続いたある日の朝。


いつも使い切っていた変身の消費しきっていたそれが、解けなくなってしまった。


ヤバイ、このままギルドに向かうわけにもいかない。


かといって、これまで変身は自然に解けるのを待っていた。解除の仕方が分からない。


馬小屋で立ちすくむ。


どうしよう!?

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