04 二人組作ってー
【side:吉田一郎】
セックスってのは結局のところ体育、言うなれば、ペアでやるスポーツ、男女で二人組作ってー、であり、そんなモノをぼっち気質のオレが心から楽しめるわけがなかった!
そう気付いたのは十二人目のハーレム要員をパーティに加え露天風呂でゆったりしてたら三人目のハーレム要員に行為をせがまれ、反射的に、うーんメンドイな、と思った時。もはや後の祭り。
百回や二百回する内は、まだ良かった。女体の素晴らしさは新鮮でどこまでも溺れていけそうだったし、エロ漫画や薄い本で見たプレイを異世界グッズと魔法を駆使して再現するのは最高の一言。オレはお兄ちゃんになりセンパイになり先生になりお父様になり弟くんになりバブちゃんになりご主人様になりワンちゃんになり豚になりマスターになり人間くんになりオス様になりメス豚になり……。
でも……あの……こういうこと言うのもなんなんスけど……
……これ、オナニーのほうが、よくないスか……?
相手がいることは、めんどくせえのだ!
恋愛とかセックスとかはきっと、ガチガチの人生廃課金勢専用のエンドコンテンツで、オレのような孤独をエンジョイする誇り高き無課金ぼっち人間には不向き……とか言うと酸っぱい葡萄とか言われんだろうなあ……一応ボク、聖女と王妃と3pした次の日に姫騎士とデートして次の朝まで一緒にいた上で言ってますけど? なにか?
とまあそんな感じだったから、王都で冒険者になってから一年、オレはその頃もう、ハーレム要員を増やすのに飽きてた。十人ぐらいまでは厳選してたけど、それ以上になるとまず名前を覚えとくのがキツいと判明した。ハーレム内にアリシアとセシリアとシンシアがいるのもキツい。もう増やさないようにしよう。
それでもまあ、やはり、オッサンやオバサンに褒められるより、体の隅々まで知り尽くした、Vtuberが現実に飛び出してきたみたいな美少女たちから「ヨシダさまスゴイ! さすがです!」と、頬を赤らめられながら言われるのはプライスレスなので、彼女たちと共に、オレは冒険者としての活動を続けてた。
そして〈流浪のヨシダ〉〈鉄剣詠唱ヨシダ〉〈女衒のヨシダ〉、そんな異名がつき始めた頃、オレはそいつに出会うことになる。オレの運命を変える存在に。
ある日王都の冒険者ギルドで、街道に人攫いが出るから退治してくれ、なんて依頼を受け、問題の場所に行ってみると、いたのはゴーレム三体。かなりの魔力で、オレのハーレム、パーティメンバーでも太刀打ちできないほど。
しょうがないなとワンパンでゴーレムを消し飛ばし、ハーレムの面々を治療しようとしたところ、そいつが出てきた。近くの森からゆっくり歩み出てきたかと思うと、まばたきをする間に、オレの斜め上五メートル程度の空間に転移してきた。
かなりの、使い手。この異世界で転移魔法を操るのは、最上位の魔法使いである証拠だ。オレは気を引き締めそいつを見る。
雪のように白い髪、琥珀のように茶褐色の肌、血のように赤い目、尖った長耳。この異世界じゃ差別対象のダークエルフだ。
けど、一番目を引くのは顔の中心の、斜めに傾いだ大きな十字傷。
キャラ付けで済む感じのやつじゃなくて、本当にグロくて、痛々しい、火傷混じりの酷い跡。傷で鼻が片方欠け、残った方もひん曲がり、唇がめくれ、えぐれ、頬に穴が空き、片目が潰れかかってる。お世辞にもキレイとは言えないし、そんなことを言うやつがいたらとんでもない偽善者だ。だが魔力量は……ウソだろ、オレに、匹敵する……!?
「テメエ、何もんだ……?」
鉄剣を構えつつ、オレは臨戦態勢をとる。ダークエルフはオレを見下ろし、杖を構え、答えない。向こうもオレの魔力がわかってるはず。
「へっ、面白くなってきやがった……!」
オレは剣を大上段に振り被り、ダークエルフに突進。そして………………!
キンキンキンキン!
カンカンカンカン!
ドカーーーン!
気が付くとオレはそのダークエルフ、ラプラシアと正面から向かい合い、話し合ってた。強敵とのバトルの中で心が通じ合うなんてことがまさか、本当にあるとは思ってもみなかった。あと実際にキンキンカンカンの戦闘シーンを自分で書いてみると、不安感がスゴい。これを書いてきた数々の作者たちは、マジで偉人だ。
「オマエの目的は……なんなんだ、ラプラシア? どうして人攫いなんてやってたんだ?」
「魔法の研究のためだ」
「……攫った人たちは?」
ギルドの受付嬢(三ヶ月前にハーレムの一員となっている)によれば、既に五十名近くが攫われ、帰ってきてないって話だが……。
「全員使った。三名、鍋に入れたまま出てきたが、溶解液はかなり強めに調合してあるから、じきに溶けるだろう。エリクシルの調合に使うんだ」
まったく悪びれることなく、なんの表情も浮かべず、気負いも衒いもなく、事実を事実として言う口調。
そして、オレの中に電流が走った。
セックスが自分向きのアクティビティじゃないと知って、オレは、どこかこの異世界生活が惰性になってるのを感じてた。その惰性を、吹き飛ばす電流だ。
「……ったく、なろう系主人公に必要なのは、ハーレムじゃなくて、倫理観のイカれたやべーやつだったとは……」
オレは剣を鞘に収めラプラシアとむりやり握手した。
「なあラプラシア、改めて言うが、オレと一緒に来いよ。そういうヤベー倫理観でも、好き放題やれるぜ?」
そう言うとラプラシアは、少し不思議そうな顔になる。
「……倫理観なんて、今さらオマエが何を言ってるんだ、ヨルム地方の百人殺しヨシダとは、オマエのことだろう」
「相手は盗賊だったんですぅー、仕方なくですぅー、オマエなんか罪もない村人を誘拐して魔法の生贄にしてたろぉー」
「私を捕まえて解剖して薬として売ろうとしてた連中だぞ」
「そういう理屈がいつの間にか、敵国のヤツなら殺してもオーケーになって、戦争が始まるんだよ!」
「ダメなのか?」
赤い目が、不思議そうな顔で、オレを見る。オレは思わず笑ってしまって、そして叫んだ。
「しょーがねーな、ヨシ、こっからは悪人主人公の国取り軍記系転生で行くぜ!」
そして、オレが征服王ヨシダと呼ばれるようになるまで、たいした時間はかからなかった。
「あーあ、まいったなあ、俺は別に、ここまでやるつもりはなかったんだけど……大陸制覇なんて、ガラじゃないんだよな……ったく……」
玉座に座りながら呟くと、横のラプラシアは不思議そうに言う。
「ヨシダ、つまりそれは、私の力のレベルはこの世界の常識をはるかに超えて強力ですが王としての役割を背負わされているこの状態は本意ではありません、ということか?」
どこまでいっても常に、こいつはこんな感じだ。
「……あのなラプラシア、こういうのはお約束なんだよ、お約束。変身ヒーローが変身してる間に攻撃すればいいじゃん、なんて言って許されるのは小学生までだろ?」
「? よくわからんが……」
「いいからいいから、俺の後に続けて言ってみろって、はい……え、俺なんかやっちゃいました?」
「…………え、俺なんかやっちゃいました」
「あーダメダメ! もっと感情込めて、怒られたくない、って気持ちをあらわに!」
「……え、俺なんかやっちゃいました……?」
「いいよいいよ! 今度はちょっと、ヤバいかも……みたいな気持ち足してみようか!」
オレがゲラゲラ笑うと、ラプラシアはまた不思議そうな顔になる。相変わらず酷い傷顔だが、オレはその顔が大好きだった。どうでもいいから、と言って傷を治そうとしない態度も含めて、全部。今じゃハーレムの面々よりもずっと、ラプラシアといることのほうが多い。それで、よかった。それが、楽しかった。そして、異世界転生が素晴らしいのはきっと、こんな時間が持てるからなんだ、と思って、少し恥ずかしくなった。
今思えば、オレはこの時に、止まっておくべきだった。あの、玉座の横にラプラシアがいた時間を、何よりも大切にすべきだった。
それだけで、よかったんだから。
キンキンカンカンの中身についてはまた後ほど。