04 せっかく異世界転生したんだからそりゃあやりたいことやるじゃんね
【side:吉田一郎】
オレ、こと吉田一郎は、トラックどーんの異世界転生、赤ん坊スタートなんだからまあ魔力の訓練を乳幼児期からやってスタートダッシュをキメるのが鉄板っしょ、と思ってたらなんかやり過ぎたらしく、十四歳にしておそらく、世界で一番の魔力量になってしまったから実力を隠すため冒険者になって村を出ざるを得ないわけであって、決して、オレが影の実力者モノををやりたいからやってるわけでは、ない。うん、いや、マジで。マジでね? ……いや、やりたいけどね?
とまあ、なろうやカクヨムの連載は一話二千字から三千字がベストで、極力省略して語るのがいいっていうから、オレも真似してみることにしよう。異世界の回想記をなろう連載風に書くという新たな試みだ!
オレが転生した異世界は、まあ普通のナーロッパ、魔法システムだけなんかちょっと独自性を出してるらしく、物語を信じる心が魔力になるという。どうすりゃ信じてる判定になるのかは謎だが、この異世界の連中は、魔力が使える=何かの物語を信じてる、って思うらしい。
そんなの、物語を信じるならオレに任せとけって感じだ。
通勤、昼休み、仕事の暇な時、帰ってきてから、ひたすらなろうを読み続けたこのオレに死角はない! しかも実際に転生してんだから、信心っていうならマックスだぜ!
スタンダードな王道チートハーレム、影の実力者系、内政系にスローライフ系、悪役転生に職業モノ系無自覚無双系、ありとあらゆる転生モノを読み続けてきた。それだけじゃない、六歳の頃からジャンプもマガジンもサンデーも読み続けてるし、アニメだって毎クール十本近く追いかけてる。それらを信じてるか? と言われりゃ疑問符は出るが、今は魔法が使えてるから問題ナシ。
しかもオレが使うのは、この異世界の魔法のスタンダードとは違う、オリジナル詠唱の、オリジナル魔法……という体で、色んな作品からパクりまくり! 異世界にはJASRACも特許庁もないからよぅ! 好き放題やらしてもらったぜぇ! こっちは異世界に転生して恥ずかしくもねえからさぁ! 中二詠唱も絶叫できるぜぇ!
まあそんなわけで、オレは十四才の誕生日を迎えると共に、生まれ育った故郷の村から、冒険者を目指して旅立ったのだった。
旅立ちの日、父さん母さんは涙ぐみ、幼なじみの美少女はいつか私も追いつくからね、と涙ぐみ、学校の女先生はいつか勇者になって先生を迎えに来てね、と涙ぐみ……ハイ、そういうことは一切ありませんでした。
地球では十七歳だったから精神年齢が合わなさすぎて村では友達が一人もできなかったし、両親は手がかからなさすぎるオレを不気味に思っていたから村を出ると聞いてホッとしていたし、学校の先生にいたっては地球知識で間違いを指摘しまくっていたし村長との不倫を面白半分で暴露してたから、オレが村から出ると知って飛び上がって喜んでいた。クソわよ! 誰が悪魔の子じゃい! オレが勇者になったらこんな村燃やしてやっからなバーカバーカ!
と、ぼっちの逆恨みを胸に灯しつつ、でもハーレムに加えたい面々は結構いたなあなんて考えつつ、オレは村を後にしたのだった。
王都への旅路、オレはワクワクしっぱなしだった。
いつ、貴族のお嬢様or追放された姫君or新米女冒険者が、山賊orゴブリンorオークに襲われてるところに遭遇するイベントが起こるのか──もう待ちきれなかった。
オレは颯爽と助けに入り、圧倒的な力で敵を瞬殺、そして……個人的には黒髪ロングツインテールお嬢様が希望なのだが、金髪ツンデレ姫も捨てがたい。暴力系ヒロインってことで感想で結構ヘイトが高まる系の。そういうのを、ね、こう……あ、でもこの異世界のイロハを教えてくれるガイド兼ハーレム要員ということなら、新米女冒険者も捨てがたいよね、赤髪ショートの筋肉質なのをちょっと気にしてる系の。
そして道中は平和に過ぎた。
何の事件も起こらず、お嬢様の悲鳴や、護衛の雄叫びが聞こえることもなく王都にたどり着くと、オレは気付いた。
そうか、オレはそもそも、チートなし転生だった。
異世界に来るにあたって、女神やその類の連中から何かのスキルをもらったりはしてない。そもそもこの異世界だって冒険者って職業はあるものの、レベルやらジョブやら、いわゆるゲーム風システムはない。ステータスも開けない。
となると……マズいかもしれない。
この異世界……異世界はホントは辛いよ系、の可能性が……?
現代人が中世に転生したらすぐ死ぬに決まってんじゃん、勇者なんて魔王を倒したら権力者側に暗殺されるに決まってんじゃん、弱い敵を倒して実力が上がるわけないじゃん、みたいな世界観の……? ここまで主人公たるオレになんのイベントも起こらないとなると、その可能性が高いのでは……?
となると、オレは、ハーレムを作れない……?
いや! 諦めたらそこで試合終了だ!
オレはハーレムを、絶対に諦めない!
正妻ポジションには栗色ロング編み込みヘアのレイピア使い活発美少女剣士(料理バッチリ)と黒髪ロングツインテの火炎系魔法の天才清楚お嬢様(料理を作ると紫のぐちょぐちょになる)を構えつつ、お嬢様を追ってきた胸をサラシで潰してる系金髪高い位置のロングポニテ気高い女騎士(恋愛経験皆無)に薄い本が分厚くなる大切な役割を担うマッドサインティスト気質のピンク髪二つお下げの錬金術師ロリ(実年齢三百歳外見十歳)に加えてこれまた薄い本を厚くするお嬢様の母親(泣き黒子二つ)も家を飛び出しやってきて人妻要素もカバーした上で忘れちゃいけないエルフの銀髪ロングクール系姉と金髪低い編み込みポニテ妹の姉妹を組み込みさらにあー!のじゃロリ魔王と勇者崇拝女僧侶を忘れてた!鉄板過ぎて獣人奴隷少女と東洋系女侍も忘れてるし!くそ最初から妄想やり直しだ!
オレにはハーレムを作る実力が、ある。
魔力は世界一だし、体も鍛えて剣も使える、細マッチョのイケメン魔法剣士冒険者なんだ、今のオレは。何が何でも絶対にハーレムを諦めないし、オレなんかやっちゃいました? と言うのも諦めない!
そんな野望を胸に、オレは起こるであろうイベントに備え身構えながら冒険者ギルドの扉をくぐり……
なんのトラブルもなく冒険者登録できてしまった。
併設されてる酒場に行ってみたりもしたのだけど、何も起こらなかった。剣呑な目付きをしたモヒカンやスキンヘッドのパイセン冒険者はいたのだが、オレが新人と知るや否や! オススメの採取場所を教えてくれたり中古だけど気軽に使えて役に立つキャンプ用品を無料で譲ってくれたりした。すごい親切。いい人。
…………こいや! もっとこう、ストレスを発散させられる形で新人に絡んでこいやパイセン冒険者やろ!? ワシ飲みたくもないミルク頼んで飲んでんねんぞ!? くっさ! ヤギのミルクってこんなくっせーの!? 初めて飲んだわ! ちょっと好きかも!
だが、どれだけ異世界の現実がオレを叩きのめそうとも! オレは絶対にあきらめない! 恋人はおろか、友達さえ一人もいなかった地球での人生のツケは、異世界に払ってもらう、いや払ってもらう義務がある! オレはバカだからわかんねえけどよぉ、なろうにはそう書いてあったしさぁ!
と、まあ……オレの冒険の始まりは、おおむねこんな風だった。
今思い返してみるとわかるが、当時のオレは、何もわかってなかった。異世界を、異世界の人々を、自分を、そして……自分が本当に欲しいものを、呆れるぐらい何一つ、わかってなかった。
◇◆◇ あとがき ◇◆◇
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