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【監禁配信】記憶喪失の僕、魔法習得しないと部屋から出られません【視聴者1名】   作者: 阿野二万休
第七章 死と光

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02 確保

 事象庁異説局対応部はその日、無人だった。


 ルフィアが鍛え上げた地球人の魔法使いと騎士たちが所属する対応部。本来Opus(オーパス)と呼ばれる、魔法使いと騎士のペアで構成された全十二組二十四名の特殊戦術部隊が、ビルの三フロアを占有する訓練施設で日夜、特訓に励んでいるのだが……その日はまったくのもぬけの殻で、フロアはがらんとしていた。




「ゼロの参加はナシだ」


 新宿駅南口広場、壁に背中を預け待ち合わせを装う地味なスーツ姿のOpus.01、魔法使い、コードネームα1(アルファ・ワン)が、スマホに向けて言った。


「ええ!? 来ないんですか!? そりゃまた、なんで? 俺たちよりずっと強いんでしょ?」


 服屋の前の階段に腰掛けたヒップホップファッションの青年――Opus.01の騎士、Ω1(オメガ・ワン)がスマホに向けて答える。


「おいおい、栄えある初の実働をガキンチョどもに邪魔されてもいいのかよ?」


 階段を登った改札前で競馬新聞を読んでいるα2。


「内調上がりはさすがですね、子どもの人権を気にしないなんて、頼もしい」


 喫煙所の中、手帳に目を落としているΩ2。


「この期に及んでまだおまわりさん気取りの公安上がりには負けますよ」

「そーそー、今更遵法精神持ち出して、ばーっかみたーい」


 観光客風のα7と地雷ファッションのΩ7。


「まあまあ、なんにせよ相手は一人でしょ?」

「いざとなったらぶっ殺していいんだし、べっつに私たちだけでもよかったんじゃない?」


 水商売風のα11とΩ11。


「あのさあ、あんたらさあ、一応ちょっと前まで警察だった人間の前でさあ、そういう会話、やめてもらえませんかね」


 階段の脇でタブレットを見ている若い刑事――早乙女は、ため息混じりに言った。


「すまないね早乙女さん。コイツら、訓練のし過ぎで少しばかり、ネジが緩んでるんだ」


 近くに止めてある、一見引っ越しトラック風の指揮車の中、ルフィアは言った。


「それから、Ω11。事前ブリーフィングの通り目的は生け捕りだ。ヤツがどこから来たのか、何が目的なのか、それを探る。対象がこの場で無差別大量殺戮魔法を使おうとでもしない限り、殺害は許可しない。いいな?」

「はいはーい」


 上官からの命令に対する返答とは思えない返事に、早乙女は少し、目を回した。


「あのー、僕の安全確保とか、あの、一応、お願いしますね……?」


 Opusたち、そして早乙女の中央に位置して、待ち合わせのためわかりやすくピンクのポロシャツを着た荒巻は、弱々しく呟いた。





「魔力反応感知。目標、改札口に来ました。あと数十秒で通過します……十中八九、変身系使用中かと」


 α2の言葉で、全体チャンネルが一瞬にして緊迫する。


 改札口にスマホを押し当て通過してくるのは、スーツ姿の女一人。年の頃は二十代中盤。しっかりとした足取りで改札を出て、南口駅前広場に向かっている。


「階段通過」


 学生服を着たα3が襟元のマイクに。


「広場到着……マルタイを探しています……」


 パンツスーツのΩ5。


「今、両者認識」


 α1。


「両者接近……」


 Ω7。


 互いを目的の相手だと認識した両者が歩み寄っていく。荒巻は、恐怖を笑顔の中に押し込み、握手を求めるように手を差し出している。それを見た女もほほ笑み、彼に歩み寄り、そして。


「作戦開始」


 ルフィアの声が響き、Opusは詠唱を開始し、呪文を飛ばす。


まことに私は言う(AMEN)。あなたがたは、あすのこともわからぬ身なのだ。あなたがたのいのちは、どんなものであるか。あなたがたは、しばしの間あらわれて、たちまち消え行く霧にすぎない。【|不可知の霧中《Spirited Away》】〉

〈だーかーらー! お母さん、何度言ったらわかるの!? しゃべんなっつってんの!【私語禁止(おしゃべらせず)】!〉

(いまし)めろ、禁譴咎鎖(きんけんきゅうさ)……【五鎖九譴(ごさきゅうけん)

〈Oh what a day, What a lovely day!【|Good Day Sunshine《知らんけど》】〉


 各々の信じる物語が導き出す詠唱と共に、容疑者に向け、動作、発声を禁じる呪文が飛び、そして彼女を、何が起ころうが魔力を持たない人間には認識されなくなる白い霧が包む。さらに陽光が辺りを照らし、照らされた非魔法使いはしばらくの間、何が起ころうともたいして気に留めなくなる。


 呪文をかけられた女は一瞬だけ驚愕に目を見開き、駆け出そうとしたのだろうか体を強張らせ、口を開こうとしたが――停止呪文の影響を振り払うことはできなかった。同時に荒巻は早乙女と目を合わせ、女に駆け寄る。


 しかし、その間もOpusたちの詠唱は続いている。


----------


展開(EXPAND)

|現実位相関数《REALITY_PHASE_FUNCTION》

固定(SET)

|騎士観測点《KNIGHT_OBSERVATION_POINT》

待機(STANDBY)

|古典位相特定《IDENTIFY_CLASSICAL_PHASE》 (BECOMES)| 未定対象《UNDETERMINED_TARGET_STATE》

干渉(INTERFERE)

巨界(MACRO) |↔《ENTANGLED_WITH》 微界(MICRO)

待機(STANDBY)

|観測強制執行《FORCE_EXECUTE_OBSERVATION》

準備完了(READY)

|魔力波動関数崩壊《MAGIC_WAVEFUNCTION_COLLAPSE》


    ----------|騎士係数《KNIGHT_COEFFICIENT》= 0.120159

    ----------|状態:実行待機中《STATUS: STANDBY》


現実への収縮(コラプス)・|実行待機《AWAITING_EXECUTION》】


----------


 あらゆる古典魔法を打ち消し、消滅させる量子魔法第一呪文【現実への収縮(コラプス)】。八組のOpusがその実行待機状態へ。猫が、幾重にもあらわれる。二四式(ニイヨンしき)関帝猫(かんていびょう)、ピート、にゃらぐじさま、珍底羅大将(チンチラ)、バロン・ジジ、歩く=猫、ガムのやつ……それぞれのOpusがそれぞれ名前をつけた猫、バグぴとアマネによる名前はベインブリッジのあの猫が、八重に出現。ルフィアでさえその光景を目にすれば困惑する、八重に重なりながら、まるで残像を実体化したかのように動く、現実世界におけるバグのような猫は、しかし、ガリガリと植木で爪を研ぎながら、あるいは人の靴に小便をひっかけながら、高次元図形による魔法陣を瞬間で空間へ投影。揺らめく明かりを周囲に投げかける。量子魔法は騎士に観測され、その現実化を待っている。魔法使いと騎士は同種の明かりに包まれ、辺りに不可思議の輝きをさらに足す。通常なら即座にスマホで撮影されネットの海を駆け巡っているであろう、新宿駅南口広場にあらわれた不思議の光景は、しかし、事前に唱えられていた魔法により、誰からも疑問に思われることなく、当たり前の光景として受け入れられた。


「確保ッッッ!」


 年嵩の刑事――荒巻が、声も動きもなくした女に飛びかかる。大外刈りの要領で地面に転がし、押さえつける。駆け寄った早乙女が、足を、手を、口を拘束する。


「確保ーーーッッッ!」


 勝利の雄たけびのような声が響くと、Opus以外の人員が女を持ち上げ、ムリヤリに運び、待機する指揮者の中に投げ込む。


 最中、女は身じろぎ一つしなかったし、声の一つも上げなかった。すべては魔法により封じられているのだ。


 だがどうしてか――


 彼女の姿を目にしたルフィアは、捕まえた、とは思えなかった。むしろ、捕まえられた――どうしてか、そう思ってしまった。女の目が、そう言っている気がしたのだ。突如動きを封じられ、詠唱も禁じられ、束縛され車に放り込まれ、しかし女の顔には恐怖も、動揺も、一つもない。どこか大理石やステンレスを思わせる硬質な表情を張り付けたまま、見ているのか見ていないのかもわからない視線を、ルフィアに向けている。そして、その顔が徐々に、霧が晴れるように新たな顔になる。変身魔法を解いたのだろう、元の顔。




 傷。


 異世界最悪の魔法学者、ダークエルフの忌み子、勇者の側近、ラプラシア。


 その本人に、間違いない。




「……なぜ変身を解いた?」


 ルフィアが問いかけるが、ラプラシアは答えない。ただ無表情のままルフィアを見上げるのみ。だが、どんな状態であれやることに変わりはない。


「洗いざらい喋ってもらうぞ……出してくれ」


 言葉と共に、指揮者は事象庁へ向けて走り出した。


「目標を回収。全Opus帰還せよ。作戦は成功だ……早乙女さん、荒巻さん、お疲れ様です」




 インカムからそう言われ、へなへなその場に崩れ落ちた荒巻。早乙女は、その頭を小突き、ムリヤリ立たせる。


「なっ、なんすかぁ、成功したんだから、ちょっとは気を抜いても」

「いや」


 無表情に、早乙女は首を振った。


「たぶん……こっからが、長いぞ」


 悪いやつを捕まえる仕事の半分以上は書類仕事なので、捕まえてからの方が大変な場合もある、ということであったし……悪いやつが大人しく捕まった時は、もっと悪いことを考えている場合がある、ということでもあったが……本人にも、理由はよくわからなかった。


 ただ、思ったのだ。


 ここからだ、と。


「……デカの勘、ですか?」

「経験則……ま、勘だな」

「……勘、かぁ……勘……はぁ……スカウトなんか、されるんじゃなかったかなあ、いつになったら僕らは、定時で帰れるようになるんすかね?」

「ま、公務員でいるウチは、ムリだろうな……」

◇◆◇ あとがき ◇◆◇

ここまで読んでくださりありがとうございます。

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(全部でなくても一つでも超うれしいです)

では、また次の“配信”でお会いしましょう!

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