02 監禁配信を見ているのは
「……………………だから!!! なんでなんだよ!!!!!!」
スマホから響いた憤怒の絶叫。アマネはベッドの上で身を捩らせ笑った。
〈【監禁配信】記憶喪失の僕、魔法習得しないと部屋から出られません【視聴者1名】 が、始まりました!〉
高校二年生、夏休み三日目。織音アマネ十七歳。本当なら友達と映画を見に出かけるはずだったけれど、運悪く予定が流れてしまった。仕方なく、家で勉強でもするか、と思って三十分後、スマホに届いた謎の通知。
こんなチャンネル登録したっけな? と思いつつなんとなくタップしてみると、視聴者は自分一名、チャンネル登録者ゼロ名。となるとスパム広告的なやつかな? とも思ったけれど、外部サイトに誘導はされなかったのでそのまま見てみる。
すると……面白かった。
どうやら帰れません系の企画……の、モキュメンタリー的な何かのようだけれど、窓もドアもない部屋に閉じ込められている……という設定の配信者の反応が、いちいち生々しくて、おかしくて。
……AI役の人も結構いい味出してるなー。あはは、AI音声がちょっと悪そうな感じで「マジで」って言うだけで面白いし、その後のジョブスのマネもいいし……。
視聴者が自分一人の配信でコメントを投げ、過剰反応されるのも鬱陶しかったから控えていたけれど……AIに色々尋ねつつノートPCを開き配信画面を見る配信者、少年の顔が面白くて……ま、いっか、とコメントを打ち込む。
:視聴者です!これから期待してます!
まあ、同時視聴一人の配信に打つならこういうのだろう、というような文字列を送信すると、また少し笑ってしまった。ワンテンポ置いて少年が飛びはね、殺したはずの相手の声が聞こえてきたかのように辺りを見回し、ぶるぶる震えたのだ。
:www
その様子でまた笑った。ちょっと咳き込むぐらい。いつか見た、母親の料理のワンシーンが頭をよぎったのだ。生きたまま料理酒に漬けられるエビの暴れっぷり。
「きっ! 聞こえてるんですか!? 見えてるんですか!?」
声は驚愕に満ちていて、到底演技とは思えない。配信チェックも設定に絡めていて好感が持てる。
:音声、映像、両方バッチリですよー
「……いや、そういうことじゃなくて、えーと……」
:チャンネル開設したばっかりなんですか? チャンネル名表示されてないんですけど、そういう名前? No Name的な?
一番気になっていた点を聞いてみると、少年は訝しげな顔をした。配信画面は三つあって、部屋の全景、少年の全身を横から、そして顔のアップがあって、ばっちりわかる。かなりお金がかかっている配信のようだ。映画やドラマのプロモーションだろうか。
「チャンネルって……おい、ちょっと待った、AI、まさか君、配信って、Youtubeでやってんのか!?」
「Twitchとか17Liveとかの方が良かったですか?」
「ちげーよ! こんなの……いや……くそ……そうか、試せってことか……?」
「さて、どうでしょう」
少年は部屋を見回しため息をつき、ノートPCを真剣な顔で見ながら言った。どこか柔和で大人しそうな顔つきには、あまり似合っていない真剣な表情だ。
「なあ、あの、リスナーさん、ちょっと、よく、聞いてほしいんだけど、これ、マジのやつなんだ。僕はマジで記憶喪失で、マジで気が付いたらこの部屋に監禁されてるんだ」
:あ、大丈夫ですよ、最初から見てたので設定はわかってます
「……っスーっ……うん、うん、だろうね、だろうと思うよ、僕もそう思うと思うよ、しょっぱい企画だなあ、自分を奇才と思ってる学生がやりそう、とか思ってたと思うよ、うん」
ガシガシと頭を掻いて難しそうな顔をする少年に、また笑みがこぼれた。今度は少し、称賛の気持ちも交じる。本当に、演技が真に迫っているし……状況を設定だと知っている視聴者と、本物だと思っている配信者(という設定)、の、すれ違いコントみたいなことを楽しむ配信なのかもしれない。だとしたら企画した人はすごく頭がいい。これはたぶん、かなりバズるポテンシャルがある。思わず共有ボタンをタップしそうになるが……どこにも、ない。
「でも、その……違うんだよ……なんて言ったらいいか……URL、そうだ、配信のURLどうなってる?」
アドレスバーを見てみると……何も、ない。
:なんか空欄です……友達にもここ教えたいんですけど、どうすればいいですか?
その時、AIがことさら優しげな声で言った。
「アマネさん、試しに色々とやってみると、彼の言っていることが、わかると思いますよ」
ぞわッ。
配信画面から突如、自分の本名を呼びかけられ一気に背筋が凍った。ブラウザを閉じなければ、と思ったけれど、凍った指は動かなかった。
画面の中の少年が、じっとこちらを見ている。
それから、数十分。
◇◆◇ あとがき ◇◆◇
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では、また次の“配信”でお会いしましょう!