『なつ(夏)という名は、』
――この章で初めて『なつ』という名前が出てきます。――
晴れて猫は家族になることが決定した。
手放した時は異なり、猫を引き取りに行く運転は軽快だった。
(1週間ちょっとだからそんなに変わらないと思うけど、流石に自分を覚えているだろう)
鼻歌で「僕の猫~♩僕の猫~♩僕の猫が戻ってくる~♩」とセンスのない歌詞が響く車内。
親戚のおばさんにあったらなんて言われるだろうと少し不安だった。
その心配はほんとに杞憂だった。おばさんから、
「取り戻しに来ると思ってたでー。だって、めっちゃ猫の事を面倒見てたから。」
心を見透かされてしまったが、笑顔で「すみませんでした。」とおばさんに謝った。
一方「うちの猫」はというと……
自分を見るなり走って逃げる、二階に兎みたいに飛び跳ねて階段を上がっていった。
(あんな感じだっけ、あれ?あれ?) キョトンとする自分。
そしてもう、ミルクを卒業して猫缶を食べているらしい。
さらに、あんなに難航していた「一人(匹)でトイレ」も難なくこなしているとのこと。
(俺がやっていた、大変だった事って一体……何だったのか?)
おばさん曰く、教えてくれる相手の猫がいると吸収が早いそうだ。
というわけで、再度の引き渡しの儀が行われる。
猫の面倒を見てくれた、この家の主(猫)「ぽんちゃん」にもお礼の頭ナデナデをする。
暴れる猫を木の籠に入れ、それを洗濯ネットで包んだ。
(あのー、本当に預けた猫と一緒なんだろうか?) 何度も思う。
一緒に、猫砂で満たされたプラスチック製の「猫用」トイレをプレゼントされる。
最後に親戚のおばさんから一言、
「名前は『なーさん』やから名前だけでも引き継いでや!約束やで!」
めっちゃ変な名前だが、半笑いで「あ、はい」と了解してしまった。
自宅へ向かう車の助手席には家族になった猫がいるが、
はちゃめちゃに怒って暴れている。行きと違って鼻歌も出ない……
「大丈夫かこれ?いつになったら懐いてくれるんだろう?」
猫を取り戻したのは嬉しいのだが、今はため息しか出ない……
家に着いても、カンガルーのようにピョンピョン飛び跳ねている。
(大家さんがこの状況見たらなんて言うだろう。「出てって下さい」だろうな」
そんな中、夜に妻は急ぎ足で帰ってきた。
笑顔を浮かべながら「どう猫は?」
自分は苦笑いを浮かべながら
「いや、どうもこうもない。見た通りだよ」
めっちゃ妻に敵意剥き出しで、背中の毛が逆だっていて戦闘体制になっている。
そんなことお構いなく妻は猫を追いかけ回して遊んでいる。「猫待てー!」
早速本題を妻に言う、「名前なんだけどおばさんが『なーさん』にしてだってさ」
「えー!変な名前!呼びにくい!『なっちゃん』でいいじゃん『なつ』が本名でさ!」
あっという間に妻がアレンジした名前に決まった。名前は『なつ』漢字で『夏』。
ただおばさんの意向もあったので「なつ」というひらがな文字を基本としている。
ようやく「なつ」と自分との長い日々が今日から始まることになる(第2章終わり、第3章へ続く)
第2章はep7で終わりです。第3章では「なつ」が亡くなった日の前後の作者の気持ちなどを描きます。