『君を手放した夜...』
――この章では『なつ』ではなく『猫』と表記しています。理由はep2に書いてあります――
「ブーーーン!」
今、自分は猫を車に乗せて実家に向かっている。猫を里子に出すためだ。
土曜日だと言うのに、妻は出勤日。自分と猫だけのドライブ...
茶色の木の籠の中に君はいる。静かだけど、今は寝ているのかな?
なんか、自分の心は晴れない感じだ。
たんたんと運転していきながら色んな事を考え始めた。
(この子にとっては、良かったんだよね?)
(ちゃんと世話してくれる人がいて、猫も1匹飼っていて仲間もいるしね!)
(ただ...でも... 自分にとっては...どうなんだろう?)
モヤモヤとした気持ちのまま実家に到着。
うちの母が駐車場を開けて待っていてくれた。
ちなみに母は動物が基本嫌いだ。「実家で飼ってくれ」と言った時もダメ!の一点張り。
猫は実家の匂いに警戒しながらも、元気にはしゃぎまくる。
(まぁ、何も知らないから元気なんだよね。今日でお別れなのに...)
(知らない人ではなく、自分の親戚だから絶対会えないという訳ではないんだけど...)
だんだん、親戚の家に猫を連れ行くと言った時間が迫ってくる。
普通は最後だから、猫と一杯遊んであげるものだろうけどそんな気持ちになれずにいる。
出かける前に最後になるだろうミルクを猫にあげる。
「チュー!チュー!ゴク!ゴク!チュー!チュー!ゴク!ゴク!」
生後1ヶ月ともなるとミルクを飲む量も結構増えてきた。
(昔は、吸う力が弱くてスポイトで給餌していたくせに!こいつめ!)
お腹いっぱいになった猫を撫でてあげるが、素直に可愛いと喜べない ...
(3時間毎のミルクもこれで終わりかー。ホッとしたような、寂しいような...どっちだろ?)
自分と母と猫を乗せた車は、親戚の家へと走っていく。
ものの15分位の距離...もっと長ければいいのに...そんな気持ちのまま親戚の家に着いた。
親戚の叔母さんが出迎えてくれた。母とは仲が良く下の名で呼び合う関係。
「なんや、早かったなぁ。猫は元気にしてたんか?」
と自分に聞いてきた。
実は、2週間位前に顔みせで1回猫と叔母さんは会っている。
その時の猫はあかんたれで、先住猫「ぽんちゃん」にビビッて自分の足の下に隠れまくっていた。
「今体重520g(拾った時95g)でミルクも一杯飲むし、うんちおしっこもちゃんとしていますよ。」
毎日付けてた猫生活記録表の内容も伝えた。
「もう、一人でおしっことかミルク以外の食べもんも食べられるようになるわ!」
本当に、気風の良い叔母さんです。なんか、猫を託すには頼もしい限りです。
さっそく、先住猫「ぽんちゃん」に猫を引き合わせた。
前回と同じく、「とおちゃーん、こわいよー」って感じで猫は自分の足元に隠れる。
「そんなんでどうする!はい、ぽんちゃんが先輩だぞ!仲良くしな!」
と、猫を足の下から「ぽんちゃん」と親戚の叔母さんの前に抱っこして置いた。
(なんか、これって昔見た「あらいぐまラスカル」の最後のワンシーンみたいだな。)
これで、猫の引き渡しの儀は終わり。あっけないものである。
(自分の下に隠れてあんなに行くのを嫌がっていたのに、もっと嫌がってくれれば良かったのに...)
自分にとっての大きなイベントが終わった。
母を実家に送り、自宅へと車を走らす。
高速道路に乗れば、ほんの1時間で着く距離...
夜の高速を走りながら、涙がポロポロと出てきた...
(自分が育てたのに...あんなに一生懸命育てたのに..あんなに可愛かったのに...)
涙で、高速道路や対向車のライトが滲んで見える...
(明日から猫がいない毎日に戻る..日中はまた自分一人の日常が戻る..)
ただただ、寂しくて、そして悔しくて、自分の無力さに怒りが沸いてくる...
(もっと、自分の心に正直になれたらいいのに...自分はそんな事さえ出来ないなんて...)
たんたんと運転する自分、たんたんと走る車、行きよりも軽くなった木の籠を乗せて...
色々な思いを錯綜させて自宅に戻る。その夜はほとんど眠れなかった...(続く)
第2章は『猫を拾って育てる』『猫を里親に出す』『その結果は・・・』といった感じで続きます