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『その日は突然やって来た……』

――『なつ』という名は、赤ちゃんから17年間自分が育てた猫の名前です――

その日は近所の動物病院の待合室で、『なつ』のお薬が出来るのを待っていた。


隣に座っている女性が小さな猫をケージに入れて()っていたので、ちょっと声をかけた。

「可愛いですね。何歳ですか?」

「3歳なんです。病院が嫌いで結構嫌がっているんです。ビビりなんで(笑)」

「同じですね!うちも同じくビビりなんですよ!(笑)」


(診察も尿検査も終わり、後は薬を(もら)ってなつと一緒に家に帰ろう!)

と思っていたその時、妻が泣きそうな顔をして駐車場から待合室に駆け足で入って来た!

「なつが息をしてないみたい!!すぐに行ってあげて!」

頭が真っ白になりそうな言葉を聞き、慌てて車まで走った!


後部座席のドアを開け、急いでなつが入ったケージを開いた!

「なつ!なつ!動いてくれよ!」

なつはぐったりして動かない……

息をしているか、なつの顔に近づき呼吸を確かめる。

「息をしてない……まさか……」

焦って何をしたらいいのか考え、なつの口をこじ開けて口の中を見た。

「え!?」

舌が上顎(うわあご)にぴったりくっついて、気道が確保出来てない……やはり息をしてない……

(どうする?人工呼吸か?でも、猫に対しては強さ加減も分からない……)

焦りと迷いの中、大声で妻に

「動物病院に状況知らせて!」

蘇生術(そせいじゅつ)も知らない自分は、なつの身体を摩って(さすって)あげる事しか出来ない。


大変な状態のなつに、何もできない自分の未熟さを責め

(なんとかしなきゃ!)

という気持ちに押しつぶされそうになる

ここでなつとお別れなんて、「さっきまで生きていたじゃないか!!」

なつに対して叫んでいると、妻が病院から戻って来た。

「すぐに先生が()てくれるって!

看護婦さんが、なつを早く連れて来て下さいって!

だから、早くなつを運んで!」


まだ望みはあるかも……

だけど、望みは小さい……

動かないなつを()(かか)え病院の中まで急いで走り、

看護師さんになつを渡して待合室で待つ事になった……

待っていた時間は何分位だったかは覚えてない……


その時は、走馬灯(そうまとう)のように朝からの出来事を思い起こしていた。


 朝4時に起きた後に……

 歩けないなつをトイレまで運ぶ……

 なんとかオシッコをさせる……

 やはりまだ、血尿が出ている……

 尿検査の為なつのオシッコを(びん)に入れる……

 朝ごはんを嫌がって食べてくれないなつ……

 水も飲んでくれないなつ……

 (この状態でなつを病院に連れっていいか?)と悩む……

 お薬もどうしたらいいか分からず先生に相談しなくてはいけない……

 (どうする……)

 (どうしよう……)

 (なつを直接連れて行かないときちんとした診断も出来ないな)と思い……

 (やはり、病院に連れて行こう!)と決意した……


ここまで思い出し、ふと今に意識が戻る……ここは待合室だ……

(ああ、こうやって自分が出した決断で、今この状況になっている……)悔しさだけが残る……

(なぜ診察でなつの触診(しょくしん)が終わった後に、妻となつを先に家に返さなかったのか……)

「早く家にかえりたいよ!」となつは思っていただろう……

(なつの為に決断をしていれば、こんな事には……)

自分は取り返しのつかない事をしたと、(なつごめんね)……


そんな思いを(めぐ)らせていた時、看護師さんから

「中に入ってください!」

と言われ、妻と急いで処置室に入る……

ショックすぎる光景を見た時に自分は言葉を失った……でも涙はまだ出なかった……

医療ドラマでも見ているかのような光景が目に入る……

「グッ!グッ!グッ!グッ!」

先生が何度もなつの心臓を押してマッサージをしている……

心電図は心臓を押す度に

「ピコーン!ピコーン!ピコーン!ピコーン!」

と波を描いている。

なつは酸素吸入(さんそきゅうにゅう)マスクを口にかぶっているが、目は開けてない……

あれだけきつく心臓押されているのに、手も足もピクリとも動いてない……

処置室で奇跡が起こっているかも?と僅かな(わず)期待を持っていたけど、この様子を見て

(やはり、ダメだったか……)と思った……


先生がなつの心臓マッサージを続けながら今の状況説明を、自分と妻にしてくれました。

「なつちゃんの心臓が止まっていたので注射をしました。

こうやってマッサージをしている時だけ心電図が動きますが、

マッサージを止めると動かなくなります(心電図が波から線に変わる……)

心臓が仮に動いてももう脳死状態(のうしじょうたい)だと思います。」

それを聞いて妻が泣き出した。

自分は涙をこらえながら先生に言いました。

「無理って分かりましたので、もうこれ以上の処置は結構です。

最後なつに懸命(けんめい)な処置をして頂いてありがとうございました。」

心臓マッサージを止めた先生は言った。

「なつちゃんは最後まで良く頑張ったと思います。

何度も治療や投薬(とうやく)を乗り越えてしっかりと生きていたと思います。

この度はお悔やみ申し上げます。」

妻がなきじゃくる中、心電図が線だけになり

「ピーーーーーーーーー!」

という音だけが処置室に鳴り響いていた……


自分がなつと過ごした日々は、今日で終わりになった……


今日「2025年3月1日土曜日」なつが亡くなる……

家族になった日は「2007年10月14日日曜日」……

妻が拾って来た日から換算(かんさん)して17年4カ月16日の生涯……

両方の日は自分にとって忘れられない日になった……忘れようがない…………

――次の章は「2007年10月14日」になつを拾った時のエピソードが中心です――

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― 新着の感想 ―
こちらの物語はありのままの現実と感情の記録です。そのため文芸的評価とは違った意味で、極めて深く、読む人の心に届く力があります。 特に印象的なのは、「なつ」の死の瞬間に立ち会った描写です。マッサージに…
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