story ‘’ 1‘’
廊下を歩きながら,さっきのクラスメイトの言葉を思い出していた。
あざとい?
計算?
なんとでも言えばいい。
そう,私がここまで来るのにどれだけ努力したのかも知らないくせに。
私の『可愛い』は絶対的に正しいから!
彼女はしっかりと前を向いて,歩いて行った。
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放課後になり,瑠七は教室へと戻った。
(このポスター,ちょっとダサくない?)
何かに気がついたのか,壁を見ていた彼女は保健委員が作り,貼っていたポスターに,
何かを書き足し始める。
しばらくして,彼女のクラスメイトである龍乃介がやってきた。
龍乃介は一匹狼な上にクールで冷たい印象を受ける容姿をしていることから,一部の女子を除いてからはあまり話しかけられず,かと言ってうるさい男子に加わるでもなくゲームを誰かとするところも。
クラスの誰も見た人はいなかった。
そんな龍乃介は彼女の姿を視界に認めてー壁を二度見した。
そしてポスターが瑠七に加工され始めていることに気がついた。
龍乃介は焦ったように,
「ちょっ,お前何やってんだよ!」
と瑠七に声をかけた。
一匹狼である龍乃介が自分から彼女に話しかけたのだから相当焦っていたか,動揺していたかだろう。
初めて龍乃介に気がついた瑠七は顔を上げて一瞬だけ龍乃介を一瞥し,ポスターを満足げに眺めて
「何って,可愛くしてるんだよ?」
と龍乃介に笑顔を向けた。
「はあ!?そのポスター,保健委員の俺が作ったんだけど!」
驚く龍乃介に動揺されず瑠七は,
「だって,ここ私の席だし。ってことは,私に背景になるんだよ?」
背景まで可愛くしたいもん〜,と手を胸の前で合わせて,うとっりとする。
「今のままじゃポスターもかわいそう」
クールな龍乃介もこんなことは言われるとも思わなかったようで,案の定
「はあ!?」
と青ざめる。
龍乃介がどんな表情をしているかも気づかずに瑠七は,
「ほら。」
と言って自分でデコったポスターを持ち上げた。
「完成〜!」
そう言って彼女が見つめたポスターは,とても見やすくなっていたし,何よりもカラフルなペンで彩られて可愛くなっていた。
そんな彼女を見ていた龍乃介はふと口を開く。
「 …お前,友達いねえだろ。」
え,と瑠七が彼の方を向いた。
「そんなことないよ?クラスのみんな優しいし!」
一瞬言葉を詰まらせた龍乃介は我に返り,
「俺そういうの通用しねえから。」
と瑠七に冷たく吐き捨て,
可愛いで誤魔化されねえぞ。
とぴしゃりと言われた瑠七は,すっと龍乃介から視線を外した。
でも,すぐに龍乃介の方に向き直り元気に
「じゃ,私帰りま〜す!」
と立ち上がる。
でもー,
龍乃介は彼女が自分から一瞬だけ,目を逸らして「あっそ。」と呟いたのを聞き逃さなかった。
「ポスターちゃんと貼っといてね〜。」
は,と龍乃介が驚くのにも構わずに龍乃介のそばを通り過ぎて教室の出口まで歩いて瑠七は振り向いた。
「おい,」
と龍乃介が声を掛ける。
それに反応するように,瑠七は
「可愛いって大事なことだと思うから。」
龍乃介の目を見て,はっきりと告げる。
それからくすり,と笑って踵を返して廊下に消えて行った。
ポツンと一人龍乃介を置いて行って。
だから。
「変なやつ…。」
と龍乃介が呟いたのも耳には入らなかった。