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長年霊媒師をやってますが、この亡霊は洒落にならない

作者: 久利栖 夕乃

 その亡霊は夜間、決まった時間に現れるという。


 大陸最大の街。そこにある商工業者からの相談だった。

 私は霊媒師として大陸全土を旅をしており、西欧諸国に向かう最中の依頼だった。

 夜間になると亡霊が現れるという話を聞いて待っていると、それは現れた。

 ガラスのように透き通った身体は青白く微小な光を放っており、光を当てると消えてしまいそうだった。


 甲冑と皮着で身を纏い、古い様式ではあるが旅装をしている。

 「お前は何者だ」

 亡霊は寸分とも反応せず、座して頭を垂れるばかりで表情さえ伺うことができない。

 目を鋭くすると、見たことない紋様が肌に彫られていることがわかった。

 「この国の者ではないな」

 かすかな反応があった。

 風の揺らぎのようにも感じる、毛髪や衣服が揺れる僅かな反応。

 彼は一呼吸ごとに唇を震わせて呟く。

 それは呻き声のようで、独り言のようだった。

 「何度も世界を救い、何度も滅ぼした。なにもなかった。なにもかも、手のひら、から、こぼれ落ちていく」


 じっとりとした空気が背中を湿らせる。

 不備さを感じた。

 転生者の存在は伝承に残るばかりで、その事例は極めて稀だという。

 世界を救ったというのは本当のことなのだろうか。


 「世界を救った英雄が、なぜそのような姿に成り果てておる」

 亡霊は相変わらず身じろぎひとつしない。しかし、語気は先ほどより力強くなった。

 「世界が、私を、手放さないのだ。この、星の魂でない。私は、死して、行き先が決まらぬ。永遠に」

 

 言葉の端々に特有のなまりを感じる。

 何故この場に姿を表したのか。そう疑問を思った時、彼は言葉を続けた。

 「私に、帰る場所は、ない。彷徨う。霧のように、紛れて、いたい」

 数ある魂の中で、これほど望みを持たないものを見たことがなかった。

 思念のかけらが残留することはある。

 それは執念ではなく、もはや呪いのようにひたすら渇きを埋めようとするものだ。

 彼はただ消えたいと言っている。消えることができないのなら、隠れていたいと。

 なんという悲しい亡霊なのだろうか。

 もはや私にはかける言葉が見当たらなかった。

 

 亡霊は静かに夜空を見上げている。

 星の巡りが、彼を再びこの世に写したのだろうか。

 太陽が妻を迎えるような、ギラギラとした月が爛漫な光を窓から差し込ませていた。

 

 伝承によると、新たな魔の王が生まれ出ずる時、偉大な英雄が誕生するという。

 彼が転生する時、どちらを選ぶのだろうか。それとも、選べずまた新たな形になるのだろうか。


 私は手を合わせ、ただ彼のために祈った。

感想や良いねをいただけましたら幸いです。

この他に、「少女が手にした古書、それは運命を変える魔導書でした」を投稿しています。

是非、読んでいただけましたら嬉しいです。

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