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ボタンを押すだけ

作者: 雉白書屋

 ――僕、何をしているんだろう。


 彼はふとそう思った。そして、視線を正面の壁から下へと移した。

 

 ――これ、何のためにやっているんだろう……。


 彼はそこにあるボタンを見つめ、今度はそう考えた。しかし、ボタンを押すその指は機械的な上下運動を繰り返し続けている。

 いったい、何のために。これまでも周期的にそう思うことがあった。何なんだ、この仕事は、と。


 ――そうだ、仕事だから押すんだ。


 彼は、なぜか納得した気持ちになり、再び正面の白い壁を見つめた。そこには汚れがなく、見つめているうちに焦点が定まらなくなり、やがて頭がぼんやりとしてくるのだ。

 ただ、今回は違った。ほんの僅かだが、黒い点があることに気づいたのだ。彼は目を凝らし、それをじっと見つめた。もちろん、ボタンを押す指は止めずに。

 黒い汚れ。あるいはそれは目の錯覚かもしれない。ただ、その一点を見つめていると、彼は川の中で岩を掴み、押し流されまいと留まろうとするような感覚を抱いた。

 そして、その溜まったエネルギーがついに彼の脳に作用した。


 ――やめてみよう。


 彼は両腕を下ろし、目の前の壁にある黒い点をじっと見つめ続けた。そうすることで、ボタンを押すことをやめたその気分の高揚と、押さなければならないという焦燥が収まる感覚がした。そして、次第に彼の意識は曖昧になっていった。

 それから、どれくらいの時間が経ったか彼自身にもわからない。

 ただ彼が仕事を放棄したことに気づき、翼を揺らして慌てて駆け付けた同僚の声に驚き、しでかしたと思うほど、それは長く、長く……。


「おい、何をやっているんだ! 地上じゃ今、人間があふれ返って大変なことになっているぞ!」

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