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帰らぬ

作者: 天やん

 街が小さくなってしまった。

 空は灰色、赤茶のサイディングの家、電柱から電柱の幅まで狭まっている。ミニチュアに紛れ込んだみたいだ。夏色だった風はすでに冷たく、秋という季節をスキップしてしまったようだ。

 車が一台側を過ぎると、どうしても道路端に身を寄せなければならなくなる。

 「こんな寂しい場所だったけな」また一台のクラクションを背後にして、実家へと足は向かう。プリウスが20キロオーバーで走っていった。住宅街の朝は忙しない。


 高校卒業後、15年、こ立派な会社の係長という役職についてなお帰らなかったこの街に、叔母の法事ということで帰ってきた。

 100万人に1人のラブソングでもなく、死神からのアイラブユーを受けた叔母は、若年性のアルツハイマーにかかり、そしてその後数年でこの世を去ることとなった。


「亡くなったのよ。希美さん」母はそう言った。

それについて驚くこともなく、ようやくか、と答えた自分がいる。

 自分は世話をしたわけではない。甥や姪から話を聞いて、そして解放されたのかと、感じた一言がそれだった。

 

 車通りが多い道だ。解放されるとはどんな気持ちだろうか。一歩右へとそれて行く。難病を抱えた家族、見知らぬ街に帰ることとなった自分、戻るところは全く異なるが、解放される気持ちとなるのは変わりがない。

 このまま自分は家へと帰ることとなるだろうが、故人はどこへいくのだろうか。遺族の慟哭はどこにこだまするのだろうか。そもそも慟哭もなく、ため息だけですむのかもしれない。

 涙を見るのか、嗚咽を聞くのかは明日の葬儀にしかわからない。これも年をとった証拠なんだろう。十年若ければ、想像し、わかっていた話だ。

 どんな顔をして親に会えばいいのかもわからない。無邪気さも消えたこの年齢で。帰らぬ人が帰ってきた気持ちなのか、帰らぬ人を送るための心持ちなのか。


 ミニチュアになってしまった街は心地悪い。自称すらできぬ自分は、どこへ行く。ただ秋の空には冷たい風が流れている。

 ああ、記憶と街はいつも違う。

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