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41.トロール戦・中編

 霧から姿を現したのは、超巨大なトロールだった。


 20m、いや、30mはいくだろうか? アランははるか天上を見上げて戦慄した。


「この大きさ......トロール族の族長か?」


 汗を垂らしながらヘンリーは言った。ルーナも一段と険しい表情を浮かべる。

 巨大なトロールはゆっくりと、下を向き、ルーナ達を見下ろした。


《......ワジを知っているノカ。チイさき者よ......ホぅ、エルフか。しかも二匹トナ。珍ジイ。特に気をつゲロと言われた『金獅子の団』......と言ったカ、確か多種族を受け入れていると聞イタ。ヨモヤ、エルフまでイルとは。迫害により他種族との交流を一切断っダはずだが......これは面白い戦になりそうだ》


 ニカァァ......と口角を釣り上げて、巨大トロールは片手の平を開いた。ポトポトと何か黒く小さな物が地に落ちる。


「......うッ」


 思わず、アランは吐き気を催した。


 ......耳だ。黒い狼の耳がいくつも地面に落ちていた。


「......君たちトロールは長年、独立種族として中立の立場で存在していた。それが、今、真っ向からガルカト王国に盾突くっていうのか」

「......どうりで黒狼隊が押されてた訳ね」


 ルーナも初めて額から汗をかく。


《女ァッ......》


 巨大トロールは嬉しそうに牙を剥き出した。

 エルフは老若男女問わず同じ顔をしているため、どうやら、ルーナの声で初めて性別に気づいたらしい。


《そうか......最近、よく耳にする『赤い鎧』というのはお主の事だったノカ......モウ3回りくらい体が大きければ愉しめたモノヲ......》

「戯れんじゃないわよ」


 ガアアァァッ......と巨大トロールは先ほどのトロールとは比べものにならない程の大きさの咆哮をあげた。


《赤い鎧はワジの獲物だ。貴様ら動くでないゾ》


 トロールの軍勢は巨大トロールのいう通り一切動こうとしなかった。

 トロール達は今は手出ししない様子だったが、ルーナやアラン達から目を離さない。ルーナ達は馬もない。こんな大軍勢を相手に逃げる事はできないだろう。


「逃す気はないって事ね」


 ルーナは小さくため息をついた。


 ならば、とルーナは折れたロングソードを構えた。逃げる事ができないなら戦うまでだ。


 一方、アランは、目の前で恐ろしい形相で睨みつけてきながらも銅像のように動かないトロールに圧倒され力なくへたりこんだ。


(こ、こんなのいくらルーナでも......無理だ)


 ――――カッ


 ルーナが駆け出した。


 ガアアァァッッ。

 力強い咆哮と共に、巨大トロールが拳をルーナめがけて振り下ろす。


 やはり、ルーナは速い。


 トロールの拳は隕石が落ちてきたかのような一発だった。だが、攻撃が迫る瞬間、ルーナは身をこなし地面を蹴って横に大きく跳んだ。

 再び轟音と共に、二撃目が地面を打つ。更に三発目、四発目、五発目とトロールは何度も地面を殴りつけた。その度にルーナは敏捷に避け続けた。ルーナの動きはまるで舞うようで、一瞬の隙も与えなかった。


《なるほど......このスピード......確かに『赤い鎧』の名は伊達ではなかったようダ。小さきモノがここまでワジの攻撃をかわしたのは初めてだ。......だが____》


 突然、トロールは目にも止まらぬ速さで前へ踏み込んだ。ルーナは機敏に後ろに飛び退く。トロールの手がルーナの目の前をかすめた。


「――――ッ」


 その一瞬、ルーナはトロールの他方の手の影に包まれる。力強い攻撃による衝撃がルーナの全身を走った。


《所詮ワジが本気を出せばこんなモノよ》


 巨大トロールはニカァッと顔を歪ませた。


「ルーナーーーー!」


 アランは叫んだ。


 ルーナの体は宙を飛び、木にぶつかる。頭から血を流した。倒れたまま、起き上がる気配がない。


「そ、そんな......」


 アランはすぐに駆け寄りたかったが、他のトロール達が立ち塞がっていて、行けなかった。


《トドメだ》


 巨大なトロールは巨足でルーナを踏み潰そうとする――――


 その時、


「弓兵――――!」


 勇ましい青年の掛け声が響いた。


 金色の鎧に身を包んだ『金獅子』__リオが高らかに剣を掲げた。


「放てッッ」

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