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37.雑務を押し付けられる日々

  金獅子の団は、程なくして第一拠点の野営地にたどり着いた。


 ルーナ隊もたどり着き、長旅の疲れを一時的に癒す。......はずだったが、


「アラン、槍修理しといてくれた?」

「ちょっと待ってくださいもう少しで終わります」

「アラン、今日の夕ご飯はなんだべ?」

「はーい、カレーですよ」

「アランママ〜、袖の所ほつれちゃったでござる〜。縫って〜」

「もうそのくらい自分でやって下さいよ」

「うわぁーん! ママ! お腹すいたあ!」

「はいはい、待っててくださいね。てか、ママって言わないでくださいよ」


 アランはありとあらゆる雑務を押し付けられて、大忙しだった。


「まったく、アランの(あん)ちゃんは仕事が遅いなぁ」


 子猫がひょこっと物陰から姿を出す。猫型の獣人少年__トムは小さな体の割に大きな尻尾をブンブン回しながらあざけり笑う。


「う、うるさいですね。こういうの慣れてないんですからしょうがないじゃないですか。というか、貴方だって新入りなんですから雑務手伝ってくださいよ」

「嫌だよ。さっき俺と決闘して兄ちゃん負けたじゃん! ここでは負けた奴が全部仕事するルールなんだよ。全く、元騎士だかなんだか知らないけど、本当何食ってきたらそんな弱いんだよ」

「......うぅ......くやしい......」


 アランは半泣きになりながら料理作りに着手する。


「あ、料理僕も手伝うよ」


 唯一、エルフのヘンリーだけはアランを手伝ってくれる。


「あ、すみません。ありがとうございます」


 ヘンリーは優しくアランに微笑んだ。その笑みはアランにとって菩薩のそれのように思えた。


(ルーナもこのくらい笑えば......可愛いのになぁ)


 いつもムスッとしているルーナの顔を思い浮かべながら、またアランはぼぉーっとヘンリーの顔に見惚れた。


「あの......ごめんね。さっきも言ったけど、僕その......そっちの気はないからね? いや、同性愛も異種族愛も全然否定する気はないんだけど......」

「わわわかってますって! 僕は別にヘンリーさんの顔に見惚れてたとかそんなんじゃないです!」

「......ごめんね、エルフの知り合い紹介できれば良いんだけど、僕は故郷を捨てた身だから、ルーナくらいしか......」

「いやだから本当に違います!」

「そう......」


 ヘンリーはほっと安心したように微笑した。人参を切りながら呟くように言った。


「エルフって、顔は皆綺麗だけど、恋愛するとなると実際大変だと思うよ。愛する人に老いた姿を見られる事になるからね。僕はそれでこれまで3回振られちゃったよ」

「......え」

「僕、昔は異種族愛者だったんだ。ふふっ、意外だったかい?」

「え、いや、そこよりも......『3人』って、え?」


 ああ、とヘンリーは頷いた。


「こう長く生きると色々な人との出会いがあるもんだよ。一応言っておくけど、同時期じゃないよ。3人ともそれぞれ心の底から愛してたし大事にしてた。でも、やっぱり何十年も一緒にいると、ね......」

「......ヘンリーさんって......何歳なんですか?」

「ははっ、秘密」


 アランは戦慄した。ヘンリーは一見少年の見た目だが、よく考えたらあの長寿で有名な種族エルフだ。実は、結構な年齢なのではないか?


「え、それじゃあ、ルーナも実は結構お婆さんなんですか?」

「うーん、どうなんだろ? 人とエルフのハーフの寿命に関する知識は僕にはないな。見た目は人だと10代後半くらい? に見えるけど......本人も自分が何歳かよくわかってないみたい。多分、僕よりは若いよ。でも、人や獣人よりは長く生きるんじゃないかな」

「そう......なんですか」

「......やっぱり気になる?」

「いいいいいや! ぜぜ全然気になりませんって! というか、僕はルーナをそういう目で見てません! 一剣士としては尊敬してますけど」

「そう......」


 ヘンリーは何か物言いたげだったが、何も言わなかった。


「マーマー! ご飯まだあ!?」

「わああ! ちょっと待ってください!」


 アランは慌てて再び手を動かす。その隣では、トムが悠々と毛繕いしている。


「ヘンリーさんだって手伝ってるんですから、貴方も手伝ってくれても良いんじゃないですか、トム」

「ちっちっち。俺は媚びる相手は選ぶ(たち)なんだ。いいか、兄ちゃん。ビッグになるにはビッグな相手にお近づきになるのが一番手っ取り早いってんだ。んで、今金獅子の団で一番ビッグなのは、ずばり、ルーナよ」


 と、そこへ、丁度よくルーナがやってくる。傍にはハイエナ顔のジョエル副隊長もいた(レウミア城戦の折ルーナに股間を蹴られていた男だ)。


「あんた達、あんましアランに頼ってんじゃないわよ」

「ルーナ隊長ッ♡♡」


 トムの顔がぱああっと明るくなる。


「肩でも揉むか? 毛繕いもしてやるぞっ♡♡」

(媚び......より、好きが勝っているような......)


 トムの態度の激変ぶりにアランの顔が引きつる。ルーナ__『赤い鎧』はガルカト王国中の子供達の憧れの的なのだ。それはトムも例外ではないようだった。


「特にいらないわ」

「そうか......」


 トムはシュンッとなって、粛々と自分の毛繕いを再開した。


「皆明日もまだ歩くから今のうちに体力を温存しておきなさい。前も言ったけど、今回の戦の目的は聖地ヴゴ奪還。森が入りくんだ土地で、おそらく地形に詳しい獣公国側が有利になるわ。気を引き締めてのぞみなさい」

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