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32.仲間割れ

「ば、馬鹿なっ......こんなの、馬鹿げている......!」


 アランはこみあがってくる吐き気を必死で堪えた。


「怖くなったんでちゅか?」

「......っ」

「ハハハ!――――グヒィッ......グヒッ」


 突然、ゲイリーが高笑いしている途中で妙な声をあげる。


「......え?」

「グヒィ、グヒッ、ぐひぃッッ」


 どう反応すれば良いかわからず、その場で立ちすくむ。気づけば、周囲の取り巻き達も緊張した面持ちで口を閉ざしていた。


「グヒィ......ッ......。..................今、俺様を馬鹿にしたな?」

「え?」


 ゲイリーは怒気のはらんだ目でアランを睨みつけた。明らかに、理不尽な怒りだった。


「おいお前ら! こいつを抑えてろ!」

「そんなっ......馬鹿になんてしてません......、放して下さい!」


 取り巻き達はアランを取り押さえた。


「ちくしょう、どいつもこいつも俺を馬鹿にしやがって。歯の一本も残らねえくらいバキバキに折ってやる」


 ゲイリーは拳を握りしめた。太い血管が肌に浮かんだ。


「――――やめなさい」


 女の声が、ゲイリーの拳を止めた。拳はアランの顔面ギリギリの所で止まった。


「よう、ルーナじゃねえか」


 女は、『赤い鎧』__銀髪に赤い瞳のハーフエルフ、ルーナだった。


「あんたら、いくらなんでもやりすぎよ」


 ルーナはアランや、ゲイリーに嬲られていた人達を見た。


 ルーナは、今は、レウミア城の時のようなボロ切れのマントも赤い鎧も着ていない。一般的な平民の女性の服に身を包みスカートを履いていた。武器も何も持っていない。こうやって見ると、耳以外はただの町娘にしか見えない。本当に、あの『赤い鎧』が目の前のハーフエルフなのか? そう疑ってしまうくらいに、ルーナは平穏な装いをしていた。

 ただし、赤い瞳は炎のように怒りで煮えたぎっている。レウミア城での100人斬りを思うと、ゾッとする。


「あんだよ、俺たち荒くれがいつもやってる事じゃんよ。それともあれか? 同じ女に同情でもしてんのか?」


 ゲイリーは、裸で拘束された女二人の内一人の髪を鷲掴みにして持ち上げた。


「そのスカートお前によく似合ってんじゃねえか。普段から鎧じゃなくてそういう格好してれば優しくしてやんのによ」


 ()()()()()()()()をして、ゲイリーは片手で輪っこを作り、他方の手の人差し指で輪っこを刺した。取り巻き達が、わっと嘲笑する。


「......その人達を解放しなさい」

「アッハ! この俺様に命令する気か? たかが、女のくせに! 副長になれなかったボンクラ女が俺様に命令なんかできる立場か? _____」


 ――ドカッッッ


 ルーナはテーブルを蹴り飛ばした。テーブルは倒れて、上に乗っていた酒瓶が割れる。


「良いから解放しなさいつってんのよ。あんたみたいなゴミカスに苛立つのさえ時間の無駄だわ」

「......」


 ゲイリーは床に散らばった酒の残骸をぼんやりと眺めながら、手に持っていたマグの酒を飲んだ。


「......なあ、ルーナ。金獅子の団はすげえよ。皆つええ奴らが揃ってる。特に、リオはまじですげえ。桁違いだ。剣の腕だけじゃねえ。人望、魅力、知性、全てが揃ってやがる。だがなあ、お前はどうよ? 皆腹の底じゃ、癇癪女に従うなんて嫌だろうな。皆が認めているのはお前じゃない。リオだ。金獅子の団はお前抜きで成り立ってる。いい加減、女のくせに威張り散らすのやめたらどうだよ?」

「......あんたさあ、そのつまんない口塞がないと、殺すわよ?」

「..............................へえ」


 不穏な沈黙が漂い緊張感が増す。いつの間にか、酒場の誰もが息を殺し、空気が重くなる。


 冗談なんかじゃない。彼らは本気だ。

 あの、『黒き太陽ゲイリー』と『赤い鎧』が殺し合いをしようとしている。


「......やってみろよ、『赤い鎧』__」


 その時、アランはハッと息をのんだ。

 

 ルーナの背後で、ゲイリーの手下がにやりと笑う。酒瓶で頭を殴りつけようとしていた。


「待って! あぶな__」


 一瞬の後。


 ()()()()()()()()()()()()()()()


 武器を持っていないはずのルーナが、剣をゲイリーの手下に向けていた。この1秒にも満たない速さでルーナは近くにいた他の男の剣を奪い取り、手下に剣を構えたのである。


「......」

「......俺の部下に剣を向けやがったな......」

「あら、手癖の悪い猿かと思ったわ」

「……てめぇ」


 憎悪に満ちた表情で、ゲイリーはモーニングスターを手に取った。


「来なさいよ。叩きのめしてやるわ」


 この時、ルーナの目にはゲイリーが化け物に見えていた。両目が釣り上がり、口から大きな牙がはえて頭に大量の目がある。バリーに殺されそうになった時と同じだ。ルーナの中で憎しみの炎がメラメラと燃え上がっている。


「――――お前ら何やってんだ」


 その時、声が響いた。


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