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23.伝説の始まり

「......っ......はあ......はあ......!」


 どよめく騎士達の間をぬって、獣人の()()は城中を駆けずり回っていた。


「はあ......クソッ......! 城門が破られる! ついに、公国が......獣公国が攻めてくるぞ!」


 緑髪から生えた猫耳に丸メガネをかけた青年。文官にしか見えないような細い体に似合わぬ大きな鎧を着ている。


「総騎士長__父上......父上はどこですか!」


 青年__アランは、騎士長である父親を探していた。


 ここは新生ガルカト王国の都市レウミア。


 アランの家系ディアズ家はレウミアの領主ブルガン家の剣として代々騎士を勤めている。


 そして、長年ディアズ家が守り続けてきた都市レウミアは、堅固な城壁で囲まれた『難攻不落』の都市である......いや、『だった』。

 

 この十数年、攻める獣公国に着実に領土を奪われていったガルカト王国は深部まで公国の侵略を許してしまった。侵略の手はガルカトの中枢都市であるレウミアまでにも及んでいた。

 そして、レウミアは今まさに城門を破られ攻め入られようとしていた。そんな局面にもかかわらず、こちら側の総大将である父が見当たらないのだ。アランは焦りで全身から汗が噴き出た。なんだか嫌な予感がする。


 ある時、アランは立ち止まった。アランの猫耳がかすかな音をとらえた。


「や、やめ......うッ......」


 母親の声だ。


「母上!」


 アランは急いでドアを開けた。


「......ッッ......な......」


 アランはカッと目を大きく広げた。


 部屋には、アランの父親__騎士長が立っていた。彼は呆然と立ち尽くし、血だらけになった長剣を手にしていた。視線の先には母親が倒れていた。長剣の剣先からぽたぽたと鮮血が垂れている。


 アランは真っ青になって母親の元へかけた。母は既に事切れていた。


「ち、父上......なぜ......。____ッ」


 アランはようやく、()()()()()()()()()()()()()()()()


 アランの視線の先。そこには()()()()()()()()


「父上......これを......貴方がやったのですか? 守るべき主君を......貴方が?......」


 死体の山は、ブルガン一家だった。領主と妻だけでなく、ブルガン家の娘達まで殺されていた。アランは、その中から一人だけ、ブルガン家末娘のエマだけはいない事に気づいた。


「私は......わたしは......違う......使命に従ったまでだ」

「使命? 使命ってなんですか......。ブルガン家に忠誠を誓い、レウミアを死んでも守り切る......それが僕達ディアズ家の使命じゃないんですか? それを......父上が全部壊してしまったっていうんですか? これからレウミアを守ろうって時に......」

「ハッ......守る?」


 アランの言葉を聞いた騎士長は鼻で笑った。


「私達は何日も兵糧攻めをくらった! レウミアの兵達は食べ物を与えられず、いつ獣達に攻めいられるかわからない状況でろくに寝ることもできず完全に疲弊しきった! もう兵達にここを守る力は残っていない! わた......私は......僕は、長年のご恩をお返しするために、せめて辱めを受ける事なく逝かせて差しあげようと思っただけだ......!」

「父上、なんという事を......! 援軍がくるまで辛抱せよと王都から通達があったじゃないですか! 総騎士長である貴方が希望を捨ててどうするんですか......」

「希望......? 援軍だと? ......」


 騎士長は怒鳴った。


()()()()()()()()()()!」


 騎士長は目が血走った。


「何日も! 何日も何日も! 僕はぼぼ、ぼくは、待った! でも、来なかった! たとえ、この後援軍が来たとしても、獣公国に城壁を突破されれば今度は援軍にとって大きな壁になる! レウミアはもう終わりだ!」

「......! 父上!」


 騎士長は血で真っ赤に染まった剣を今度は自分の首に押し付けた。


「ぼぼ僕はちゃんとディアズ家の名に恥じないように最後まで生きたぞ! 主君に名誉ある死を差し上げた! そ、そうだ! レウミアの新しい騎士団長は、アランお前だ! 後は......あとは任せたぞ!」

「......ち......ちうえ......。今からでも遅くはありません......。せめて領民のために......最後まで戦いましょう......援軍だって待てば必ず......」


 アランは顔から血の気がひくのを感じながらゆっくり騎士長の剣をもつ手に触れようとした。


「援軍は来ぬぞ」


 しかし、聞き覚えのない者の声に妨げられた。アランは心臓が止まるかと思った。


「それは我々が流した偽情報だ。ガルカトにレウミアを守る力はもう残されていない。そのくらいの事、情勢を多少理解している者なら誰でも理解している事だろう。だが、お前達は騙された。何故だかわかるか? 人というのは追い詰められた時程、ありもしない希望にすがるものだからだ。ついでに言うと、『今からでも遅くはない』というのも間違いだ。何故だかわかるか? 儂らがここまで来ているからだ」


 視線の先には、アランの倍はあろう程の巨大熊が立っていた。熊は頬に大きな傷があり、巨大な鎧を身に纏っていた。


「儂らは貴様らに、計画的に希望を与え、そして、計画的に絶望させた。援軍が偽情報であると知った途端、城門の兵どもがあっさり降伏したぞ。それで、どうするのだ? 死ぬのか? 死なんのか?」

「そんな......まさか......お前は、獣公国の......」

「......っ......う、ぅ......」


 熊はニカッと残忍な笑みを浮かべた。


「うううううううぅぅぅああああああああ!」


 騎士長は剣を握る手に力をこめた。

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