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12.喧嘩

 リオが中心街の路上で吟遊詩人デビューを果たしてから、さらに数日経った。日に日に、人が集まっていき、稼ぐ量も増えてきた。ルーナも客引きを手伝った。ルーナは珍しいエルフ(本当はハーフエルフだが)という事で客の目を多少はひいた。そんなルーナの働きもあり、最近では、リオは街でちょっとした有名人になっている。

 二人は貧民街での暮らしを一文なしでスタートしたにも関わらず、驚く程順調な毎日を過ごしていた。


 しかし、そんな順調な暮らしは、そう長くは続かなかった。


 ある日の事、街でかなり稼ぎ、二人は貧民街のテントに戻っていた。パンを分けて、市場で買ってきたたくさんの肉や野菜を皿にのせる。

 食事をとろうとする。だが、ルーナが、いつまでも手を組み祈り続ける。リオはずっとルーナの祈りが終わるのを待っていたが、なかなか終わらず空腹だった事もあり、しびれを切らした。


「ルーナ、長すぎ。もう食べようよ」

「ちょっと、待ってよ。兄貴が祈らないから、私が兄貴の分祈ってるんだから」

「は? なんだよそれ」


 リオは不機嫌そうに目を細めた。


「俺は俺の意志で祈らないんだ。誰も俺の分を祈ってくれなんて言ってないよ」

「でも、こうやって沢山稼いで沢山食べられているのはきっと女神様が私達に目をかけてくださってるおかげなのよ。だから、ちゃんと『ありがとうございました、これからもよろしくお願いします』って言わないと」

「今沢山金稼げてるのは神様のおかげじゃない。俺とルーナが自分たちで頑張ったおかげだよ。だから、祈る必要なんてない」

「で、でも、運とかもあったと思うわよ。だから、女神様が......」


 ルーナがなお反論しようとすると、リオは唸るように言った。


「あのさ、神様なんていないんだよ」

「......え」

「俺はここ数年一度も祈ってないけど、ご覧の通りピンピンしてるよ」

「それは私が兄貴の分ずっと祈ってきたから......」

「俺はルーナと出会う前からずっと祈ってなかったよ」

「でも......でも! 親父はちゃんと欠かさず祈れって言ってたわ! そうしないと、いつ死ぬかもわからないって。親父は......親父はあの日祈らなかったわ! 毎日欠かさず祈りを捧げていたのに、親父はあの日だけは祈らなかった。だから、親父は足を失っちゃったのよ」

「まだそんなクソ親父の事なんか気にしてるのかよ。いいか、親なんて物は、自分の欲求を満たすために子供を利用してるだけの生き物だ。ルーナの親父はその中でも最悪な方だよ。お前もそれがわかってたから、親父さんを()()()()()()()()()()?」

「殺してなんかいない!」


 ルーナは思わず叫んだ。


「殺してなんかいないわ......。ぐ、偶然、刺しちゃって......そしたら、公国の兵士が親父を斬ったのよ。で、でも、死んだのを確認したわけじゃないわ! 親父、ああいう局面は慣れてるから多分上手くやって生き延びてるはずよ......」

「ルーナお前......()()()()()()()()()?」

「......」


 黙り込むルーナに、リオはため息をついた。


「俺がはっきり言ってやるよ。お前の親父さんは死んだ。とどめは公国の兵士だっただろうけど、そのきっかけを作ったのはルーナの剣だ。そして、ルーナが親父さんを刺したのは偶然でもなんでもない。自衛のため? 焦って反撃した? 違う。片足のない男をわざわざ刺さなくたってルーナの足なら逃げれたはずだ。......お前はな、その時、明確に、()()()()()()()()()

「ち、ちが......」

「......」

「......」

「......盲信するのはもうやめなよ。神の事、父親の事をさ。憎しみから目を背けるな」

「......」


 リオは再び、ため息をついた。


「ルーナのあの聖書、遠くに捨ててきたから」

「......っ!」

「どのみちお前字読めないんだから持ってたって意味ないだろ。それなのに、神様神様ってずっと聖書抱いて寝たりしてさ。そろそろ頃合いかと思って捨ててきた。いい薬になるだろう。親父さんの事もこの機会に気持ちを切り替えるんだな」

「......っ」


 ルーナは、ついに、カッと怒りが爆発した。


「な、なんでそんな酷い事するのよ!! 兄貴に私の何が分かるっていうの!? 兄貴なんて......兄貴なんて大っ嫌い!!」


 ルーナは傍に置いてあった、リオのリュートを掴んだ。「あ!」とリオが叫んだのと同時に、ルーナはリュートを地面に叩きのめした。


 リュートはあっという間に砕け壊れてしまった。


「......」

「......」


 リオの表情が固まった。

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