128.リオの過去1
<11年前>
真っ暗な森の中、岩や枯れ木で囲まれた小さな野営地。赤々と燃える焚き火の隣で、7人の少年少女が輪になって座っていた。
「次、リオの番ね」
「はーい」
リオは顔をあげる。
視界には輝かんばかりの子供達の顔がずらりと並ぶ。皆、鎧や武具を脱ぎ、血や泥で汚れた顔を拭っている。大体リオと同い年くらいかそれより上くらい。
子供達の種族は多様だった。人間、オーク、ドワーフ、ケンタウロス、獣人がいる(リリスは人間だと言っていたが、リオは彼女が吸血鬼なのではないかと密かに思っている)。が、種族の壁を感じさせないくらい子供達は親密だった。
彼らは罪を犯したか、他国から拐われたかして無理矢理戦場に連れてこられた子供兵だ。子供兵は数人でチームを組まされる。戦場に出る時はチームで行動し、互いの命を守り合う。彼らは同じチームとしてもう長らく背中を預けた仲間達だった。
今夜は戦に勝利し、皆、生き延びる事ができた喜びで顔が輝いている。いつもは疲れてすぐに眠ってしまうが、今日は特別な日。皆で集まって『自分の事を話す日』をやっていた。
リオは静かに語り始めた。
「俺の母は王妃......」
「え、すごい!」
フィンが目を丸くして叫んだ。
「じゃなくて、その召使い」
子供たちの表情が一気に落胆の表情に変わる。リオは彼らのコロコロ変わる表情を密かに楽しみながら話を続けた。
「でも、お母さんが王妃様の召使いだなんて凄いよ!」
フィンが興奮気味に言った。
「王妃というか、ただの妾だよ。王子を孕んだ途端、城に居づらくなって下町に住むようになったんだ。俺の母は唯一それについていった召使いだった。......と、俺の話から逸れたな」
「面白いから続き聞かせてよ!」
エリカが身を乗り出して言った。
「それで王子様は? 王妃様は? どうなったの? 無事産まれたの!?」
子供達はわくわくした表情をリオに向ける。リオは微笑んで話を続けた。
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俺の母、メアリー・マッコーエンはよく俺に物語を聞かせた。時を超える銀の船とか月の猫とか王子様と妖精の話とか、大抵はおとぎ話。
だけど、一つだけ、おとぎ話じゃない話をよく俺に聞かせてた。
それが、主人だったマリア様と王子様の話だった。母さんが自分の人生で唯一物語の世界に関われた瞬間さ。なんたって一国の王子の誕生に立ち会えたんだから。
でも、王子様は死んでしまった。産まれて数日後、急に亡くなったんだ。その後、マリア様も亡くなった。元々体の弱い方で、お産の疲れと王子を亡くしたショックがたたったらしい。
母さんは二人を亡くしてしばらく意気消沈だった。でも、この物語はまだ終わっていないんだ。
母さんはその後転々とし、一年後、俺を産んだ。そして、母さんはとても驚いた。金色の髪に赤い瞳......俺はまるで王子様と瓜二つだったらしい。母さんは俺を王子様の生まれ変わりだと思った。王子様を可哀想に思った神様がもう一度、自分の腹から産ませて下さったんだって。そして『レオナルド』と名付けた。それはマリア様が王子様につけるはずだった名前だったらしい。
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「じゃあ、リオって王子様なの!?」
ナヤが興奮して声を上げた。
「そんなわけないだろ。これは母さんの物語。母さんが生まれ変わりだと感じただけだよ」
リオは苦笑した。
「でも、リオってなんか特別なんだよなあ」「
フィンが真剣な表情で言った。
「王子様って言われても不思議じゃないっていうか......」
「こんなに強いし」
グロックが渋々認めるように付け加えた。
「......かっこいいし......」
エリカが小さな声で呟いた。
「物語の主人公みたい......」
彼女の頬が薄く染まり、リオに視線を送る。リオは苦笑いを浮かべて目をそらした。
「そういえば、リオの父親は?」
ゼフが静かに尋ねた。リオは少し考え込むような表情を見せる。
「さあ。知らないよ。俺が物心ついたときには、母さんは金持ちの獣人の所で住み込みで使用人やってた。ていうのは建前で、愛人だったんだよ。母さんは人間なのに、獣人と恋に落ちたんだ」
「ええ!? 獣人と!?」
子供達が驚愕の声をあげた。しかしその驚きも束の間、ゼフの言葉に場の空気が凍り付いた。
「え! じゃあ、リオの父親って獣人!?」
皆ため息をついた。
「獣人と人間の間に子供なんてできるわけないでしょ」
「ご、ごめん。僕、ずっと故郷の森以外知らなかったから......。獣人と人間がくっつくのってそんなやばい事なの?」
「素敵!」
ナヤが立ち上がった。手を組み、ロマンチックそうに目を輝かせた。
「種族を超えた愛! 周りから何と言われようとも二人はお互いを想いあっていたのよ! 真実の愛だわ!」
それを聞いて、グロックはせせら笑った。
「女ってほんと頭わいてるよな。そんなのただ、性欲のはけ口に使われてただけだろ。下手打っても子供できないんだから」
「グロックってちょっとすれてるよなー」と子供達が小さな声でひそひそ話す。
リオはそんな子供達を見て微笑み、話を続けた。