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125.一騎打ち

「獣人に裏切らせて、金獅子の団を襲わせました。今度は獣公国でなく、本当に仲間が裏切ってるんですよ」


 ジョエルの声が冷たく響く。リオとヘイグの顔が強張る。


「おや、信じられませんか? いや、違うな。彼らが裏切る心当たりがあるからそんな顔をするんですよね。この頃の獣人__特に獣度の高い獣人達の不満は相当の物ですから。リーダー格である貴方方なら不穏な気配くらいは勘づいていたでしょう? でもまさか仲間が裏切るなんて思いませんでしたかね? 私が密かに、声をかけて回っていたんですよ。『金獅子の団を裏切れ。成功すれば、獣公国で優遇する』と言ってね」

「貴様! なんと言う事を!」


 ヘイグが我慢できずにカッと叫ぶ。しかし、それ以上に強くジョエルが叫び返す。


「レオナルド! わかりますか! これが異種族なんです! 平和なんてありえない! 私たちは永遠に溝を埋める事はない!」

「......!」

「......チェックメイトです。さて、あなた達はこれからどうしますか?」

「......お前を倒して、殿下の罪を王都に告発しにいく!」


 ヘイグが殺気をむき出しにしていち早く答えた。


「それでは、やはり戦うしかありません。リオが動けない今、私と貴方の一騎打ちのようですね、ヘイグ」


 ジョエルはちらりとリオを見る。リオは震えながらロングソードを地面に突き立て膝をついている。


「望む所だ。その首へし折ってやる」


 ヘイグは声を絞り出す。ジョエルは静かに野獣の目を細めた。


「......ああ、なるほど。貴方はきっとこう思っている事でしょう。自分は金獅子の団の英傑にして副団長。対して敵は、ルーナの影に隠れるような半端な実力だ。一対一で戦う分には決して負けるはずがないと。......そういえば、この10年間、一度もあなた方に私の本気を見せたことはありませんでしたね」


 ジョエルは腰に手をあてる。そこには剣ではなく、長い爪のような物__鉤爪が見える。


「......なんだそれは」


 ヘイグの声が緊張を孕んだ。ジョエルの目が妖しく光る。


「これが私の本気、ですよ」


 彼は鉤爪を装着し、獣のように身をかがめる。


 ――瞬間、突風が巻き上がった。


 ヘイグはほぼ反射的に刃をバトルアックスで受け止めた。ガキン! 鋭い爪がバトルアックスに食い込む。


「お見事。頭がついていけなくても体は反応したんですね」


 ジョエルの声が耳元で響く。


 戦いが始まった。二人の動きが広間を舞台に繰り広げられる。ヘイグの力強い攻撃とジョエルの俊敏な動き。互いの呼吸が激しくなる中、戦いは激化していく。ジョエルはヘイグの動きを見切り、笑いを浮かべながら右に左にどんどん後ろに下がる。


「ちょこまかとッ! ――――らァッ」


 バトルアックスを目にも止まらぬ速さで一振りする。


「......へへッ」


 ジョエルは笑いを浮かべ、そして、高く飛び上がった。


「なに?」


 鉤爪の先を壁の凹凸に引っ掛け、そして上から飛び降りた。ヘイグが後ろにジャンプする。ガッと鉤爪が床を掻き切った。ありえないほど深く床が傷つく。はずみで、飾りの豪華な花瓶が倒れ、ジョエルを鉤爪でヘイグ目掛けて、叩くようにして投げつけた。不意の攻撃だったせいでヘイグはバトルアックスで受け止め、後ろに背中を打ち付ける。すかさず両手の鉤爪で攻撃してくる。バトルアックスの柄の先で弾いた後、他方の鉤爪を刃先で受け止めた。


「貴様、なんだその技量は! これでは英傑に匹敵するではないか! 才能を隠していたな! 10年もの間、ずっと!」

「......匹敵?」


 ジョエルはニヤリと笑う。


「匹敵じゃない。()()()()()()!」


 ヘイグは力任せに受け止めていた鉤爪を払いのける。ジョエルはその反動で地面に着地し、まるでそこがジャンプ台かのように軽やかに飛び壁に張り付いた。


「貴様の目的は何だ!」

「知れたこと、獣公国の繁栄ですよ。リオは、獣公国にとって、いや、ルーデル全土にとっての脅威となる人間です。ああ、ヘイグ、貴方だって理解しているでしょう。そこのリオこそ、本物の、二人目の選ばれし王になるかもしれない。あの塔を、かつてダークエルフを一瞬にして絶滅させたあの封印されし塔を開く、二人目の王になるかもしれない」

「だが、10年も......10年も、敵と仲間のフリをし続けるなんて正気の沙汰じゃない。10年も共に戦ってきたのなら、分かるだろう。リオは本気で平和を願っている。だから剣を手に取っている。今は獣公国の獣人達を殺す事はあっても、私達は単なる支配や暴力が目的ではない。平和のために闘っているのだ。それがわかっていてもなお、私達の道を邪魔するのか?」

「平和なんかありえないッ!」


 カッとジョエルの目が見開かれた。


「私の家族は!? 友人は!? 仲間達は!? 皆ガルカト王国に殺された! 彼らの怒りは! 私の怒りは! どうなるというんですか! 怒りも憎しみも永遠に消えない! 消えてはならない! 何もかもを忘れて皆仲良く? 平和に? ......それこそ地獄だッ!」

「それはそもそも、獣公国がガルカト王国に反旗を翻したのが悪いだろう! ガルカト王国は全ての種族を尊重する多種族国家だ! かつて自分勝手に国を分けてルーデルを戦乱の世にしたのはお前達だ」

「ガルカト王国は全ての種族を尊重する多種族国家? 本気で言っているんですか? 私は出自を隠し、ガルカト王国の獣人として生きてきましたが、獣度の高い獣人に対する差別は酷い物でしたよ。奴隷制はもう大昔に廃止になったというのに、まるで奴隷を、あるいは何か得体のしれない化け物を扱うかのように皆煙たがる。住まいも職も人間関係も選ぶ必要があった。青の都戦が原因で人々は獣人全員に厳しい目を向けてましたよね? これが例えば人間だったら、こうはならなかった。元から人々が獣人に対する不信感を抱いているからこうなるんです」

「それを無くして平和な世の中にしようとしているのが私達金獅子の団だろう!」

「だからそれが有り得ないんですよ! 少なくともガルカト王国では有り得ない! だって結局この国の王族は人間ではありませんか!」

「貴族は獣人も多いだろう!」

「それでも人間の方が割合が高いですよ。他の種族はもっと少数だし、獣度の高い者など皆無。街には多くの種族が住んでいますが、人間に近い見た目程羨望を集め、遠い程貶される。それは人間の姿が最も尊いと......人間が最も神聖な種族だという根強い思想があるからです。わかりますか? ガルカト王国は多種族国家じゃない! 人間のための王国だ!」

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