10.貧民街での自由な暮らし
屋敷を後にした二人は、とにかくすぐにウロデイルから離れるためにガルカトへ向かう隊商の荷馬車に忍び込んだ。しかし、その隊商は不正な貿易取引をしていたらしく兵隊達の襲撃にあい、二人は危ういながらもなんとかそこから逃げ出す事ができた。だが、その時に荷物を全て失ってしまい結局また一文なしになってしまった。
1ヶ月の時が過ぎ、二人は、新生ガルカト王国の都市ルシスベの貧民街にいた。ガルカトはとても歴史の長い国で、都市の古くなった区画が貧民街になる傾向にある。いつ崩れるかもしれないような古びた建物が立ち並び、ゴミが散漫している。二人はそんな中で拾った布でテントを張って暮らしていた。乞食で収入を得るか、物運び、靴磨きなどとにかくなんでも仕事を引き受けたり、ゴミを漁り草を食べ、最悪盗みをしたりして生活していた。また貧しい暮らしに逆戻りだったが、ルーナには目一杯外を走り回れる今の暮らしの方が屋敷の生活よりあっていた。
貧民街の一画のゴミ山の上にリオとルーナはいた。各々役に立ちそうな物を探していた。 リオは硬い紐のような物を見つけて弾いたり引っ張ったりする。そうするうちに、気に入ったらしく、持っていた楽器に取り付けた。楽器はリオの手作りのリュートだ。ゴミ山で手に入れたガラクタを寄せ集めてこの1ヶ月リオが地道に作ってきた。
リュートのペグを回し、弦同士の音の間隔を確かめる。張った弦の一本一本の材質が違ければ音質も違う。この世で一つしかないリオだけのリュートだ。
リオはなんでも器用にこなすが、特段音楽は才能があるようだった。歌がうまく、前に街の吟遊詩人に音感を褒められた。やりようによっては金稼ぎもできると言われた。それが目的なのか、それとも単純な趣味なのかはルーナにはわからないが、ともかくそれがきっかけでリオは地道にリュートを作った。
ちなみに、ルーナはというと、致命的な程音感がない。初めてリオの前で歌った時、リオは笑い転げて危うく失神しかけた。その後三日間ぐらい、目があう度に吹き出すリオを見て、ルーナは二度と人前で歌うまいと誓った。
(何よ。あんなに笑う事ないじゃない! 自分が得意だからって調子にのっちゃって! そりゃ、兄貴は料理できるし歌も歌えるし私よりたくさん稼いでくるし......なんでも知ってるし............おまけに......王子様だけど......)
ルーナはゴミ山のゴミを漁る手を止めた。
屋敷に居た頃、リオが字を読めて、難しそうな学問の本を読んでいたのをルーナは思い出した。リオはとにかく習熟が早いとエドワーズが驚いていたくらいだ。
(....................................。......兄貴、いつか、こんなゴミ溜めから出ていってお城でキンキラキンな生活すんのかな。........................私なんかが兄貴の隣に居て良いのかな......)
ルーナの耳がシュンッと下がった。
が、すぐに、ピンッと立ち上がった。
(そうよ。私の方が剣は強いわ。だって私は元傭兵なんだから。......そういえば、兄貴って私と出会う前何やってたんだろ)
そんな事を考えながら、ゴミを漁っていると、再びルーナの手が止まった。
聖書だ。
ルーナはその場で飛び上がりたいくらいに胸がドキドキした。ずっと欲しかった物だ。ルーナは急いで中身を開く。本は古びていて紙の色が黄ばんでいてところどころ破れている。だが、字はまだはっきりと読めそうだった。
もちろん、ルーナは字が読めない。だが、聖書があるだけでルーナは近くに神様がいるようで心が救われる思いがした。
(今度兄貴に読んでもらおうかな)
ルーナはゴミ山の上でぎゅっと聖書を抱きしめた。
「できた! ルーナ! 完成だ!」
リオが突然声高に叫んだ。びっくりしてリオを見ると、リオはじゃらん〜とリュートの弦を弾いた。
「ルーナ! 俺はこれで天辺とるぞ!」
「てっぺん!」
「ああ! 街だ! 街に行こう! 街だ!」
「街!」
「街!」
そうして、二人は叫びながら中心街へ向かった。