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ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜  作者: あまぞらりゅう
第三章 クロエは振り子を二度揺らす

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81 魔力の暴走

 あんなに収縮してしまったパリステラ侯爵の陣地は、みるみる回復していく。


 彼は他の者の魔力を押し退け、分捕って、風に吹かれた蝋燭みたいに簡単に消した。

 轟く咆哮と、身体の奥から突き動かすような重たい魔力。それは大波のように瞬く間に神殿を包んで、人々を圧倒させた。

 凄い。桁が違う。これが魔法のパリステラ家……。彼らは純粋に彼の魔力を称えた。


(力がみなぎっていく……まるで限界なんてないかのようだ……!)


 ロバートは、かつてないほど興奮していた。全身が燃えるように熱かった。

 文字通り、今の自分は無敵だ。細胞の一つ一つから魔力の粒が無尽蔵に湧き出て来るのが分かる。

 今なら、この国……いや、大陸中のどんな相手でも負ける気がしない。ここにいる私を笑い者にした愚か者どもを、全てを蹴散らしてやる。


 彼の魔力は魔法陣の全てを侵食していく。あの高名な公爵家も、いけ好かない侯爵家も……全てが彼の魔力に書き換えられていった。


「ははっ……!」


 思わず、笑みが溢れる。

 愉快でたまらなかった。そうだ、この際だから今年はパリステラ家の魔力のみで結界を張ってしまおう。そうしたら、王家だって我が家門に頭が上がらないはずだ。


「おい、やめろ! これ以上は――」


「うるさいっ! 低魔力の者は黙ってろ!」


 隣にいる公爵が、微かな異常に気付いて彼を止めようとするが、彼は一喝して目の前の仕事に集中する。

 あと少しで全ての己の魔力が魔法陣を制圧する。家門だけが立派な、低い魔力の持ち主なんかに邪魔されたくなかった。


 今や彼は、魔法という悪魔に取り憑かれたかのようだった。目は血走って焦点が定まってなく、歪んだ口元は愉快そうに震えている。その姿は、ぞくりと背筋が凍るような狂気じみた恐ろしさがあった。



 そして娘であるクロエも、貴賓席で弧を描いて笑っていた。


(これで、もう終わりよ……)


 彼女がかけた魔法は、時間の加速。父親の体内に流れる魔力の時間の速度を急激に早めたのだ。

 それによって、彼は一生の魔力分を今この場で使い切ることとなる。


 全て使い果たせば――、


(魔力は枯渇する……!)


 永遠に、消えてしまうのだ。

 一滴たりとも残らずに。



 ロバートの魔力はとどまるところを知らない。

 元より他人より強かったそれが、クロエの魔法により一時的に凝縮された形となって、未だかつてない熱量となって放たれていた。


 そのとき、


 ――バチンッ!


 急激な魔力増幅に耐えられなくなった魔法陣の器の一つが、甲高い音を立てて割れた。


 次の瞬間、ドン――と、地面が揺れる。そして爆発音。異常事態にたちまち神殿はパニックに陥った。

 ロバートの超巨大な魔力は制御がきかなくなり、暴走して魔法陣を破壊しはじめていたのだ。


 爆発音は続く。その度に神殿は激しく揺れて、解き放たれた魔力の圧が貴族たちを襲った。

 神官たちが大慌てで制御しようと試みるが、まるで分厚い壁で隔たられているかのように、祭壇に近付けもしなかった。



 クロエは半ば自棄になって、その様子を半笑いで眺めていた。狂ったように可笑しさが込み上げてくる。


 自分の想像以上の出来だった。予想では、あっという間に魔力が枯渇した父が貴族たちの笑い者になり、更に王の怒りを買って、家門は没落するはずだった。


 まさか国全体を巻き込む事態にまで発展するとは。

 このままでは、結界を張るどころか壊れるかもしれない。そうなると、確実にパリステラ家の者は全員処刑だ。

 それは、家門の終焉としてドラマチックで相応しいのかもしれないと思った。


 どうせ自分はこの世界から消えるのだ。そうしたら世界はまた平穏に戻る。

 なら、今だけのこの状況を存分に楽しもうじゃないか。




(不味い……このままではっ……!)


 ユリウスは息を止めて祭壇をじっと見据えていた。


 これは非常に由々し事態だ。今の魔力の不安定な状態が続くと、確実に結界は破れて、この国は魔物が跋扈する危険な状態に陥る。

 そうなると、ただでさえ危うい近隣諸国のバランスが崩れて、厄介なことになるかもしれない。


(父上との取り決めがあるが……今回ばかりは仕方ない!)


 ユリウスは逃げ惑う人混みを掻き分けて、急いで祭壇へと向かった。

 中央にはパリステラ侯爵がいて、その周囲を幾重もの魔力の壁が固めている。彼は一度それに触れてみたが、それは炎のような熱さで、勢いよく弾かれた。


「ユリウス!」


 そのとき、クロエが駆け寄って来た。眉を吊り上げて、彼を非難するように睨み付けている。

 彼は敢えてそれを無視して、


「ちょうど良かった。君も手伝え。この責任を取るんだ」


 有無を言わさず彼女の手を取った。そして、体内の魔力を無理矢理引き出す。


「ちょっ――」


 彼女は抗議しようとするが、彼の数段上の魔力の流れに引っ張られて、抵抗することができない。


(ユリウスって、こんなに魔力が強かったの……?)


 並の魔導士より卓抜している彼女の魔力さえも支配下に置く彼の器量に、彼女は目を見張った。咄嗟にこれは逆らっても無駄だと判断して、仕方なく彼に身を委ねる。


 ユリウスはクロエの魔力と自身の魔力を融合させて、パリステラ侯爵を覆う魔力の層へと思い切りぶつける。割れた。すかさず彼は強く一歩踏み出して、祭壇の魔法陣へと手を伸ばした。

 そして、自身の内なる魔力を最大放出する。


「天にまします時の女神よ……!」


 彼の魔力は爆発的に魔法陣を侵食していく。


 刹那、

 けたたましい音が鳴り、カッと周囲に閃光がほとばしった。



 それは、「侯爵が破壊した国家の結界を帝国の皇子が張り直した」という、歴史を揺るがす前代未聞の大事件だった。



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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱ枯らそうとしてたのか…ってかユリウス凄えな、これまで描写が無かったから分からなかったけど並の魔導士どころかクロエとも格が違うな。
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