68 魔法大会の結末です!
「おめでとう、クロエ」
クロエがコートニーを破った瞬間、客席からユリウスがするりと降りてきて、一番に祝福の言葉を伝えた。
「ありがとう、ユリウス」
クロエはにっこりと微笑む。とても晴れやかな気分だった。本当に、今日の雲ひとつない鮮やかな青い空のよう。
逆行前は魔法が使えないせいで、コートニーから酷い仕打ちを受けていた。
あの頃は、どれだけ魔法という存在を呪っただろうか。どれだけ魔法という形のないものに憧れただろうか。
いつか、魔法で異母妹に勝ちたいと願っていた。
ついに、それが叶う日がやって来て、とても嬉しい。逆行前の自分の努力は間違っていなかったのだ。
……これで、母の名誉も回復できただろうか。
「毒に侵されそうになったときは、どうなることかと心配したよ。君が無事で本当に良かった」
「私も驚いたわ。まさか、あんな手を使ってくるなんて……」
レイン伯爵令息も継母たちの毒薬も、禁止されている闇魔法だった。
こんな場でよくも堂々と使えたものだと感心さえ覚えた。継母も異母妹も、それほどに自分のことが憎いのだろう。
彼女たちとは、きっと何度時間を巻き戻しても、絶対に分かり合えないのだと思った。
「あぁ……。しかし、お陰で大規模な闇魔法の組織を掴めそうだ。彼らの存在は帝国でも問題視されていたんだ。これで芋づる式に検挙できそうだ」
「それは良かったわ」
「――じゃあ、そろそろやりますか、クロエ様?」
「そうね」
静止している土埃の隙間から、コートニーを見る。満身創痍の肉体は、もう戦闘不可能だろう。
「……本当に、いいんだな?」
囁くような低い声音に驚いてクロエが振り返ると、ユリウスが真剣な面持ちで彼女を見ていた。それは、どことなく陰りを帯びているようだった。
「当然よ」と、クロエは決意するように強く言う。
「実行すれば、君の家門も深い傷を負う。そうなれば、君自身にも疑惑の目が向けられる可能性もある。聖女の地位だって――」
「覚悟の上だわ」
ユリウスは軽く肩をすくめてから、懐から巾着袋を取り出した。
クロエはそれを受け取る。その中には、ジェンナー公爵家の魔石がゴロゴロと入っていた。
彼女は、彼に公爵家の魔石を手に入れて欲しいと頼んでいた。それも、スコットがコートニーのために個人的に用意したように見せかけて。
彼は快諾して、早速仕事に取り掛かった。ジェンナー家の魔石は厳重に管理されているので少しばかり骨が折れたが、それでも帝国皇子の彼にとっては問題なく入手することができた。
……スコット・ジェンナーの名前で。
クロエは魔石をコートニーの周辺に散らばせて、特に大きなものは彼女の懐の中にしのばせた。
そして、
コートニーの体内を流れる魔力を、完全停止させたのだ。
◆◆◆
「なんでっ、なんで魔法が使えないのようっ!!」
コートニーは騎士の制止を振り切って何度も魔法を放った。
何度も何度も何度も……、
しかし、ついに彼女が魔法を発動する瞬間は訪れなかった。
(なんでっ……なんでよっ……なんで……なんっ……)
コートニーの瞳からぽろぽろと涙が零れ落ちた。
歯痒くて、苛立たしくて、悔しくて悔しくて悔しくて、腹が立って、悲しくて……ぐちゃぐちゃの感情が彼女の胸を掻き乱した。
さっきまで自由自在に魔法を発動できたのに、今では体内の魔力も枯渇したような空っぽな感覚だ。訳が分からない。
あたしは、たしかに魔法が使えて、それどころか、他の魔導士を凌駕する天才的な才能を持っているのに……それこそ、あの女さえも敵わないような…………。
「お前っ、魔法が使えないから魔石の力で誤魔化していたな!」
一人の騎士が、眉を吊り上げて叫ぶ。とんでもない発言に、またぞろ会場内に衝撃が走った。
「魔法が使えないのに魔法大会に出場したですって!?」
「だからあの魔石の量なのか」
「これは……前代未聞だぞっ!」
「王に対する不敬罪だ! 即刻処刑すべきだ!」
「ジェンナー公爵家もパリステラ家もお家取り潰しかもしれないわね……」
「まさか、両家で謀反を計画して!?」
貴族たちに激しい動揺が走って、波打つように騒然となった。
困惑の声はやがて非難の声に変化して、中心にいるジェンナー、パリステラ両家に襲いかかって来る。
スコットは顔面蒼白でその場に凍り付いて、コートニーは今も魔法を使って異母姉を殺そうと、ぶつぶつと詠唱を繰り返す。
「静かにするように」
しばらくして、国王の峻厳な声が響いた。
その重々しい声に、場内はぴたりと静まり返る。その場にいる誰しも、緊張感がびりりと肌の上を走った。
「スコット・ジェンナーとコートニー・パリステラは直ちに地下牢へ投獄しろ。その他のパリステラ家の者も王宮へ連行するように。騎士たちは即刻ジェンナー家、パリステラ家の屋敷を捜査。領地に滞在中のジェンナー公爵と夫人も王都へ呼び戻せ」
「「「「「はっ!」」」」」
こうして、国王主催の魔法大会は、後味の悪さだけを残して終了した。
クロエの優勝は保留――彼女も魔石で不正をしていなかったか徹底的に調査を行ってから、王自らが決定を下すこととなった。
スコットとコートニーは、貴族にとって一生縁のないような、暗くかび臭い地下牢へと収監されてしまった。
そして全ての調査が終わるまで、パリステラ家の人間はクロエも含めて、王宮の貴族用の牢獄に軟禁されることになったのだった。




