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ゴーストと呼ばれた地味な令嬢は逆行して悪女となって派手に返り咲く〜クロエは振り子を二度揺らす〜  作者: あまぞらりゅう
第二章 派手に、生まれ変わります!

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67 裏切り者の二人です!

 濁ったような暗い雲が太陽を隠して、爽やかだった風が刺すように吹き、身体を冷やした。熱い試合にあんなに活気付いていた会場も、今は禍々しい雰囲気に包まれていた。


「っ……!」


 拘束されたスコット・ジェンナー公爵令息が、荒々しく試合場に放り出される。彼の隣には、同じく縄で緊縛されたコートニー・パリステラ侯爵令嬢。

 二人の前にはクロエ・パリステラ侯爵令嬢がさめざめと涙を流しながら、しかしハンカチの奥から冷たい眼差しで見下ろしていた。


「まさか、国王陛下への背信行為だなんて……」


「建国時からの名門であるジェンナー家とパリステラ家が、そんなこと……」


「陛下はどうなさるつもりだろうか」


「これは……最悪は処刑かもしれないな……」


「なにせ国王陛下の御前試合ですものね」


 ひそひそとした囁き声が重なって、さざ波のように彼らのもとへ運ばれて来た。

 スコットは羞恥心で思わず顔を伏せ、唇を噛んだ。コートニーはふるふると身体を小刻みに震わせながら、異母姉のことを憎々しく睨め付けている。



「やっぱり……」張り詰めた沈黙の中、クロエが口火を切る。「二人は、そういう関係だったのね……。それで、邪魔な私を陥れようと……」


「違うっ!!」


 スコットはがばりと勢いよく顔を上げて、愛しの婚約者を見る。その双眸は、真実が映っているかのように澄み切っていた。


「僕は知らない! これは陰謀だっ!」


「で、でも……実際にコートニーがジェンナー家の魔石を持っていたじゃない!」


「だからっ、本当に知らないんだ……!」


「あっ」それまで黙っていたコートニーも口を開く。「あたしも知らない! どうせ、あんたがなにか仕組んだんでしょう!?」


 クロエは目眩でふらついたように身体をぐらりと揺らして、


「そうやって二人してしらを切るのね。……私、あなたたちがこっそりと会っているのを知っていたわ」


「それは誤解だっ、クロエ!」


 スコットは必死で訴えかけるが、婚約者は彼の目さえ見てくれない。

 会場内は令嬢を中心に、スコットとコートニーの忌まわしい話題がみるみる広がっていった。


「やっぱり、わたしの勘違いじゃなかったのね。以前からおかしいと思っていたの」


「私、スコット様とコートニーさんが二人きりでいるところを見たことがあるわ」


「公爵令嬢のお茶会のときだって、スコット様とあの子は抱き合っていたわよ!」


「クロエ様は聖女として国のために頑張っていらっしゃるのに、二人はその間に浮気ですって?」


「最低だわ……」


 疑惑と軽蔑の目が、スコットとコートニーをぐるりと取り囲む。

 初めて浴びる痛いほどの鋭い視線が、スコットの胸を重く突いた。かっと身体が熱くなって、打ち震える。


「ちがっ……」と、彼は力なく抗議の声を上げた。


 しかし、それは届かない。


 にわかに目の前が真っ暗になった。

 公爵令息である己の言葉を聞いてもらえない、信じてもらえないという未知の体験に、彼はただ項垂れるしかなかった。

 


「二人が愛し合っているのなら、私も潔く身を引こうと考えていたわ。……でも、こんな恐ろしい計画を考えていただなんて」


「はぁっ!? なに言ってるの!」


 黙り込むスコットの代わりに、コートニーが大声を上げた。顔を真っ赤にさせて、ぎりぎりと歯噛みする。

 悔しい。これ以上、この女にやられっぱなしでいるものか。絶対に無実を証明して、返り討ちにしてやる。


「あたしは魔石なんて使っていないわ! だって、そんなの使わなくても強いんですもの。たしかにスコット様とは愛し合っているけど、試合で魔石を使う話なんてしたことがないわ!」


 彼女は勢い余って「愛し合っている」と、余計な一言を付け加えてしまう。それは全くの出任せだが、今の二人を取り巻く状況を顧みると、ますます不利に動くのに馬鹿なことを……と、クロエはほくそ笑んだ。


「コートニー、国王陛下の前でこれ以上嘘を重ねては駄目よ」と、素知らぬ顔で異母姉は言う。


「うるっさいっ!! 嘘つきはあんたでしょっ!!」


「ちゃんと自分の罪と向き合って? 可能な限り、私も精一杯のお手伝いをするから」


 クロエはまたもや汚れのない美しい涙を流した。

 婚約者と異母妹の裏切りを前にしても聖女はなんと慈悲深い……と、場内の同情が一斉に彼女に向けられる。


 もう、コートニーとスコットに与する者は皆無だった。彼らの唯一の味方は、客席で騎士に囲まれて逆上しているクリス・パリステラ侯爵夫人くらいだ。

 それでも、コートニーの怒りは止まらない。


「はあぁぁっ!? なに良い子ちゃんみたいなことを言ってんのよ! 全部あんたが仕組んだんでしょうっ!?」


「コートニー……なにを言っているの?」


「ふざっけんな! ブス!」


 にわかに、ずっとへたり込んでいたコートニーは、渾身の力を込めて立ち上がった。


 そして、


「死ねっ、クソ女っ!!」


 右手にありったけの魔力を込めて魔法を――……、


「えっ…………」


 彼女の手からは魔力の欠片さえも放出されなかった。


「ちょっ、ど、どういうことっ!?」


 もう一度、魔法を使おうと試みる。しかし、何度やってもなにも起こらない。

 体内の魔力の流れを感じようとしても……一滴さえも、残っていなかったのだ。



「なんで……なんで魔法が使えないのっっっ!?」


 コートニーの大音声の金切り声が場内に響いた。



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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ当然また魔力止めるよね。 そしてやっぱりコートニーの一番の被害者は今のスコット…マジでお気の毒に。 コートニーは自業自得だから出来るだけ重い処分になる事を願うとして、今のスコットは半とば…
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