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第一話 満天の星の下で

満月に照らされた複数の影が映し出される。

その影の集団は、ある一点を目指して走り続ける。


目的地である場所を発見すると、先頭を走る男が右腕を上げ合図を送る

後方を走る一部の集団が右方向へと進路を変え駆け抜けていく

今度は左腕を上げ合図を送ると集団の一部が左方向へ進路を変え3方向へ展開する。


残りの集団はそのまま直進し、目的の地点を囲うように陣形を組む。

森を抜け平原に出たところで全員が一斉に武器を構え駆け抜ける。


この集団は伊賀忍者一族の精鋭部隊。

集団を率い先頭を走る男は、この伊賀の里で最強の男と言われている正虎であった。

(目指すは織田家本陣!総大将織田信雄の首のみ!!)


正虎率いる精鋭部隊は、夜の平原を疾走する。

夜空に輝く満天の星々、おおよそ 夜襲には向かない状況ではあるが、

あの場所へ本陣を築いた今夜しか機会はないと判断しての行動だった。


満月が味方をしているのか、視界に映る敵兵の数は予想より少ないように見える。

だがしかし、それはあくまでもこちら側から見ての話であり、織田軍側から見ればどうだろうか?

夜襲を仕掛けてきた敵軍の規模などは一切分からないはずなのだから、当然警戒しているだろう。

それこそ寝ずの番も立てているかもしれないのだ。


そんな事を考えながら走っていると、北東にある森林の茂みがガサガサっと音を立て揺れ動く。


次の瞬間、ドダダーン!!!


種子島の銃声が響き渡り、先ほどまで正虎達がいた位置を銃弾が通過していった。

その攻撃により何人かの兵が被弾したようで、悲鳴と共にバタバタと倒れ込んでいく。

「伏兵!?」


正虎達は身を屈め銃撃に晒されない様に回避行動をとる。

すると今度は、北西の森林の茂みが揺れ動き、ドダダーン!!、再び発砲音が鳴り響く。

その銃弾は、またもや先程の位置を通過していき、次々と仲間を撃ち抜いていった。

(夜襲がバレてる?まさか内通者が!!)


目的の敵陣に気づかれずに強襲する手はずだった仲間達は銃撃を受けた事に動揺した。


「慌てるな!次弾が来る前に距離を詰めるぞ!」


立ちあがった正虎が走りながら両手を合わせ印を結ぶ、彼の前方に風が巻き起こり

それは次第に竜巻へと姿を変えた。

【風遁・大旋風】


竜巻は草木や土煙を巻き上げ鉄砲隊の視界を遮ると同時に、仲間の移動速度を上げる効果もあり

風の力によって高速移動する集団は一気に敵の懐に飛び込むことに成功した。


それを遮るように織田の足軽達が立ち並び中心に立ち塞がる鎧武者の姿があった。


「織田家侍大将 阿部源左衛門である!我が主の命によりここから先へは行かせぬ!」


「退けぇええい!邪魔立てすれば斬るぞ!」


「やってみるがいい!この源左衛門が相手になってやろう!」

源左衛門は槍を構え正虎の前に立った。


正虎は源左衛門に向かって走りながら両手を合わせ印を結ぶ

【三身複写】

すると正虎が3人に分かれ攻撃を仕掛けてくる。


「ほう、分身の術か面白い!」


源左衛門はそう言うと、右手に持つ槍を回転させ薙ぎ払い3体の正虎を攻撃した。

一体目の分身が槍に薙ぎ払われ消滅し、二体目は飛び上り薙ぎ払いを避けそのまま上空から切り掛かる

三体目は身を屈め槍をかわし下段攻撃を仕掛ける。


「甘いわぁあああ!!!」


源左衛門は下段攻撃を前方へ飛び上り避けた、正面に向かい槍を突き出す。

空中にいた為、避ける事が出来ない二体目はその突きをかわしきれず消滅する。

着地した隙を付こうと背中から切りかかってきた三体目の攻撃に対し

振り向かずに槍を回転させ背後の三体目を切り払った。

勝利を確信した源左衛門だったが………


「ぐっ、がはっ、ば、馬鹿な、4人いただとぅ、ぐぅっゴフゥッ」


喉に刃が付きたてられていた、正虎が3体の分身に紛れて死角を付き首を切り裂いていた。

崩れ落ちるように倒れる源左衛門を見下ろしながら正虎は刀についた血を振り払う。


仲間の忍び達が他の足軽達も切り伏せていたようで既に戦闘を終え、敵本陣目掛け駆け上がる


「目の前にあるは総大将、織田信雄本陣!!あれさえ落とせば我等の勝ちよ!」


正虎の声に力がこもり、仲間達はそれに呼応するかのように雄たけびを上げた。


「うおおぉー!!」

「突撃ぃいいい!!!」


夜襲で声を張り上げるなど愚の骨頂ではあるが、士気高揚の為にも必要な事だった、

何より敵鉄砲隊の配置場所から考えても今回の夜襲は敵に把握されてる可能性が非常に高い。

ならばこそ、正虎達は敢えて声を出し自らを鼓舞する。


正虎率いる忍達は電光石火の勢いで走りだし信雄本陣へと向かって行った。


「見えたぞ織田木瓜紋!!」


あの家紋を見るだけで怒りが沸いてくる、故郷を蹂躙され、非戦闘員である女子供も容赦なく

殺戮された。

正虎は歯を食いしばり怒りを抑えこみ、さらにスピードを上げ敵陣へ突っ込む

夜空に浮かぶ織田木瓜の家紋の旗が目に入り、それが織田家本陣である事を確認する。


「なんだ!?あの黒い風のような物は?」

「わかりませぬ!しかし凄まじく速い」

「陣形を整えろ、鉄砲隊は前列に並べ、弓兵は後方だ、急げ!」

織田家足軽大将の指示の元、兵達は迅速に動き始めた。


総大将織田信雄がいるであろう本陣を守るように織田軍の兵士達が陣形を組んで

待ち構えているのが見える。

(数はこちらの2倍か、しかし正面突破しか道はない!)

「皆のもの!ここが正念場だ!進めぇえええ!!!」

「「「うおぉおおおおおおおおお!!!!」」」


正虎は左手で印を結ぶ、そしてもう片方の手で手裏剣を投げた。

すると、その手裏剣は空高く舞い上がり、まるで流星の如く落下していく。

それは敵陣の頭上を通り過ぎようとした時、突如として爆発を起こし爆炎が広がっていく。

【火遁・爆炎投射手裏剣】


「うわわ!、火、火がぁあ!!」

「燃え広がるぞ!」

「消火しろ、早く消せ!」

「技の派手さに惑わされるな!、敵の数は少ないぞ!落ち着いて対処せよ!」

「怯むな!回り込んで囲め!敵の大将を討ち取るのだ!」


(ちっ、さすが場数を踏んだ兵士だけあって、混乱せずに冷静な判断しやがる)


燃え盛る炎に包まれる敵陣、その中央を正虎率いる精鋭部隊は駆け抜けていく。


「信雄は目の前だ!駆けよ!!」


怒号と共に一斉に仲間達と織田本陣へと流れ込む。


がその瞬間、バサァッ!と本陣の天幕が落ち、目の前に種子島を構えた足軽が20人程現れ

一斉射撃してきた。


阿保アホがぁ!!、放てー!!!」


ドダダーン!!!っと銃弾が撃ち込まれ仲間達は次々に倒されて行く

中には運悪く種子島の弾を頭にくらい首だけになった者もいて、辺りは地獄絵図のように

仲間の死体が転がっていく。


「二列目前え!、第二射構え!放てー!!!」


ドダダーン!!!再び鉄砲隊の銃弾が撃ち込まれ、さらに激しい銃撃に晒される。


「怯むなぁあああ!!」


それでも正虎は仲間の士気を上げる為に声を張り上げる。しかしそんな声も虚しく

仲間の悲鳴が響き渡る。


(う、ぐっ、左肩と右の太ももに喰らったか)


痛みに耐えながら、なんとか意識を保ち正虎は立ち上がった。


「くそぉ!こんな所でぇっ!!」


歯を食いしばり、足を引きずりながら前に進む。


銃弾が飛び交う中、仲間の忍びが次々倒れていく。

だが、それでも仲間達は怯むことなく敵陣に突っ込んで行く。

しかし、多勢に無勢、次々と撃たれ、切られ、倒れる者が増えて行き、もはや戦える状態ではなかった。


肩を押さえながら何とか立ってはいる状態だが、正虎を残し全員討ち死にしてしまった。


「おのれぇええ!信雄ぅうううううう!!!」

「間抜けが信雄様はここにはいないわ!!」

「なに!?」

「この陣は貴様らを誘い寄せるための囮よ!!」

「謀られたか……」


ここが囮だと脳裏によぎらなかった訳ではなかったが、信勝自身は本陣にいるとばかりに

自分たちに都合の良い考えを無意識のうちにしていた。


織田の足軽大将が手負いの正虎を捕縛するよう命令を下す。


「何か情報を持っているやも知れん、捕らえよ、抵抗するならば切れ!」


周りに縄や槍を構えた足軽達に囲まれたが、正虎はこの状況を何とか打破しようと足掻いていた。


「ハァハァ、うっ、くっ!」


正虎は刀を構え、近寄る足軽を目で威嚇するがじりじりと包囲を狭めて来る。


「諦めよ、その傷、早々に塞がねばこのままでは死ぬぞ、おとなしく降伏せよ!」

「ふざけるな!我が命惜しさに誰が従うか!!」

「そうか、ならば死ねぃ!」


ドスッ!


「グハッ!?」


脇腹に槍を突き立てられた。しかし正虎はひるまず刀を振るい、近づく足軽の一人の腕を切り落とした。


「ぐぁぁ、う、腕!俺の腕がぁぁ」

「ハァハァ、う、腕一本くらいで泣いてんじゃねーぞ雑魚がっ!」

「貴様ぁあああ!!」


激高した足軽は槍で突こうとしたがそれを見切り、正虎は素早く懐に入り込み斬り捨て、さらに

2人、3人と切り捨ていく、囲む足軽は残りは4人になっていた。


(くそっ!、はぁはぁ、血を流しすぎたか…い、意識が…)


正虎は印を結ぼう両手を構えようとしたその時!


「げっうぁっ!!がはぁっ!、ハァハァ」


背後から腹部を槍で突かれた、後ろを振り返り鬼の形相で睨み付け


「何すんだテメェェェ!!!」


その鬼気迫る迫力に槍を突き刺した足軽は一瞬怯む。


「き、斬れ!今のうちに殺すのだ!」


足軽達は正虎の体を切り刻むように槍で滅多刺しにする。


「ぐ、がぁ、う、グッ、ゴフッ」


口から血反吐を出しながらも正虎は印を結ぼうとするが


「おのれぇえ!往生際が悪いぞ!!」


足軽が刀を切り上げ正虎の右腕が宙を舞う。


「ぐあぁっ!、くっ、ハァハァ、こ、この野郎!!」


左手で印を組もうとすると左腕も切り落とされ、両膝を折りその場にへたりこむ。


「ぐぅっ、はぁはぁ、はぁっ」


もはや正虎には立ち上がる力も残っていなかった。


「終わりだな、とどめをさせぃ」


足軽達は正虎を囲むと刀を頭上に掲げ振り下ろそうとした瞬間


「伝令!!」

「伊賀総大将、百地三太夫が信雄様がおられる織田本陣を急襲!!、乱戦状態となっております!!」


その言葉を聞き足軽達の動きが止まった。


「なんだと?、百地自身が織田本陣に討ち入った?」

「はい!織田本陣に突如現れた百地の忍びにより、織田軍は大混乱に陥り敗走中とのことです!」

「馬鹿な!あり得ん、あの百地に奇襲を許すとは・・・」

「未確認ながら、既に堀様、滝川様 丹羽様が討ち死にされたとの事!」


これは事実では無い、伊賀忍よる情報操作、偽情報だった。だがその嘘の情報を信じる者が大勢いた。

荒唐無稽で出所不明な情報でも誰かが真実かのように言いふらせばそれは噂となり、やがてそれが

本当の事のように錯覚してしまうのである。


「ええい!信長様不在時にこのような失態、許さんれんぞ!すぐにでも本陣に戻り加勢せねばなるまい」

「お待ちください敵の陽動の可能性は?」


足軽達は顔を見合わせ思考を巡らせるが考えはまとまらない。

万が一本当だった場合は織田信長は自分たちを許さないだろう、いやそれどころか家族まで

危険に晒される。


「ど、どうしますか?」

「この場の我らの勝利は間違いないであろう、本陣へ参るぞ!」

「ではこの男は……」

「捨て置け!、どうせ助かるまい、そのまま苦しんで死ねっ!!、一刻を争う、行くぞ!!」

「御意!」


足軽達は正虎を放置し織田本陣へと駆け出した。


「ぐっ、がはっ、ごほっ、ごほっ、ハァハァ、ははは、百地の爺がうまくやったみたいだな、

さ、さすが、くくっ、天下の忍びは伊達じゃねぇな……、信雄ざまあみやがれ」


正虎はうつ伏せで倒れたまま動けずにいたが笑っていた。

薄れゆく意識の中で正虎は目一杯笑った…、呼吸が浅くなりだんだん辺りが闇に包まれていく

だが正虎は満足していた。


(故郷の為に戦い、戦場で散る、俺の人生は悪くなかったな……)


こうして正虎は死んだ。



天正9年(1581年)第二次天正伊賀の乱

第一次天正伊賀の乱で敗北した織田信長は雪辱を晴らすべく再び織田信雄を総大将に命じ

滝川一益、丹羽長秀、堀秀政、織田家重鎮に加え他多数の武将を引き連れての出陣であった。

総勢5万人以上の大軍である。伊賀一国に対しあまりにも多勢に無勢であったが、予想に反し

伊賀勢が奮闘する。

ゲリラ戦を展開して敵を翻弄しつつ少数精鋭による夜襲などを繰り返して戦力差を埋めていった。

しかし物量に勝る織田軍に、次第に追い詰められていき、百地三太夫も討ち死に、織田軍は伊賀全土を

制圧する事に成功した。

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