エピローグ
新サンポ戦争から二十年以上が経過した。
西暦は2200年代に入り23世紀に突入。現代に現れたダンジョンはゆるやかに拡大しつつあった。
「またダンジョンが現れたらしいぜ」
「今度はどこだよ」
陸上自衛隊朝霞駐屯地では噂話が広がっていた。
隊員が朝食を取っている宿舎でも、その話でもちきりだった。
「栃木の那須高原だ」
「待て。そりゃあの超大物の……」
「そう。九尾狐の玉藻の前だ」
「玄翁和尚を召喚しないと!」
「無理だっての!」
那須高原全体が巨大なダンジョンになっている。
「――だがな。もう解決されたらしい」
「へ?」
「第一世代のミルスミエス乗りパーティがもう封印したってよ」
「第一世代って20年以上前かよ」
戦車や戦闘気の更新は時間がかかるが、ミルウスミエスはマニューバ・コート。つまり軍服でありパワードスーツ扱いだ。
最新装備に改良が重ねられ、現行型のミルスミエスは第四世代となっている。
「しかも神殿に隠されていたらしいぜ」
「神殿ってあの首都圏外郭放水路か!」
埼玉県春日部市にある大型治水施設は通称神殿と呼ばれている。巨大な柱が厳かな神殿を思わせるのだ。
「出撃する四機のマニューバ・コートがいたらしい。先頭は聞いて驚くなよ。第一世代のマニューバ・コートだってよ」
「まじかー」
「しかしミルスミエスは旧式のほうが強いらしいからな。第一世代のマニューバ・コートは仕様の不具合で廃棄されていたはずだが、残っていた機体もあったんだな」
四大の力に限定されていたマニューバ・コートは守山たちの手によって廃棄処分になっていた。
「それでも玉藻の前を倒すとはどんな連中だよ」
「今から朝霞駐屯地に来るらしい」
「今日って、マニューバ・コートを開発したお二人が来る日だろ! 守山先生と堀川女史!」
「ああ。その二人も彼らに会うことが目的らしい」
「知り合いだったということか」
隊員たちは納得する。今やミルスミエス開発者は伝説的な存在だったのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
第一世代のミルスミエスを載せた車輌が高速道路を走っている。
玉藻の前討伐を終えたパーティ。ジンたちだった。
「ここが日本なのね。以外と山だらけだねー」
「もっとビルだらけかと思ってた」
ルスカとアイノが日本の感想を述べる。
那須高原から東北自動車道の風景は、日本のイメージとは違ったのだろう。
「いうほど武器も進化していなかったね」
「いまだにM2機関銃が現役だからな。200年ものだよ」
急激な進化とはいっても、2100年の東京はガソリンのハイブリッド式自動車と電気自動車がまだ併用されている。
電気自動車は寒冷地に弱く、全個体電池が普及した現在でも、万が一に備えて自衛隊車輌はハイブリッド方式が好まれている。
「俺は東京観光といきたいがな」
シルヴィが搭乗するエルヴスの後部座席にセッポが身を屈めて乗っている。ほぼ体育座りだ。
「そこまでして現世にきたかったのかセッポ」
セルヴィも呆れている。戦闘中もただじっと後部座席で耐えていたセッポだった。
「正確には秋葉原だな!」
「今はどんなふうになっているのだろうか。精霊には毒だと思うから、観光は一日だけだ。すぐ帰るぞ」
ジンは首を横に振る。
今や都会の喧噪は体に毒だと感じる身になってしまった。
「青果市場の跡地が家電屋になったそうだが」
「いつの話だ?!」
ジンにはまったくわからない秋葉原の施設だった。
「二ヶ月ぶりの現世だけど、二十年経過したのか」
「今回はぎりぎりだったね。あと一ヶ月もすれば、カレヴァが完全に閉じられるところだったよ」
サラマの言葉にジンが同意する。ジンが普通に生きていれば六十を超える。
カレヴァであと一年も過ぎれば、現世に戻ったときになんらかの身体的な影響が強くでると思われた。
朝霞駐屯地に到着すると、パレードのような式典で歓迎される。練馬区の駐屯地から陸上自衛隊東部方面音楽隊が出張していた。
ミルスミエスのコックピットを開くと、隊員に無言の動揺が走った。本物のエルフに、白金髪の美少女、トナカイ角の美女がパイロットとは思わなかったのだ。
熱狂的な歓迎に、ルスカが元気よく手を振り返す。アイノは恥ずかしそうに、「モイ」とだけ挨拶を返した。
「あの浮いている美少女は何だ!」
「精霊の姫様らしいぜ。リーダーが日本人で、フィンランド出身の人間やエルフらしい」
ジンがコックピットのハッチを開くと、サラマがジンの後ろからしがみついている。体が浮いているのだから驚くものは多いだろう。
ダンジョン経験者は多くても、精霊は初めての者が多い。
「天狗に助けられたことはあったが…… 美少女精霊いいなあ!」
「俺は河童だったな…… 羨ましい!」
人間に好意的な妖怪もぼちぼち現れているが、日本にエルフはいないのだ。
ジンたちの元に年老いた男女が歩みよる。あれから二十年。定年退職を迎えて老後を過ごしてなお、忙しくミルスミエスの研究に携わっている守山と堀川だった。
今回は彼らのSOSで、ジンたちが直接日本に顕現したのだ。
「そうか…… そんなに時間が経ったか」
守山たちに深く刻まれた皺が、歳月の重みを実感させる。
ジンたちはミルスミエスから飛び降りる。
懐かしさに涙ぐむ二人に駆けよって、みんなで抱きしめるのだった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります。
思えばフィンランド神話を題材にした作品を書こうと思ったのはファンタジーの原典という性質と日本神話との類似性でした。
カレヴァラ表記はフィンランド語発音に近くしたものでした。
あとは「突然現代にダンジョンが生じて、銃も効果がなく、でも剣や魔法が使えて配信実況!」みたいな世界を自分なりに解釈したらどうなるかということでメカ物にして執筆しました。
横にも広げられるようしましたが、そこまでの需要でなかったのが歯痒い思いですが力量の不足ゆえ精進したいですね。投げっぱなしで新作エタをする気はありませんでした。ようやく書き上げた次第です。
幽世の世界に迷い込んだものは幽世の世界に帰る。そんな終わりにしたかったので、無事完走できました。
応援してくださった読者の皆様すべてに感謝を。
ありがとうございました! これにて完結です!




