新サンポ戦争 前編
カヤーニで合流したフィンランド陸軍と日本外征部隊を中心としたNATOと新国連軍はクーサモで一度停止する。
クーサモの空港から偵察機が飛んでいき、モンスターを確認した。
「オウガとトロルを主力としたモンスター部隊を確認しました」
「モンスターの質が上がっているな」
守山が顔をしかめる。以前はゴブリンが多かった。オウガや再生可能なトロルは通常の部隊では対応不可能だ。
「トロルはサムライとニンジャ、ブディストモンクに対応させよう」
ブディストモンクは日本外征部隊のためにやってきた日本各宗派の僧侶である。ミルスミエスに乗ってみたい僧侶が乗ったところ、新クラスが発覚した。
ほぼ全員が志願して、ミルスミエスを支給されることになった。
結印や主としたい仏の効果を選択できるので、宗派対立もほぼない。モンクという言葉のせいで無手の戦闘や槍も得意とするが、攻撃魔法と装甲復元魔法が使えるチートクラスになってしまった。
実は同じような効果をもつエクソシストというクラスも存在したが、こちらはバチカンの意向によって秘されていたということも判明した。
「オウガは我々が対応しよう。オウガなら人でない分、良心の呵責も感じないしな」
フィンランドの陸将も戦意が旺盛だ。スナイパー補正はフィンランド軍全体の士気を大いに高めている。
「かのシモ・ヘイヘも最後までカレリア奪還を訴えていたからな」
「国境沿いでフィンランドとルーシの抗争に巻き込まれていた地だ。カレリアは我らの土地だという地元住人の思いがロウヒをを呼んだのかもしれない」
冬戦争で奪われたカレリアの地は、フィンランド人も諦めてはいないのだ。
アルカイム連邦のカレリア共和国への進軍は望む所だ。
「相手には機械のドラゴンがいる。慎重にな」
制空権は戦闘機とドラゴンやワイバーンとの死闘になる。
日本外征部隊は50年以上前に実践配備されたF-3戦闘機を投入。第五世代戦闘機の先駆けなだけはあって、ドローンと連携した戦闘能力は折り紙付きだ。
フィンランド空軍はシベリウスを待機させている。F-3戦闘機とは姉妹機にあたる。
第六世代ともいうべき次世代戦闘機はいまだ難航中だ。ドローンの性能向上で有人機開発は停滞している。
バルト海からの支援は期待できない。
陸上戦力と空軍戦力で鋼のモンスターに対応するしかないのだ。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
空軍戦力はドラゴンやワイバーンと対峙する。
F-3やシベリウスは近代化改修が施され、大型ドローン母機としての役割が強くなっている。
鋼のドラゴンは空中で挟撃されると思わず、吼えたける。
ブレスも決定打にはならない。
シベリウスに、放電現象が襲う。
「雷撃魔法か!」
チタンとセラミックの複合材ならではの防御力で、被弾に耐えるシベリウス。
地上からフィンランドのミルスミエス狙撃部隊が援護射撃に入る。
歩兵では不可能な大火力。105ミリ砲弾による狙撃だ。ドラゴンたちは戦闘機の対空ミサイルと地上からの対空ミサイルや狙撃によって墜落していく。
その間に戦車と歩兵戦闘車が先頭を走り、自走砲や多連装ミサイルユニットで編成された後続車両で編成されている。
随伴歩兵は当然ミルスミエスやマニューバ・コートだ。新国連軍やNATO軍の兵士たちはミルスミエスの多彩な能力に羨望のまなざしを向けている。
ミルスミエス生産国は日本とフィンランドのみ。しかも生産可能な理由としては宗教上の理由という、他国からみれば非論理的な理由なのだ。フィンランド国内でも搭乗可能な人間が制限されていることは不平等だと問題視され始めている。適性の問題は倫理で解決できにも関わらずだ。
「ナウマク サマンダボダナン インダラヤ ソワカ」
冷静に対処するブディストモンクは帝釈天真言を唱え、ドラゴンを一撃で撃破する。
新国連軍に動揺が走る。彼らの秘密部隊エクソシストは対アンデッド特攻だけだからだ。
「どのような宗教なら可能なのか」
新国連軍総司令官に問い詰められる守山。
「彼らが唱えた呪文、つまりお経もサンスクリット語です。ヒンドゥー教徒やバラモン教徒でも扱えると聞いております」
実際、GDP二位の地位にいるインドからミルスミエス輸出要請の圧が凄い。ミルスミエスに彼らのカースト最上位に位置するブラフミンという特殊クラスが発生したのでなおさらだ。
日本政府も札束に屈する形でやむを得ず三機を輸出したが、それから先は経産省や外務省がノイローゼになるほどの猛アプローチだという。
「何故我々には神の恩寵がないのだろう」
「マニューバ・コートで十分ではないですか。基本クラスや上位クラスは揃っています」
マニューバ・コート開発時に欧米から四大精霊制限をかけられたことを根に持っている守山だった。この総司令官は知るよしもないだろう。
「ミルスミエスは特殊クラスが多すぎる」
多神教に基づく設計のミルスミエスなので多くは語らない守山。新国連軍総司令官に話しても激怒されて終わるだろう。
そういう意味ではフィンランドも国内の宗教対立に発展しつつあり、危うい。何故か独自開発に成功しつつあるイギリスがおかしいのだ。
「やることは変わりませんよ。空爆や榴弾砲やミサイルで敵の陣地を焼き払い、進軍する。鋼のモンスターなら破壊できるのですから」
守山はそう言葉にすることが精一杯だった。
「それにそちらにもあると聞いていますよ。特殊クラス法王が使える無差別範囲超高温魔法神の激怒と大規模地殻変動魔法最終戦争領域。祝福というものらしいですね」
「その二つは威力が高すぎて使ったら、半径数百キロメートル内の友軍が壊滅するほどの威力なのだ……」
「太平洋のジョンストン島で試射してしまったんですよね」
日本も高エネルギー反応は確認している。ありえない出力のヴァーキも観測された。
ジョンストン島はミッドウェー島から1000キロメートルほど離れたところにある無人島だ。
高高度核実験や生物兵器などの保管庫として米軍が管理していたが、空港も閉鎖され長らく無人となっている曰く付きの場所だった。
「二度とやらん! セムの民すべての各宗派で禁止の祝福扱いに指定された」
「そこまでですか……」
「戦略レベル兵器という言葉すら生ぬるい。パイロットだった者は修道院に引きこもってしまったよ。戦術レベルの戦力が欲しいところだが、信仰が絡む兵器とは使い辛いものだ」
「まったくです」
不動明王真言を唱えてトロールを焼き尽くしているサムライやブディストモンクを眺めながら、しみじみと実感する守山。
ミルスミエスやマニューバ・コートが新たな戦乱の火種になる予感がしていた。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
最終話に向けて頑張って執筆しています。が、現実の世界情勢が混沌としすぎていて読めません。
カレリア装甲車は採用されるだろうなと思ってその予測が的中したものの。
戦闘機。ローバル戦闘航空プログラム(GCAP)の日英伊。さらにはサウジやスウェーデンまで絡みはじめて、本当にどうなるのか。国際共同開発は空中分解しやすいので日本単独でということも個人的には願っています。
2022年12月に日本国政府とスウェーデン王国政府との間の防衛装備及び技術の移転に関する協定の署名を結んでいます。グリペン好きだけど。グリペンそんなに航続距離要らないやろ! みたいな。
おそらくサーブはGCAPには参加しないのかな、と。
グリペンも後継機模索するということで小型戦闘機の神髄が楽しみですね。




