攻略ルート
「ロウヒの出現ポイントを確認した。ルーシのコラ半島の外れ。カレリア共和国の集落ロウヒだ」
セッポが重い口調で告げる場所。 ジンにとっても因縁の場所である。
「名が因果,か。当然の場所だな」
ジンはマニューバ・コートが半壊になりながらも生き延びた地。カレリアのロウヒ。
同僚や上官は亡くなった。現世では十年以上前だが、ジンにとっては半年前の出来事になる。
「ロウヒだって本来は地方の女神。神話を統合していくうちに、今の形に落ち着いたわけだ」
「たくさんあるのか」
「ロウヒはカレヴァラではポポヨラの女主人としか記載されていないんだ。ロウヒ自体が数ある名前の一つに過ぎない大本はフィンランド神話の冥府の女王ロヴィアタールを中心に、サーミの伝承、北欧神話のヘルや霜の巨人ヨトゥンの伝説、ルーシのバーバ・ヤーガの邪悪な側面などが編纂されて今の形になった。9つの病を生み出し、世界を蝕むという概念はカレヴァラならではだな」
「バーバ・ヤーガはたまに良いことするもんね。たまに」
どうやらルスカはバーバ・ヤーガを知っているらしい。
「どれぐらい古い女神なんだろう? 古さも強さになるんだろ?」
「俺達の原型か。青銅器時代ぐらいに遡れるぞ」
「紀元前三千年あたりですね」
菅原はすぐに理解したようだ。
「カレヴァラとして近代に再登場したのが18世紀だからな。それまでは異端、異教扱いだ。だから今では信仰している人間など1%もいないというわけさ。ロウヒは愛国の女神として地元では敬愛されているぞ」
「ロシアの一神教いいのか」
「色々あるのさあっちも。共産主義自体が宗教みたいなもんだからな」
セッポが肩をすくめる。
「ロウヒは巨人、鉄、そして蝕むという概念を利用してゲームのようなルールを現世に適用した。腐っても女神だ。今回も倒して十年封じられるかどうかだ。概念を殺すことは不可能だしな。ロウヒは海に落とされたという逸話はあるが、倒されたという伝承はないんだ」
「今回の顕現に関しては倒さないと現世のダンジョンは加速化する。君たちが倒さねばならない」
セッポの言葉に菅原が先の言葉を紡ぐ。
「モンスターがフィンランド国境沿いに集結しつつある。日本外征部隊とフィンランド合同軍で対処する。君たちはロウヒを倒してくれ」
「前回のようにならなければいいが……」
「今回は前回と違う。ミルスミエスもあればマニューバ・コートもある」
ジンの懸念に守山が遠い目をする。前回はマニューバ・コートの初陣にして甚大な被害を出した。
「今回はミルスミエスで経験を積んだ日本外征部隊のサムライやニンジャ、フィンランド軍のスナイパーもいます」
「そうだ。前回とは違う。それに専用に強化されたシデンがある。あとは攻略するのみか」
守山と堀川の二人もまた、十年越しの悲願でもある。
「前回と大きく違う点もありますよ。まず幽世や幻想に対する知識。次に我々の存在です。決して他の神々もロウヒを良しとはしていないのですよ。倒しましょう」
菅原の言葉にセッポやイネが頷く。
彼らはロウヒを倒すために顕現したのだ。
守山が作戦のための図形を表示した。
「作戦概要を説明しよう。新国連軍と日本外征部隊、および自衛隊は二手にわかれる。主力はフィンランド旧首都トゥルクから。もう一方はフィンランドの都市オウル近くのコッコラから中央オストロボスニアを経由して進軍。ココオラは英国とやりあった曰く付きの港だが三百年前近くも前の話だ」
ルートを確認する。
「合流はカヤーニか」
「カヤーニだ。そこから北。クーサモへ進軍。クーサモ国境検問所からアルカイム連邦のカレリア共和国に進軍する」
クーサモ。瀕死のジンとシデンが目指した場所だ。空港があり、拠点とするならこの場所だろう。
「モンスターの他にアルカイム連邦も警戒しなければならないですね」
菅原が警戒しているアルカイム連邦はルーシの異神たちが興した国家だ。かつてのノヴゴロド連邦は今やみる影もない。
「ロウヒとは同盟関係だろうな。新NATO海はこちらの制海権。陸戦主体になるだろう」
「俺達はどうするんだ?」
「それだな。俺達は白海に出る」
セッポがにやりと笑って、アルカイム連邦の地図を指す。
「カスガで白海・バルト海運河を運行することは不可能ですね」
イネがセッポに確認をする。この運河は小型船用だ。
「その通り。カスガは幽世を通って白海に転移だ。下手をすれば片道切符になりかねん。だからジン以外の生きている人間はここでお別れだ」
「そうだな」
「なっ! 我々も残りますよ」
堀川にとっては思いもよらぬ提案だ。
「ダメだ。あんたたちは幻想に理解がある。新国連軍や日本外征部隊の支援のあたってくれ」
「しかし!」
「おそらくだが、俺達が海上に出ると、直接ロウヒが襲ってくるんだよ。そりゃもう、間違いなくな」
「サンポ戦争の再現ですか……」
「賢者ヴァイナモイネンはいないがな!」
笑うセッポ。
「サンポ戦争ってカスガの動力か?」
「そうだ。富と幸福を約束する魔法の箱。アーティファクトのサンポ。フィンランド神話では避けて通れない物体だな。俺達はロウヒに奪われたサンポを巡って争い、ロウヒは海に落ちた。叙事詩カレヴァラではそうなっているな」
「サンポはどうなったんだろう」
「海に落ちて塩を作り続けているな」
「日本にも似たような話があった気がする」
「塩吹き臼ですね。ええ。日本にもあります。無限の臼の昔話に海外の影響を受けたという説が有力ですね。塩を作り出す臼はギリシャ神話やノルウェーの伝承、中国など普遍的に存在するテーマでもあるんですよ。もっとも古い伝承はヨハネの黙示録ともいわれています」
菅原がジンの疑問に答えた。
「人間にとって塩は重要だからな。サラリーの語源だ」
堀川が苦笑する。
「顕界するエネルギーもサンポだったな。ロウヒにとっては間違いなく手に入れたい代物か」
「その通り。だから最悪ロウヒごと幽世につれて行く手段もある。乗員が人間の場合、ジンのようなウラシマタロウになってしまう」
「そんな……」
守山も言葉を失う。
「上陸予定地はアルカイム連邦カレリア共和国にあるグリジンスカヤ湾。集落であるロウヒの最寄りでもあり、話題も戻るが奇しくも塩の産地だ」
にやりと笑うセッポ。
「それはもう必然でしょう。ロウヒに塩の産地。そしてサンポなのですから」
「因縁には違いない。だから激戦が予想されるんだよ。日本外征部隊のみんなにも伝えてくれ。時間はまだある。カスガは三日後に幽世に入る。それまでに決めて欲しい」
重い課題だ。ジンがアイノをちらりと見ると睨まれたのでやぶ蛇確定だと肩をすくめた。もう彼女のなかでは答えが出ている。
菅原やイネたちはそのまま居残ることになり、守山と堀川、は熟考の末、菅野たちサムライ部隊は日本外征部隊と共に降りることとなった。
いつもお読み頂きありがとうございます! 誤字報告助かります!
北欧の歴史も古く、青銅器文明の遺跡も結構あり。鉄の伝承が多いので工業に強かったのでしょうね。
小説家になろうが新しいインターフェイスになったので、さっそく投稿してみました。
それでは最終決戦目前ということで! 応援よろしくお願いします!




