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ウコンバサラ

「これを借りるか」

 

 巨大なハンマーを空間から取り出すセッポ。


「フィンランドの雷神ウッコのハンマー。【ウコンバサラ】だ。雷神剣を鍛えるにはこれを使うしかない」

「ヴァサラ。インド・アーリア語の【ヴァジュ】と同じく祖とする言葉。洋の東西問わず、まさに雷神の力」


 藤原が感心したように呟く。

 そこにサラマとイネが入ってきた。


「きたよ! 私の力もいるって?」

「お前の力を使いこなすための剣だからな」

「楽しみ!」


 サラマは無邪気に喜んでいる。


「わたくしの力も入りようかと」


 イネがそっと藤原に申し出る。


「闇御津羽神の力を貸していただけるのならありがたい」

「いえいえ。火だけでは万物は成立しませぬ。火水(かみ)があってこそです」

「ではイネさんは私の右へ。水極(みぎ)火足(ひだり)。これだけの幽世住人が揃って出来ない剣はありませんよ」


 正面にはセッポ。左右に藤原とイネが並び立つ。


「武神一同の気配も感じる。他にも来ているな。はじめるか。人の身ならざる者が持つ、究極の剣を作るぞ」


 セッポが宣言する。その場にいる者全員が頷いた。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



『これより12時間、カスガの全機能を停止します。注意されたし』


 飛梅の声が艦内に流れる。


「いよいよシデンの武器作りが始まるのか」

「鍛冶場に全エネルギーを注入か。サンポもフル稼働だな」


 サラヴィが艦内のクルーを見回している。


「神剣はジンの国だと神代から伝わる武器だよね!」


 ルスカもゲームで知っているようだ。


「そうだな。剣か直刀じゃないかな。反りのある太刀ではなさそうだ」

「サラマの力を使いこなす武器。とんでもないものができそう」


 アイノが興奮を隠しきれないようだ。

 子供の頃、両親が殺された。その時現れたジンはサラマに導かれたという。

 

「シデンもオーバーロードせずに済むかな」


 その時、艦内に衝撃が走る。


「なに、この振動!」

「刀を打っているんだろう」

「カスガの艦体を震わすレベルなの?!」


 アイノがあたりを見回す。人間のクルーは同様しているが、受肉した精霊は気にしている様子はない。


「セッポだからなぁ」


 サラヴィが苦笑する。


「そうだねえ。女癖は悪いけど、鍛冶の腕は確かだよ」


 ルスカがなにげにひどいことを言っていると思うジンだった。


「空が荒れ模様だ」


 カスガ周辺だけ、大嵐が起きている。


「雷神が集まっているね。しかも複数だよ。顕界したがっている神様も多そうだなあ」

「カスガの全機能停止は顕界阻止も兼ねているな」


 ルスカとサラヴィにはどんな神様が集まっているかわかっているようだ。


「うわー。蛇みたいな龍がいるよ。東洋のドラゴンだ!」

「インドの神霊もいるな。何をしているんだセッポは

「二人には視えるの?」


 アイノが二人に尋ねる。ジンもアイノも気配は感じるが、視界には入ってこない。


「うん。これだけ近くにいたらね」

「武神一同と呼ばれる方々もいるな」

「えー。あなたは来てはダメな気が…… 気にしない?」


 どうやら武神一同以外にも多様な幽世が揃っているようだ。

 

「ジンの後ろにもいるな」

「え?」


 サラヴィに指摘され振り返るジンだが、誰もいない。


「はじめまして。タケミカヅチ様。エルフのルスカです」

「今後ともよろしく頼む。タケミカヅチ殿。アプオレントのサラヴィだ」


 どうやら背後にいるらしい神様と交信している。

 蚊帳の外にいるジンとアイノ。


「あはは。お上手ですねー」

「私はそれで問題ないな」


 照れている二人。


(あれ。タケミカヅチノミコトって女好きだったけか)


 不遜にもそんなことを思うと静電気が走る。


「いてっ!」

「あはは。エルフショットだねー」


 突然走る痛みを西洋だとエルフのいたずらと例える。


「いえいえ。選択はジン次第ですから-。私もそれが理想ですけどね」

「そうだな。難しい問題だがなるようになるさ」

「いったい何の話をしているの?」


 アイノも興味津々だ。


「ん? ジンの嫁。私達だと現世で結婚できるのはアイノだけって話だね」

「私達は事実婚になってしまうなという話だ。一神教なら問題あるだろうがな。顕界のフィンランドや日本でも事実婚の例はあると聞く」

「生々しい話をしないでくれ」


 ジンが思わず抗議する。


「え。私とジンが結婚? サラマが怒りそう」


 突如そんな話になって顔を赤らめるアイノだったが、さすがにサラマを気にする。


「だからいつかみんなで幽世に戻るか、現世に残るかの話になるんだよ。ジンは神秘に触れすぎたから戻ることになるだろうって話になって。私たちもそう思っている」

「そこでジンの氏神が嫁取りならみんな一緒でどうだという話になったんだな。二人は現世でしばらく過ごして、時が満ちたら幽世に来たら良いと」

「そんなこと可能なの?」

「神隠しから戻った人が山に戻るアレか」


 ジンは思い当たる。


「北欧やルーシも美女の精霊が森に連れ去る話はたくさんあるしね。不思議ではないかな」

「ヴェレスのダンジョンで出会った鉱山の女主人にもそんな逸話があるな。女主人の場所へ戻るか、人間の生活に戻るかという二択だ」

「歳も取らずに十年経過してるほうがおかしいしな。俺も幽霊みたいなものだ」


 今更彼らと離れることは考えられないジン。


「アイノの意志もあるからよく考えろよジン」

「わかっている」

「待って。いまさら私だけ置いていかないで! 絶対ついていくから!」


 泣きそうな顔のアイノ。


「決まりだね。私からサラマに話し合いの結果を伝えておくよ」


 ルスカは気にしない。どのみちフィンランドの木々に住む精霊だ。サラヴィなど亡くなったトナカイだ。


「まずは先にロウヒ退治だなって後ろの人が笑っているよ」

「生々しい話を振ったのに」


 そしてまた静電気の痛みで苦しむジンだった。


いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


今回は初登場の氏神様です。

神隠しの神のもとに戻るなんて日本は各地にあって神隠しは世界共通。戻ってきたとしてもまたふらっといなくなるあれですね。

森の奥で事故で亡くなった方を神秘のせいにしたいかもしれませんし、実際大昔には異なる世界につれていかれたかもしれません。アイルランドなんて妖精だらけですし!


西洋のオカルト用語と密教の神様が同じ名前なのはなんでだろうと昔は思ったものです。

インド・ヨーロッパ語族で根源語が一緒なんですね。インド・アーリア語族もありますが、こちらはヒンディー語やベンガル語が属するものでサンスクリット語はこちらの影響が強そうです。


嫁取りの話。

おかしいな。連載当初の予定ではもう少しハーレム的な雰囲気を出す予定だったのに!

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― 新着の感想 ―
[一言] インド・ヨーロッパ語族の影響範囲広いしねぇ だからナチスがオカルト方面で暴走したんだけど 雷神様はキリスト教が悪魔に貶した中東の神にも居るしね そりゃ大集合するわな
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