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怨霊列伝

 ジンとサラマのもとに飛梅と藤原がやってきた。


「はじめまして。君がジン君ですね。防衛装備庁の菅原です」

「ジンです。よろしくお願いします」


 またしても何も知らないジン。

 気配で察知したルスカとサルヴィの顔が真顔になっていることを気付いていない。


「サラマさん。あなたの力を引き出す武器を作りますよ。対ロウヒの剣をね」

「よろしくねスガワラ」


 以心伝心のサラマと菅原。強大な存在と認識されると顕界が難しくなることを二人は恐れている。


「ジンさんが持ち帰った隕石はテトラテーナイトでした。これはいわゆるFe――天然に存在する、もっとも硬度を持つ鉄合金の一つで、これを元にシデンの武器を作成します」

「ヴェレスの言う通りになったのか」


 ――ゲームでの武器はクラフトで作る物であろうよ。材料だ。


 どこまでも親切な冥府神だった。


「その通りです。フィンランドやロシアでもテトラテーナイトが採掘できます。地球には存在しない、鉄とニッケルが50%ずつ含有されるものです。高性能磁性体なのですよ」

「そんなものが地球の広範囲に」

「フィンランドを火の海に……」


 思わず口にするルスカを、物凄い形相で睨むサラマ。本気で怯えているルスカだった。

 ヴェレスもそんな逸話をもつ存在はいないとマジギレしていたなと思い返すジンだった。


「地球の歴史において広範囲にわたり隕石が降り注いだ証拠でしょうね。私は手伝いをするぐらいですが」

「セッポと作るのね」

「はい。共同作業ですね」

「よく顕界できたねフジワラ。カスガとは相性的に厳しかったんじゃ?」

「顕界って。あなたも幽世の住人なのですか?」


 ジンはいまいちピンとこない。穏やかな紳士だが、年寄りという感じでもない。

 イネや飛梅もいるので不思議ではないが、幽世からきたとは思えない。ビジネススーツが似合いすぎている。


「私はただの一般人ですよ。防衛装備庁の技術職員ですよジン君」


 謙遜する菅原。隣にいる飛梅の顔が昏い。

 飛梅は片目を瞑った。話を合わせろということだ。


「俺は十年ばかり時間を超えてしまって今の時代よくわかっていません。よろしくお願いします」

「私も似たようなものです。では飛梅さん。カスガの艦内を案内してください。鍛冶場が見たいです」

「わかりました」


 いつになく緊張している飛梅。隙あらばサボろうとする彼女にいったい何があったのだろうか。

 去りゆく二人を遠目で見送るジンたちミルスミエス部隊。


「なあ。あの人たぶん神様だよな」

「とても強力な神様だよ。よく顕界できたと思うな」


 ルスカがなかば呆れたように言う。


「スガワラという神様に心当たりはないのかジン」

「……うーん。太宰府天満宮の菅原道真という学問の神様が有名だけど、日本三大怨霊だったはず」

「ジン。その人だよ。マニューバコートを設計したうちの一人」

「え?」


 サラマに指摘されてぎょっとするジン。マニューバコートの開発メンバーとまでは知らなかった。


「普通の学者にみえるけど…… 学問の神様ならあたりまえか」

「私達よりも存在が強力で、今なお学問の神様として絶大な信仰を誇っている人物。カスガと相性は悪いとは聞いていたけれど自力顕界したんだね」

「何故相性が悪いのだろう。イネさんが詳しそうだ」

「呼びましたね?」


 そのタイミングでイネがひょいとやってきた。


「イネさん。あの人本物の菅原道真様?」


 思わず様とつけるジン。


「わたくしも驚きを隠せませんでした。あと本人の強い希望で、本人がいる場所では菅原さんと呼んでください」


 狐耳をぴくぴくさせている。本当に驚愕したのだろう。


「ええ。さん付けしていい神様じゃないだろう。やりにくいなぁ」

「わたくしも同じでございますよ」


 イネは困ったような顔を見せる。この反応こそが本物の証なのだろう。


「カスガと相性が悪いってどういうこと?」

「春日大社は菅原様の政敵だった藤原氏が建立したものなのですよ。三笠山のタケミカカヅチノミコトは藤原氏の神でもあるのです。菅原様は藤原氏の手によって太宰府に左遷させられたのです。相性は悪いでしょうね」

「うわ。そんな歴史が」


 歴史は苦手だったジン。氏神と相性が悪いとは思わなかった。


「太宰府への移転も自費。左遷後も太宰府への入館も許されず、あばら屋に住んでおられたとか。そのあばら屋住みの間でも藤原氏の刺客に狙われ続けたという記録もあります。死後は娘の紅姫様が刺客に殺され、稲荷となられました」

「カスガと相性悪すぎなのでは。作業できるのかな?」

「必ずしもそうではありません。菅原様に仇なした人物は、平安京での会議中に落雷が直撃して即死。主敵であった藤原時平様も呪いによって死んだとされます。これは俗説だと思われますが。それでも恐怖に駆られた藤原氏の子孫は八方手を尽くし、菅原様の名誉回復を計ったのです」

「会議中に、怨敵だけを狙ったピンポイント落雷なんてありえるのかな? 先祖のせいで祟り殺されたらイヤだよな……」

「天文学的な確率でしょうね。ゆえに当時の人々は必然と捉えたのでありますよ。西暦千年前後の落雷事件が詳細に記録が残っている国は日本以外にそうありません」

「記録にもあるのか」

「それはもう死因や死傷者数まで詳細に。そして平安時代は災害時代ですからね。今同様のことが起きたら、日本は半壊するでしょう」

「そんなに?」

「隕石が九州に落下。富士山と阿蘇山が噴火して、京都は地震が頻発。加えて今日でいう東北地方においてマグニチュード9ともいわれる大地震が発生。大津波が人々を飲み込んだ暗黒時代なのです」

「うへぇ」


 想像するだけでもぞっとする。平安というイメージとは程遠い。そんな悲惨な時代だとは思わなかったのだ。


「後に平将門の乱が勃発。その時も巨大な彗星が現れ、隕石が落下しました。平将門こそは菅原道真の生まれ変わりという当時の記録もあります。その隕石は将門公調伏のために降ったとも、妙見菩薩と菅原道真の導きともいわれていますね」

「そんな繋がりが……」

「天災の原因をすべて政敵に押しつけた時代ゆえに、ではありましょう。遷都の要因となった早良親王をはじめ、日本三大怨霊である菅原道真、平将門、崇徳天皇などですね。それらの方々は九州、東京、四国の守護神になっておりますれば徳が高い人物であったことにも違いないのです」

「そんな人がどうやってカスガのシステムも使わずに現世に来たんだろう?」

「自力で、だそうで」

「自力」


 思わずオウム返しで問い返してしまうジン。


「天神様の細道で」

「いついつ出会うのあれ?」

「そうでございます」

「天神様ってあの人だったのか」

「意外と知られていないのですよ」


 そういえばサラマもセッポも雷神といえば雷神だ。くくりが広すぎるのではと、見当違いな感想を抱くジンであった。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 空母には鍛冶場がある。

 必要なものを即席で調達するからだ。必要なら補修部品から日用品まで用途は様々だ。

 しかしカスガの鍛冶場は違う。この場所はミルスミエスのラボでもある。


「ようきたな。スガワラ」

「お待たせしました。鉄の国の鍛冶師です。見事なものですね」


 フィンランドは古来から鉄の神話が豊富にある。豊富な鉱脈が成せる業だろう。


「お前の国は鉱山もろくにないのによくあんな技術があるな」

「奈良時代から平安時代にかけて早々に鉄や銅は枯渇しましたからね。創意工夫と輸入です。それにフィンランドの刀剣は優れたものと聞いています」

「学問の神様にいわれると皮肉にしか聞こえないな。よく顕界できたな」

「あなたも私もカテゴリは人間ですから」

「そうだな。俺は伝承、そっちは実際の記録にある本物の人間だからなぁ」

「空想より生まれた人間と、伝承によって神格化された私。どちらもも幽世の住人ですよ」

「違いない」


 二人は笑い合い、設計図に目を降ろした。


「シデンの設計図か」

「はい。対ロウヒにはサラマさんの力を借りないと無理でしょう。今のシデンでは耐えきれません。実際ヴェレス戦ではオーバーヒートしました。あわてて現世に舞い戻った次第です」

「ロウヒは倒せるかね」

「無理でしょう。倒した逸話があまりにも少ない。またヴェレスのように封印することが精一杯です。ですが彼女は災厄の根源。モンスターどころか病魔まで押し寄せます」

「そうだな。それは俺達がよく知っている。だからなんとしても今回も封印する必要があるんだ」

「はい。幸いヴェレスが報酬を多めに用意してくれました。これ以上のものを用意する場合、鳥取砂丘を攻略するしかありません」

「サンドワームの地か」


 この世の地獄と称された鳥取砂丘。レーニングラードダンジョンほどの難易度はないが、世界に先んじてAクラスを獲得している。ミルスミエスの実験場と化しているという。


「ジン君たちは幸いレニウムのインゴットも入手してくれました。レニウムタングステン合金とテトラテーナイトを組み合わせましょう」

「タングステンにレニウムを加えることで延性も高まるな」

「テトラテーナイトは自然界に存在する物質としては優秀ですが、特殊鋼であるマルエージング鋼にも及びません。ですがその特性は永久磁石。ヴァーキはプラズマとして発露しますので、利用しない手はありません」

「しかしどうするんだ?」

「私がいた時代の刀を再現できなかった後の時代の刀匠が用いた技を用います。永久磁石化に生成したテトラテーナイトを芯にして皮のようにレニタン合金で包み込む。そこで私達の力を用いて超高温超圧力をかけて生成です」

「超高温と超高圧か。なんとかなるだろ」

「人工太陽を作った逸話など、あなたぐらいですよセッポ。私はそうですね。隕石と同じぐらいの圧力をかけますか」

「サラマにも手伝わせよう。融点やらの計算は任せたフジワラ」

「承知いたしました」


 こうしてシデン用の専用兵器制作が始まったのだった。


いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


今回は怨霊列伝。三大怨霊の他に早良親王にも触れました。

桓武天皇と早良親王の話は小烏丸と絡めて書いてみたいとは思っていますが、こちらはあくまでフィンランドベースの話なので諦め。和風怨霊ロボ物でも書くという手も(厄い)。

いっそ平安京にエイリアンが攻めてきて……ベタですね。


小烏丸は天国作とされ、天国は藤原道真説があるのですが時代が違いすぎるのでないでしょう。

ヤタガラスが授けた説のほうが好きですね!

有力な説は当時の斬れ味によい刀剣には小烏丸と名付けた説。平将門の分身を斬った伝承もありますからね。


それでは最終章までゲーム、メカ、オカルト全開でいきたいと思いますので応援よろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[一言] 川に流れ込んだ赤土と森林伐採の結果の治水力低下の結果が八岐の大蛇伝承になるレベルで渡来系鍛冶集団が鉱脈荒らしたとも言われてるしねぇ そりゃ枯渇するわ おかげでその後は欧州みたいに森食い潰しな…
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