雷神の刀鍛治
ジンたちが帰還後、カスガのブリッジクルーが会議を開催しt。あ
守山、堀川の二人に、セッポ。そして飛梅とイネだ。
「ロウヒを倒しても復活する。しかし放置すればダンジョンが蔓延するか」
「世界各国が納得できるでしょうか?」
ジンがレーニングラードダンジョンから持ち帰った情報は深刻なものだった。
「現実から目を背けても何も変わらん。災害と一緒で対処していくしかない」
セッポが二人をなだめる。もうしばらくは顕界に要ることができそうだ。
「くれぐれもサラマの正体は内緒だ。イルマタル扱いも厳禁だぞ。俺もセッポだ。わかったな?」
「承知しています」
守山が顔を強ばらせながらも承諾する。堀川はさほど深く考えていない。
「ジンが持ち帰った隕鉄も鑑定が終了した。テトラテーナイトだな。鋼鉄よりは硬く、ステンレス以下ぐらいの硬度だが、隕鉄という条件が重要だ。サラマの力を引き出せる」
「日本にも流星刀という刀がある。隕鉄で作った刀だ。ニッケルが中心だから苦労したらしい」
鉄の785度を超える温度で鍛造しなければいけない。隕鉄の成分にもよるが、この流星刀はニッケルが10%含有されている。ニッケルの融点度を1400度以上必要だ。鍛刀は困難を極めたという。
「雷神の力を込めたら、それなりの力を得る。もう一人雷神が欲しいところだな」
「欲しいですね。しかしどの神話も雷神は主神クラス。それも顕界できるレベルで、かつ人々の信仰を持つ刀鍛治という区分を持つ存在などそうはいないかと」
イネが渋面を作る。いるにはいるが、顕界できるような存在はいない。
「トールは知名度がありすぎて無理だな。信仰している人間も俺たち以上に少ない。ゲーム補正は強いが……」
「その点についてはジン君たちが帰還してから、私達も探していたのですが情報提供者がいたので本日到着予定です。技官ということでした」
「ほう。日本にか」
扉からノックの音がする。
「日本より技官が到着しました」
「入れてくれ」
「失礼します」
壮年の男性が一礼して入室した。
スーツ姿で眼鏡をかけている。技官というよりは学者のような雰囲気を醸し出している。
「防衛装備庁より派遣されました菅原です。皆様よろしくお願いします」
「こちらこそお願いします。大変優秀な方と聞いております」
守川が挨拶する。最近防衛装備庁に入ったばかりだという。
「えー!」
飛梅が顔を伏せる。
「お久しぶりです。飛梅さん」
男性が飛梅に会釈をする。
「待って。なんであなたがいるんですか」
「転職サイトに防衛装備庁の求人募集バナーがありまして。応募したのです。飛梅さん」
「お願いですから私に敬語を使わないください!」
「同じ組織の先輩としては当然です」
飛梅は顔を伏せたままだ。
イネが必死に顔を逸らしている。
「飛梅さんの知り合い? どうしたんだ? 彼が何かあるのか?」
「守山。彼は神霊だぞ」
セッポはいち早く見抜いたようだ。
「お久しぶりです。セッポ・イルマリネンお会いするのは初めてですね。マニューバ・コート開発には初期段階から関わらせていただきました。ええ。顕界以前からです」
「待ってくれ。マニューバ・コート開発からとは。まさかあなたは…… 菅原? 道真公ですか?」
飛梅の反応を見るとそれしか考えられない。
「公は不要ですよ。ほら、先ほど申し上げたように転職サイト経由で転職しただけの一般人です。菅原さんと気軽に」
「一般人の区分が混乱しますので。神様から技官へ転職はどうかと思いますが……」
堀川も言葉が少なめになった。学問の神様だ。優秀に決まっている。
「セッポ。雷神かつ鉄の知識があり、刀鍛治でもある私なら、相槌にはちょうど良いでしょう? 隕石の逸話も持っていますから」
「そっちは洒落にならないじゃないですか!」
飛梅が絶句する。菅原道真の祟りで京の都に隕石が落下した逸話だ。
雷神の逸話も、道真が左遷する原因となった調書を取った者が落雷で即死したことにちなむもの。
「現役に信仰されている神様がきたなら万全だな。祟られないか不安で仕方がないが」
「祟りませんよ。猫も斬りません」
微笑んでいなす菅原。神霊ジョークのようだ。
「え? 菅原道真……公って刀鍛治だったんですか?」
「こら。今は菅原さんといいなさい。宝剣【天國】【神息】に神剣【猫丸】【子猫丸】はその手によるもの。古代の名工の一人という伝承は残っている」
動揺する堀川をたしなめる守山だったが、自分もどう扱っていいか困惑している。
「俗説ともいわれていますが、北野天満宮の松梅院には私が刀工だった記録はありますよ。真相は鉄に詳しかっただけです。今挙げたものには打ったものもありますけどね」
謙遜する菅原。中国から伝わった鉄の技術は秘事であっただろう。
「菅原道真公は密教、呪術を究めた陰陽師でもあり、大蛇退治の逸話や妖怪たちにも慕われていた逸話もありますね。ね飛梅殿」
突っ伏している飛梅に話を振るイネ。
「河童よりも古いと起原を持つとされる九州の水妖ひょうすべを助け、また道真公が暗殺者に襲われそうなところを河童が命懸けで守ったともいわれています」
「どこぞのヤンデレな梅の木に慕われていましたね。可哀想に松の木は途中で力尽きて落下して、桜は悲嘆のあまり悲しんで枯れ果てた。その執念は梅の木といえど賞賛するべきものでございましょう」
「イネさんは黙ってください。これでも逢いたいといわれて頑張ったんですー」
「あはは。そうですね。私が逢いたかったのですよ」
菅原が飛梅の意見を笑って肯定する。」
「たいそうな徳です。さようなお方がなにゆえ人間の転職サイト経由でカスガに? 防衛装備庁は身辺調査しないのでしょうか」
イネが疑念を呟く。
「二人とも。菅原さんか道真さんで頼みますね。転職サイトでも嘘はついておりません。私は文章博士という役職もありましたので。学者で通しました。筆記試験は満点だったそうですね」
「学問の神を上回る筆記試験を作ることができる人間なんていませんよ」
面接官が一発採用した理由もわかろうというものだ。
「よく顕界できたな。カスガの装置は使っていないんだろう?」
「そこが気になります!」
「神奈川の小田原にある神社からですね。天神様の細道を使いました。私が通れない道理はありません」
「でも何もエネルギーがないのに……」
「北西にパワースポットの足柄山。北東には神奈川の防衛装備庁の陸上装備研究所でもミルスミエスのテストがされていいましたからね。近くに道長神社もあります。私に縁があるものばかり。顕界は容易でした」
「天神様の細道は足柄山への裏道という逸話ですね」
イネが感心する。足柄山は金太郎をはじめとして、芦ノ湖の九頭竜、天狗、山姥などの伝承が多い、神域でもある。
「それです。裏道を通ってやってきただけです。それにほら。私は正真正銘の人間ですから」
「火雷天神、天満大自在天神ですよね?」
「そちらは大げさなのでご内密に。イネさん」
「わかりました。紅姫様にはよしなに」
「伝えておきます」
紅姫とは菅原道真の娘にして、白狐の化身だ。稲荷であるイネが気を使うのは当然だろう。
「ミルスミエス用の刀を打つには私自ら出ようと思いまして。将門君も来たがってましたが、止めました」
「ありがとうございます」
日本三大怨霊のうち二大も抱えたくはないと思う守山。
「ところで飛梅が大変ご迷惑をおかけしたのでお詫び申し上げます。さあ。もうサボりは許しません。規則正しい生活をしてください」
「わかりました……」
セッポが思わず噴き出すほど、力がない呟きだった。
いつもお読みいただきありがとうございます! 今年もよろしくお願いします!
いつかは出したかった菅原さん。元ネタはバナー広告で「防衛装備庁の求人」なんていう、一般人が絶対受かりそうにないものを見てしまったので。
太宰府天満宮にはいったことがあります。また機会があれば行きたいのですが九州は遠い……
将門公には顕界をご辞退いただきました!
サラマの正体もバレたので、最終章です!
しっかり最後まで書いていきたいと思います!




