もっとも恐ろしい敵だった
『さあ来い!』
鷹揚に手を広げるヴァレス。
迷宮の支配者に相応しい威風を放っている。
「行くぞ」
「私、ヴェレスにメテオを落とそうかな。直接ここに発生させて」
「やめろ。俺達が死ぬ」
「あれなら一撃なのに。どのみち地下は威力が落ちるか」
正体をばらされたサラマが恨みがましい視線をヴェレスに送っている。
「普通なら使えないだろ。使えるだけで凄いよ」
「……あ。なしなし。使えない」
「そうだな」
思わず苦笑して流すジン。
「サラヴィ。防御を頼む。ルスカ、俺と同時に魔法だ。アイノ、MPを頼む」
「任せろ」
巨大な縦を構えるサラヴィのエルヴス。
誌を吟じるアイノ。
「電遁!」
「ボライトエクスプロージョン!」
二人は迷宮内で放てる最大の術式を発動させる。
『グレーターアースウォール』
巨大な土の壁が地面からせり上がり、魔法を阻止する。
「土って厄介な属性だよね」
風も火も土とは相性が悪い。強風で地面がえぐられることはないのだ
雷も大地に電気が走り、拡散してしまう。
「次はこれ! ウォーターカッター!」
本来樹木の精霊であるルスカは水とも相性がいい。ウォーターカッターの原理は名前とは裏腹に、水圧で連続して穴を空け、削り取るものだ。
『着眼点はいいぞハルティア。しかしウォーターカッターと鋼鉄ではやや相性が悪いな』
石壁を袈裟斬りに削り取るも、ヴェレスの鋼鉄でできている体には傷一つついていない。岩壁で減衰しているのだ。
「私はエルフ。そう、エルフ!」
周囲に言い聞かせるように唱えるルスカ。
「ルスカはエルフだぞ」
さきほどの出来事で学習したジン。
「ジン、大好き!」
「ね。むかつくでしょヴェレス」
ルスカに同意を求めるサラマ。
「なんとなくわかった」
ルスカも今更ハルティアなどという曖昧な存在に固定されたくはない。
ヴェレスは無言。正しい名称で呼びかけているに過ぎないのだ。
「石の壁がなくなっただけでも!」
シデンが跳躍してヴェレスに接近する。
「シデン。天空の加護の力、あなたなら引き出せるでしょ」
『当然です』
見慣れないスキルが続々と現れた。あまりの多さにシデンが選別していたスキルだ。
「付与系に厳選してくれ!」
『オーロラコーティングがもっとも威力があり、ヴェレスに効果的と判断します。しかしジンへの負担も、機体ダメージも甚大です』
「構わない。行くぞサラマ、シデン!」
「はい!」
ヴェレスが巨大な雷撃を放つ。シデンが同じくプラズマをまとって弾き返す。
防御した際、美しいオーロラが発生する。今のシデンは惑星の大気をまとっているのだ。
『プラズマと陽電子の複合術式か。イル――サラマ。やりすぎでは』
ヴェレスはイルマタルに配慮したのではない。これ以上刺激して、さらなる強化を引き出させないための、戦術的な駆け引きだ。
「もう遅いってば!」
『相変わらずよのぅ』
呆れたように会話しながらも、シデンの攻撃をいなして反撃する。
強力なヴァーキがシデンを襲うが、すかさずサラヴィが割って入り、立ちはだかる。
「まだまだぁ!」
あまりの威力に、衝撃がサラヴィを襲う。
「サラヴィ!」
「すまない。サラヴィ。ぐはっ」
そういった瞬間、ジンが吐血した。
「ジン!」
サラヴィが悲鳴をあげる。
「ジン、負担は私が請け負うよ。一気に決めて!」
ルスカがウォーロックのスキルを用い、ジンのMP負担を請け負う。
「ジン…… あなた馬鹿でしょ。なにこの減り方……」
ルスカの膨大なMPが瞬く間に減っていく。
「ヴェレス。俺とサラマの最大威力の攻撃をぶつけてやる」
『よさんか』
真顔で言い放つヴェレス。宇宙の卵を抱く者の全力攻撃など、顕界どころか幽世の、さらに上層に在るヴェレス本体にダメージがいく可能性すらある。
「くらえ!」
刀身にオーロラを集中させ、ヴェレスに放つシデン。
その直後、ヴェレスは大音響の轟音とともに爆発四散した。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
『やりすぎだ。惑星の守りと宇宙線の衝突するエネルギーを我にぶつけるではない』
転がったヴェレスの頭部が、やや恨めしげに告げる。
「あなたはもっとも恐ろしい敵だったわ」
サラマが冷や汗をかいている。存在そのものが揺らぎかねない精神攻撃だった。
「あと一、二分長引けば自滅しただろうな」
色々な意味で、と思うジン。
『オーバーロードしました。活動再開まで二十分必要です』
シデンが告げる。機体も限界だったのだ。
「ヴェレス。あなたはもっとも恐ろしい敵で、かつこのダンジョンは初心者向きで効率が良い場所だと広めておこう」
強敵だけでは人が集まらない。
『頼んだぞジン』
これでヴェレスの存在力も強まる。一時的にダンジョンは縮小されるが、再び広がっていくだろう。
「教えてくれ。もうロウヒは倒せないのか?」
『ヤツも同じ存在だ。倒せるぞ。何度でもな。あいつが復活するたびに、新しい環境が整備されていく』
「環境整備とはなんだ」
『効率が良いバランスブレイカーのクラスが、調整されて弱体化や、報酬的に美味しくないモンスターになんらかの利点を付与することだ』
「もはやそれは、顕界におけるゲームマスターではないのか?」
『そうともいえる。我とてロウヒの造り上げたシステム上でようやく存在しているのだから』
ヴェレスは否定しなかった。
『そしてよくぞ我を倒したジン。もっていけ』
土の中から、いかにもな宝箱がせり上がってきた。
『罠はない。受け取れジン』
「わかった」
ヴェレスは誠実なダンジョンマスターだ。信じて開けることにした。
シデンが巨大な宝箱を空ける。
「こ、これは……」
巨大な岩だった。
『鑑定終了。隕鉄です』
「これでどうしろと?」
『ゲームでの武器はクラフトで作る物であろうよ。材料だ。――さらばだ』
「待て! おい!」
ことん。
小さな音を立てて、ヴェレスの頭部が土に還った。
その瞬間、全員が光に包まれた。
「なんだ……」
『おかえりなさいませ』
イネの声が聞こえる。
「カスガの甲板か!」
『そうだ。ヴェレスが転送してくれたらしいな』
守山が苦笑する。
「悪いヤツには思えなかったな」
「いいえ。最悪だったわ!」
いまだに憤慨しているサラマだった。
クリスマスイブなので更新しました。
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