人工悪魔
ジンの膝の上にはいまだサラマが抱きついて乗っている。
本人の懇願に近いお願いにより、服は戻してある。
アイノの視線が冷たい。当然だ。
サラヴィとルスカは羨ましそうな顔をしている。
「うぉぉー!」
出てくるゴーストタンクやアンデッド型モンスターなど、シデンの敵ではない。
気まずさを打ち払うかのように、ジンが奮戦している。
「そうかー。その状態になるとバフもかかるんだねー。みんなで交代しないとね」
「やらない!」
ジンが必死に否定する。
「えー。サラマだけずるい~」
ルスカが口を尖らせた。
「ジン。気まずいのはわかるがアイノを忘れないでくれ」
「わかっている。アイノ。すまない」
「仕方ないです。もうゴーストだなんて気分じゃなくなったのはわかります」
「そうだな。私とアイノも順番で、一緒に搭乗だ。アイノが先でいいぞ」
「待ってサラヴィ。さらりと私を巻き込まないで!」
「そうだぞ。アイノは未成年だ!」
「今更だろう。アイノだけ仲間外れは可哀想だな。私は最後でいい。別に素っ裸になる必要もない」
「そ、それならありかな」
淡々と続けるサラヴィのペーズに巻き込まれ、納得してしまうアイノ。
「アイノは俺に興味ないからな。無理強いはよくない」
唯一、アイノだけがジンに関心がないようなので、安堵しているジン。
サラヴィが聞き逃さない。
「アイノ。誤解されるといけないから正直にジンに伝えて」
「え? その。えーと。女の人に迫られても毅然と一線を越えないようにしたジンは好感がもてます」
「ありがとう」
ただでさえ狭いコックピットのなかで、ダンジョン徘徊中にそんな気が起きるわけがないと思うジン。
しかし思わぬアイノの言葉に面食らったのも事実だ。
「ジン。好感度が上がったんだ。アイノもちゃんと見ておけよ」
「サラヴィ!」
相変わらずサラヴィの立ち位置が不明だ。姉ポジに近いのだろうが、お節介なおばさんにも見えるときがある。
お節介なトナカイの特性だろうか。
「ん。ネームドの敵がいる」
サラマの言葉に突如として緊迫した空気になる。
「わかるのか」
「存在感が違う。ヴァーキの強さでね。次の部屋に入ったら要注意」
「ああ。そろそろ気合いを入れないとな」
大部屋に入る。中ボス的な存在だろうか。
「……なんだあれは……」
巨大なガラクタのようなロボット。
両脚は市販の運搬用クローラーらしきもの。胴体はさらにいびつ。胸部は大型トラクターらしきもので胴体は胴体は主に小麦やとうもろこしを収穫、脱穀するコンバインのようだ。腕部は青果物を収集するようなロボットアームのものを巨大化したようなものになっている。
武器は巨大な右手の左手のチェーンソーと左手に鎌を持っている。
特異なのは胸部だけ何故か装甲板らしきものが張られている。
「農業ロボ……?」
あまりの異様な姿に、ジンが呆然と呟く。
「違うよジン。あんな姿でも悪魔。エストニア由来の農機具を組み合わせた人型悪魔クラットだよ。おそらく胸部がコアで、使われている車両はソ連の兵器に改造されたSTZ-3トラクター。別名は恐怖を装う。農機具の伝承と第二次世界大戦の改造されたトラクターの伝承を利用した人型モンスター」
サラマが即座に素性を見抜いたようだ。
「農機具ってだけであの人工悪魔クラッドぐらいしかいないからね」
アイノも知っている存在だったようだ。
「人工悪魔は珍しいよな……」
堀川が解説を補足する。
「STZ-3は有名な車両だな。N戦車ともいう。鋼板やコンクリートを装甲としてまとっていたといわれている」
「人型兵器になっているということは、やはり伝承効果か?」
「パッシブで恐怖。トラクター運用と人工悪魔という伝承が組み合わさって、手強いと思う」
「テラーの効果があるということか…… まだ範囲じゃない?」
「ん? さっきの破邪の儀式が聞いているんだよ。恐怖なんて感じないでしょ? これ凄い効果だねー」
「隊長機! いちゃつかない!」
「テラー対抗です!」
アイノの叱責に笑いながら叱責する。
「私達精霊も平気だね。アイノだけが心配?」
「ジン機の惨状でそれどころじゃありません」
「そうだよねー。つまり私達には無効、っと。アイノちゃんが最初にジンとサウナはいろ?」
「そういう話じゃないですから!」
「えるさー!」
悪魔が叫んだ。ジンはどこの国の言葉かはわからない。
「邪魔」
ヴァーキライフルでコンバインを撃ち抜くアイノのエルヴィス。
胴体を構成するSTZ-3トラクターが、爆散した。
「あっさり破壊できたねー」
「恐怖を装うものってようは虚仮威しってことだろ? アイノの一撃は凄かったな。ヴァーキに満ちていた」
コンクリートの装甲は易々と貫通している。アイノのヴァーキに怒り補正が入ったのだろう。
「ジンとお風呂入るの嫌なの? 私達一緒にサウナ入ったよ?」
ルスカがにやにやしながら尋ねてくる。彼女にとってアイノは可愛い妹みたいなものだ。サラヴィは真面目すぎる。
「嫌ではないんですが、心の準備が」
もごもご話しているアイノとルスカ。
ジンは呆然とみた。
「なあ。クラッドってあれで終わり?」
「もう倒されているよ。農機具そのままだったみたいね」
「伝承効果とは……」
「アイノの八つ当たり補正で一撃だったね。あんまり嫉妬させちゃ可哀想かな……」
「嫉妬していません!」
すかざすアイノが顔を真っ赤にして、涙目になって応答した。
あまりの愛らしさに、頬がゆるむジン。
「サラマ。追求はよそう」
「そうする」
「もうすぐヴェレスのいる場所だよ」
真顔の戻って警告するサラマ。
「ロウヒは巨大な姿だったけど、ヴェレスはどんな姿なんだろうか」
「想像つかないね。ダンジョンマスターがどんな姿になるかは私も初。空に関する精霊だから、地中は相性が悪いの」
「そうだろうな。それでも倒すしかない。行こう」
ジンは警戒しながら先を進む。
あっさりと破壊されたクラットが、恨めしそうに四機を見送っていた。
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本日の悪魔?はエストニア出身の人工悪魔です。ゴーレムみたいなものですが悪魔の力で動いているので魂はあり。
「えるさー!」はエストニアのかけ声です。意味は万歳。ソ連の「ウラー!」と同じような意味ですね。
農機具繋がりで農機具機械を合体したという悪魔でしたが、胴体だけはしっかりとソ連製ということですね。
お色気結界(による嫉妬補正)の前には為す術もありませんでした。戦闘力と伝承効果だけなら以前のソ連製重戦車たちのほうがはるかに強いはずです。この悪魔も異教扱いで現代では知名度がありませんからね。
いよいよダンマスです!




