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Vienui Vieni

IS-2重戦車から砲弾が発射され、サルヴィが搭乗するエルヴスが巨大なシールドで受け止める。


「なんて威力だ! ジン。そう長くはもたないぞ!」


 エルヴスのクラスが騎士系統に属するヴァルティアで無ければとっくに破壊されていただろう。


「エルヴスの盾は2000mm鋼板に匹敵するはずだ! あの程度の戦車砲では!」


 守山が顔色を変える。


「当時ですら10メガジュールクラスの威力をもったA-19 122mm砲D-25Tですよ。側面からならティガー2の装甲だって撃ち抜く威力をもっていたといわれています。怨霊弾なら、ありうるかと」


 堀川は冷静だった。


「直撃を受けるとミルスミエスの装甲など、紙同然だな。さすがは伝説だ」

「ジン。感心している場合じゃない。ここで破壊しておかないと、ダンジョン外に出られるとまずい」


 アイノもまた冷静だった。どうやったらあの戦車を破壊できるか。

 しかし今の彼女はサラヴィの盾に隠れているしかない。――今できることを。

 そうしてアイノは対空射撃に専念している。


「怨霊相手ならヴァーキを試すか」


 シデンがマジックミサイルを放つが、IS-2重戦車の装甲に霧散する。

 

「効かないな。これなら! 雷遁!」


 サラマの力を借り、強力な雷撃攻撃を放つ。しかしこの強力な魔法攻撃も通用しない。


「伝承的に【装甲が厚い】から、生半可なヴァーキじゃ貫通できない!」


 サラマも緊張している。思わぬ強敵だった。

 しかも操縦者がいない。概念的な存在なのだ。


「ジン。これなら多少効くよ!」


 20ミリガトリング砲がIS-2重戦車の装甲を削る。しかし、その攻撃の前にT-34とチャーチル歩行戦闘車が立ちはだかる。


「厄介だな。IS-2重戦車はヴァーキ抵抗が高く、物理に弱い。T-34たちは逆だ」

「その間も空中から爆弾が降ってくる。どこから沸いてくるの!」


 空からは、I-16戦闘機が爆弾を投下して彼らを攻撃してくる。もう二十機は撃墜したはずだが、空中にはその倍の戦闘機が飛行している。


 T-34が突如爆発した。チャーチルも被弾している。


「ん? なんだ?」


 何者かが敵を攻撃しているのだ。

 姿が見えない。


「友軍か?」

「これは……」


 サラマが息を飲んだ。


「彼らが味方をしてくれるうちに、素早く倒そう」


 空にはIS-6と戦う数機の戦闘機が出現していた。


「あれはドイツ第三帝国の……メッサーシュミットBf109」

「ドイツの亡霊が味方をしてくれるのか」

「いいえ。ドイツの亡霊ではないね。彼らは違う。――エストニアの人たちよ。あの戦闘機は鹵獲機なの」

「エストニア?」


 バルト三国。ジンでもさすがに知っている。


「味方はパルチザン。ソ連兵と戦うために出現した亡霊だよ」

「そうか。森の兄弟か!」」


 守山が声を荒げた。まさかの友軍だ。


「森の兄弟とはなんだ?」

「ソ連軍と戦った、勇敢なパルチザンたち。通称森の兄弟だ。祖国を守るためにエストニア、ラトビア、リトアニア。各地で激しい抵抗が続いたんだ」

「ドイツの亡霊は閉め出されています。しかし同化政策を行おうとしたかの地の亡霊は排除できなかったのでしょう」


 亡霊や怨霊に詳しいイネが解説する。


「悲しい歴史ですよ。レジスタンス運動の死者は十万人を超えます。西側も結局彼らを助けなかったのですからね。今なお彼らは戦っているのです」


 怨霊としても名高い菅原道真公に使える飛梅も、彼らの無念を察している。


「影みたいなものがちらりと見える。気配は感じるな」


 何者かが攻撃しているがモンスターのように実体化する気配がない。アンデッドではなく、正しく、霊なのだろうとジンは直感する。


「ダンジョンマスターが力を貸していないね。ただ、妨害する気配もない。ヴェレスはバルト海の神ではあるから当然、か」

「地政学上、どうしてもバルト海は戦乱が起きやすい。海上の要所だ」

「アンデッドが大量に出現する土壌はあるってことか…… 彼らは違うな」

「そうだね。単に私達が旧ソ連の兵器と戦っているのを知って、みかねて助力してくれている」


 悲しそうに首を振るサラマ。自分たちの戦いが、彼らを目覚めさせてしまった。

 

「彼らのためにもあいつを倒そう」

 

 ジンは重戦車を睨み付ける。


「しかし地下で日遁は使えない。どうするか」


 地下で太陽の力を借りることは困難だ。

 閉所扱いなら、味方まで溶解してしまう。


「第二次世界大戦の戦車対策か……」


 守山が顔をしかめる。


「何か策があるのか?」

「高射砲だな。ゲリラ戦なら刺突爆雷――肉薄して刺す、対戦車爆雷程度。あとは銃眼から火炎瓶を投げ込むなどだ……」

「嘘だろ……」

「世界一貧弱な対戦車兵器国扱いだったからな。第二次世界大戦より前、ノモンハン事変では高射砲水平射撃と歩兵による肉薄攻撃が成果を出した結果でもある」


 ジンは一瞬深く考え込み、周囲を見回す。

 どこからともなく飛んでくる火炎瓶や貧弱な爆弾。投石まで視認できる。


「――ミルスミエスはただの服でもなければ歩兵でもない。肉薄して、破壊する」


 ジンがそう宣言するとシデンがローラーダッシュを開始する。


「また無茶を!」


 アイノがジンへの怒りを隠さず、援護に入る。


「私だって!」


 アイノに負けてはいられない。ルスカもT-34に火球を放つ。T-34は爆発し、やがて塵になった。


「あれは……」


 イネが気付いた。本来迫るジンへの集中砲火が薄い。

 

 パルチザンの亡霊たちが必死にゴーストタンクを妨害していることが()えたのだ。


いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告修正助かります!


今回は思わぬ味方、森の兄弟です。「Vienui Vieni」は映画のタイトル。一人ぼっちという意味で、孤立してというニュアンスでしょうか。

WW2終了後、支配されたバルト三国、リトアニアの兵士を描いたリトアニアの映画です。


レーニングラードでは確かに壮絶な消耗戦を強いられ多くの民間人が死にましたが、ドイツもソ連も侵略です。ポーランドもドイツと組み、そして戦い、日本もドイツと組み枢軸同盟でした。

一方的に侵略されたバルト三国のレジスタンス運動は激しく、そして西側諸国の助けはきませんでした。というわけで彼らは完全に味方というわけではありません。


重戦車のスペックは凄いですね。単純計算で9.8メガジュール程度。現在の44口径120ミリ砲がが12~18メガジュールらしいので至近距離でくらえば現代戦車も無事では済みません。得意な交戦距離も違いますので、まず至近距離という前提が厳しいですが!


というわけで歴史も交えたシリアスです。早くサウナ回に戻らないと……!


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― 新着の感想 ―
[一言] やはり亡霊には亡霊か 弾丸に真言刻んだノウマクサンマンダバザラ弾が必要だな 対アンデット戦は 対多数用の榴弾はどうするべきか
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