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神様の作法

「ここはやはりスペシャリストである飛梅の出番だな」

「そうですね」


 堀川と守山が飛梅に話を振る。


「スペシャリストなんですか! 何か凄い奇跡を起こすととか?」


 アゾフカも目を輝かせる。


「彼女の上司は怨霊ともいわれ、その世代の人間を恐怖に陥れたが、今や学問の神様として信仰を集めている。彼女自身も伝承に出るほどのネームドだ」

「彼女が御座す神社こそ年間1000万人を集める太宰府天満宮。日本は九州でも代表される神社、その象徴たる梅です!」

「やめてください……」


 目立ちたくない飛梅が、小声で抗議する。

 きらきらした瞳で飛梅を見詰めるアゾフカだった。



「それほどのビッグネームだったとは! でも顕界していますよね?」

「しょせん、梅の木ですから」


 若干気まずそうに答える飛梅。


「イネさんもいらっしゃいますし、私だけというのも」

「知名度が違いすぎますよ。――答えてくれないと今の貴女がしているOL満喫生活のすべて、道真公にばらしますよ」


 堀川が不気味に笑う。こうなると実行する女だと、守山はよく知っている。

 飛梅の身元保証人は堀川なのだ。プライベートで何をするのも親身になって指導しているが、その分弱みを握られているといっても過言ではない。


「ひぃ! 勘弁してください。答えますよぅ」


 力無く応じる飛梅だった。かの飛梅としての威厳は微塵も感じられない。

 

「日本の神様の特殊性をまず説明しますね。まず神は英語圏でいうゴッドではありません。国外でも概念の認知度が広がり、今では【カミ】で通じます。つまりセムの民たち、GODとは競合しません」

「異教扱いではないと?!」

「はい。シャーマニズムの一環、もしくは派生として認識されています。また遥か昔、五百年以上前からキリスト教は伝来していますが、国教になったことはありません。それほどまでにカミは身近です」

прекрасная(プレクラスナヤ)!」


 アゾフカが感嘆の言葉を発する。


「神は制限があります。例えば神社を参拝するにも作法があります。でもこれはどの国の宗教でも当然ですよね。プロセスを踏むことで我々を認識させる。――カミは万能ではありません」

「というと」

「お願い事をするとき、氏名と住所を伝える必要があります。どの神社でも一緒です」

「え?」

「どこに住んでいるのかもわからないのに、どうやって願いを叶えるというのですか。神様に探せと? また日本の神々は奇跡を起こす必要などないのです。忌みを封じ、日常に感謝する延長上に私達はいます。アゾフカさんたちもそうされるとよいですよ」

「奇跡が必要ない?」

「ええ。水をワインに変える必要も、パンを生み出す必要もありません。とはいってもあまり試練は与えない宗教ですね」

「私、試練の神の資質もあるんですよ!」

「アゾフカさんですものね。まあ日本にも七難八苦を与えたまえと神様に試練を与えてくれと祈願する英雄はいましたが」

「かなりのドエ……チャレンジャーですね」

「本題に戻しますよ。物資を援助するスポットを用意して、マラカイトの女主人とアゾフカとクラデネツをアゾフカとドワーフ、を定着させたいのでしょう?」

「はい!」

「そうじゃ! そこのルスカたち、すっかりエルフとして定着しておる…… 羨ましいぞ!」

「えへへー。とある言語学者かつ偉大な作家に感謝しないとね!」 


 ルスカたちは日本の研究者たちにもエルフとして認識されている。本来はハルティアだ。


「アゾフカさんはウラル山脈の化身ともいうべき方。バルド海のNATO加盟国の間でダンジョンを作ることはできますか?」

「できます!」

「当然、銅山の姐様ですから。それぐらいはやってもらわないと」

「アゾフカでお願いします……」


 思いもよらぬ名前を出され、強ばるアゾフカ。

 ジンが気になって質問する。


「銅山の姐様って?」

「彼女はウラル山脈の化身、大地の女神です。銅山の姐様は山脈に伝わる民話ですね。彼女は鉱山という地を表現する者。試練を施し、乗り越えた者には褒美を与えます。鉱山という環境のなかでは、悪さをする者は他のものを害を与えるので罰します。会計人であるクラデネツと相性がいいはずです」

「褒美。鉱物か。金銀財宝とかだな」

「鉱山ですから。そのかわり肺は病み、皮膚は黒ずんで、鉱山病ももたらしますが」

「……はは。その面は今はないということで」


 虚ろな笑いを浮かべるアゾフカ。顕界した以上、華麗で素朴な少女アゾフカの概念を維持させたいところだ。


「すごーい!」


 サラマが目を輝かせるので、ジト目で見据えるアゾフカだった。


「なんで黙っているのか理由はわかりませんが、あなただってそろそろ……」

「飛梅さん! 話の続きを!」

「はい。必要そうですね。我々の宗教は現金でお守りや幸運のシンボルを売っています。あなたがたも販売所を顕界に作り、地下通貨代わりのアイテムを販売して、顕界の現金を集めるといいんですよ。もちろん電子マネーもOkにしましょうね」

「シンボルを……売る? しかし私達は民間伝承の類いであって、宗教としては成立していません」

「日本は人に役立つと妖怪だろうと人間だろうと犬や猫ですら宗教として成立します。カミですね。ほら、私自身、信仰されている梅の木ですし」

「|Не странно ли это《(ネストラノー リ エトォ》(それはおかしくない?)」

「|Не странно.《ネストラミー》(おかしくないですよ)」


 思わず母国語で盛んだアゾフカに、彼女の言語で答える飛梅。

 堀川と守山は知っている。飛梅は学問の神社出身なだけあって語学にも堪能だった。


「とはいっても我々にシンボルなど……」

「そうじゃな。本家ドワーフに怒られず、かといって我々のアイデンティティを保つ何かが必要じゃ」

「本家ドワーフ?」


 ドワーフに本家や元祖などいるのだろうかと疑問に思うジン。


「当然おるぞ。北欧の連中じゃ」

「彼らは本家だよねー」


 隣国フィンランド出身のルスカやサラマが納得する。


「我らは所詮、生態が似ているのでドワーフの姿を借りているに過ぎないからな」

「大丈夫ですよ。あなたたちにはぴったりのものがあります。――石の花などはどうでしょう?」


 飛梅がにっこり笑った。彼女としても会心のアイデアだと自負している。

 アゾフカとドワーフたちが顔を見合わせた。


「それだー!」

「それじゃ! 決まりじゃ!」


 そうしてテーブルに酒が大量に追加された。



いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


今回はアゾフカさんたちが顕界に馴染むために必要なものを抽出します。次回、モンスターから石の花がドロップする仕組みについて語られます。

素材ももちろん剥ぎますよ(

ロウヒが参考にしたゲームは古のクラフト型MMOなのかもしれませんね。ウルティ○やベル○イル系統です。

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― 新着の感想 ―
[一言] 作法といえば天の岩戸に倣って神様に注目してもらうために祭りで騒ぐなどとも言われてるね 祭りの喧騒とそれを見聞きしてワクワクするのも神様への捧げ物だとか >素材ももちろん剥ぎますよ そして剥…
[一言] 役に立たなくても日本的には災害に静まり給えと崇め奉ります。 風神雷神あたりがが有名所でしょうか?
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