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お金がドロップしない問題

「何故アゾフカさんとドワーフさんたちがこんな迷宮で休憩所を?」

「顕界への幻想進出ですよ。迷宮とモンスターだけあっても迷惑でしょ? 世の中お助けキャラってものが必要です。ダンジョンのなかにいるセーブポイントとHMP全回復NPC! みたいな」

「それはありがたいし助かるが…… どうしてそんなことを?」


 アゾフカがくすりと笑った。


「私達は遠い伝説の彼方に忘れ去られたおとぎ話なんですよ。このドワーフたちも含めてね。ここで存在感を出せば『アゾフカというキャラは俺たちの味方だ!』とか『以前はクラデネツと呼ばれたドワーフたちがいると頼もしい』となると私達の存在力も増すわけです」

「モンスターどもが恐怖と戦闘力で存在感を示すなら、わしらは人類の味方としてほそぼそと生き残ろうとな。隙間産業じゃ」

「私とドワーフたちはやや異なる属性ですが、幸い【財宝の守護者】という側面や坑夫を見守る精霊としての側面が共通していましたので、手を取り合って安全地帯を経営しようとしたんです」

「おう。どんなアンデッドも追い払えるし、砲弾や燃料、食事、提供するものはなんでもあるぞ」

「うわぁ。ドワーフ凄い……」

 

 ルスカが感嘆の声を発する。彼女もエルフではないがエルフを模しているフィンランド由来の精霊だ。炭坑に住み、礼儀正しさを求める彼らが気難しいドワーフを模すことはぴったりだと思う。


「そこで初めてのお客様がフィンランドの幻想とは私たちにとっても幸いでした。相談したいことが山ほどありまして」

「なんでもいってね」


 サラマが幻想の先輩として俄然やる気を出した。

 ジンは急いで端末を開き、守山に事情を文章にして送付している。顕界にいる新たな人類勢力の幻想であり、ジン一人では荷が重い。

 話し合いには彼らの力も借りたい。


「上司もリモートで参加したいそうだがいいかな?」


 説明が面倒なので守山を上司と説明するジン。


「構いませんよ。顕界でもリモート会議は普通になりましたよね」


 アイノとサラヴィが三枚のモバイルモニタを用意してテーブルの上に載せる。守山、堀川、飛梅だ。

 中心にアゾフカが座り、ドワーフたちが手を振っている。


「はじめまして。彼の上司にあたる守山です」


 正確には上司ではないが、ジンからの連絡により話を合わせることにした守山。実質上司みたいなものだ。


「はじめまして。私がアゾフカ。ええ。マラカイトの女主人はあまりに漠然としていますから。彼らクラデネツよりも頼れるドワーフとして知って貰えたほうがいいのです」

「アゾフカさん。マラカイトの女主人と、ウラルの地に伝わる伝承が結びついたのですね」

「女主人ではあまりに人格がないからですね。――そちらは樹木の精? なんて強い存在力なんでしょう!」

「彼女は今でも現役で信仰されている存在ですからね。知名度もあります」

「羨ましいですね!」

「本当に!」


 アゾフカにサラマも同意する。飛梅は引き攣った笑みを浮かべていて無言を貫いていた。口が裂けてもOLとして顕界生活を満喫しているとは言えない。


「ところで、相談とは」

「話が逸れましたね。私達は各地のダンジョン内部に冒険者休憩所を用意したいと思います」

「それは全世界にとって朗報です」

「宣伝よろしくお願いしますね!」

「アゾフカ。そっちじゃないじゃろ」


 ドワーフの一人にツッコミを受けて、アゾフカが慌てる。


「では話します。私達が直面している問題に」


 アゾフカが語り始めた。



 ◆ ◆ ◆ ◆ ◆


「ロウヒの失策なのですが。ゲーム世界を模して幻想をこの世界に呼び込む。そこまでは良かったんです」

「あまり良くないが…… いえ。過ぎたことは忘れましょう。それで?」

「魔石のドロップや宝箱、無限に湧き出る敵…… そして対抗する冒険者の概念。そこまでは良いんです。ですが肝心の……お金がドロップしないのです! 経験値だけでは冒険者もお腹は満たされませんよね!」

「あー……」

 

 ジンも思ったことだ。魔石も価値はあるが、それだけでは満たされない。

 サラマも深刻な表情を浮かべる。


「サービスを提供するものとして……代金はどうするか、です。魔石は当然歓迎します。そもそも魔石回収の一環業務でもありますが、価値が高すぎるという問題があるのですよ。かといって食事など定価価格帯のサービスを無料奉仕というわけにもいかず」

「当然ですね……」


 精霊が運営しているから無料にしてくれは通じない。飛梅も実感している。お賽銭の一部をわけてもら新幹線で上京してきた女である。大阪から東京へはリニアが使えたが、高額のため避けた。

 無駄遣いしては彼女の主人から怒られる。


「貴女はウラル山脈の化身。モンスターに金属を与えるというのは?」

「金相場下がりますよ? レアメタル相場もです。何より一部のレアメタルは紛争鉱物指定ですよね」

「さすがは女主人ですね……」


 妙に得心がいった顔をする堀川であった。


「何より地球の総質量を乱します。質量保存の法則にも反しますし、何より近年地球は軽くなっていっています。私だけの一存で金属を増やすわけにはいきません」

「地球の法則が乱れる……!」


 ルスカが思わず唸った。その観点の視点はなく、樹木と鉱山という領域に棲まう者の差だ。


「各国の通貨を刷っては。もしくは仮想通貨とかさ」


 何も考えていないジンが思った事を口にする。


「犯罪です」

「犯罪だよ」

「重罪だぞ」

「兄ちゃん。それだけはいけねえ。偽札は日本でも下手な殺人より刑期が長い重罪じゃぞ」


 総ツッコミを受けて黙ることにした。日本に詳しいドワーフもいる。


「ドワーフ、さすが厳しい。さすがは会計官(クラデネツ)


 サラヴィが感心する。ドワーフは不正を許さない。これもイメージにぴったりだった。


「食事は生もので日持ちはしません」

「あなたたちを信仰するというのはどうでしょう」

「信仰ではお腹は膨れません」

「申し訳ない」


 堀川が正論で返される。鉱山を司る精霊は外見には似つかわしくなく、現実主義者だった。


「それにかりそめの信仰を得ても仕方ありませんしね。覚えてくれるだけで良かったのに…… 多くの者にとってはお伽話ですらありません。その点フィンランドに棲まう精霊の方々は、歴史の一つともいえるカレヴァラです」

「北欧神話の神様たちもエルフやピクシーになって生き延びてるからね…… 私たちは幸運だったよ」

「え? そうなのか」

「そうなのです。東洋はまだ神秘が生き残る余地がありましたが、西洋はありませんでした。ギリシャ神話やローマ神話の方々は逆に元素記号や惑星の命名によって顕界にはまず出現できません。存在力が大きすぎるのも問題ですね」

「武神一同も無理らしいからなぁ」

「だから冒険者たちの休息所に、私達はぴったりなのですよ。幻想と交易できる良い品があればいいのですが…… 魔石以外で何かありませんか?」

「うーん。これは難事だな」


 堀川も頭を悩ませる難問が生じたのだ。


いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告感謝です!


ケンブリッジ大学の研究によると地球は毎年5万トンずつ軽くなっている説がありますね。水素などが宇宙へ漏れるとか。でも水素が地球から無くなるまで数兆年。先に地球が太陽に飲み込まれますね!

人間の人口増加や火葬は惑星の総量には大きな影響は与えないとか。


そしてドロップするお金問題。

地球内における純金の総量はプール三杯分という話ですね。23万トンだそうです。

パラジウムとかもかなり高いですし。

やはり電子マネーしかないのか…… ということで次回に続きます!


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― 新着の感想 ―
[一言] 基本は剥ぎ取りでしょう 倒したモンスターから奪うのだー まあ肉は剥げないから中の人のお腹が大変なのは変わらんが
[一言] モンスター素材に価値を見出すのです、お金が落ちないローグライクは意外と多い。
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