罠解除ってそういう?!
「ジン。気を付けて。何かおかしい」
「サラヴィ。何か気付いたことでも?」
「あなたのマジックミサイルで、あの程度の威力なはずがない」
ジンははっとした。低威力魔法だが、ジンが使うマジックミサイルは対空ミサイル並みの威力を持つ。
「魔法耐性がある種の魔法耐性に変換されたのね。確かに手甲がいいけど、なんでそう思ったの?」
「古来よりアンデッドには鈍器が有効、と何かで聞いた事がある」
「それもきっとゲームね!」
精霊姫であるサラマにも想像がつかない存在だ。
アンデッドに鈍器が有効という説はゲームならではだろう。
「セラミックのゴーストか。厄介だな。しかし物理は効くはずだ! あいつをメタルゴーストと暫定的に名付けよう」
近付いてきたゴースト。視認しにくいが、被弾痕で判別できた。
「くらえ!」
繊細な作業用マニピュレーターでは攻撃には不適である。 シデンは右腕を大きく引き、メタルゴーストに向かってヴァーキを籠めた手甲で殴る。
衝撃音とともに、派手に装甲が飛び散り、吹き飛んだ。背後にいるルスカが転倒したメタルゴーストに20ミリサブマシンガンで追撃すると、まったく動かなくなった。
「これも物理で殴る、でいいのかな」
アイノが弾倉を交換しつつ、感想を述べる。
「防御力は薄いな。まさか金属部品がほとんどないのか?」
『そのようです。光を完全に透過・回折させて透明化させるタイプの光学迷彩です。電波吸収集材との併用で高いステルス効果を持つ反面、防御力は低いのでしょう』
「技術力は高いな…… いや異界に住む者の方が技術力は上か」
「ジンもわかってきたね。嬉しい。異界の存在が持つ科学面で侮ってはダメだからね」
「さすがにな」
精霊の印象としては古代の森林に生きているイメージが強い。
技術的なものではマニューバ・コートやミルスミエスを見れば十分理解できる。
「私も物理で攻撃するとしよう!」
サラヴィのピクシーに襲いかかるメタルゴーストだったが、サラヴィは盾を使って殴りつける。
「シールドバッシュか!」
がしがしとひたすら盾を押しつけるように殴り、倒れたところを狙い、盾を両手に持ち替え、叩き付ける。
「サラヴィ。怖い……」
アイノがぽつりと呟いて、無言でショックを受けるサラヴィだった。
アイノとルスカは目標を揃え、20ミリサブマシンガンで一機仕留める。
「銀の弾丸とかできないかな」
「銀を少し混ぜた弾丸は提案しようか。北欧や東欧の悪霊も銀には弱いものがいるし」
対処さえわかれば、耐久力のないモンスターなど雑魚である。
残り二機もジンのシデンが手甲で殴打し、破壊した。
「対処方法さえわかればなんとかなるが、初見殺しみたいなモンスターだな」
「ジン。それより奪い取られた経験値は?」
「シデン。どうだ」
『回復しています。逃走されたとしてもゴブリン五機分ぐらいの経験値です。ジンはロウヒやジュオヤタールを撃破しているので余剰経験値が大量にあります。まったく問題ありません』
「ジンはソロレイド討伐済みみたいなもんだよねー。ゴブリン五機分か。――やっぱり最優先排除モンスターだね!」
ルスカが忌々しげな視線を破壊されたメタルゴーストに向ける。
「同感」
「接近職にとって天敵みたいなモンスターです」
アイノもすかさず同意し、サラヴィはメタルゴーストの残骸を念入りに破壊して回っているほどだ。
それほど経験値ドレインには嫌悪感があったのだろう。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「いよいよ宝箱だね! レンジャーの力、見せてあげる!」
ルスカのピクシーが慎重に宝箱に近付いた。
「レンジャーが何故宝箱の罠を解除できるのか、本当に謎ね……」
サラマがツッコミを入れておく。
「宝箱に小さなボックス状のものが付いているね。鍵代わりかな? 慎重に開封してみよう」
ルスカが宝箱についているボックスを開封する。マニューバ・コートもミルスミエスも区分が服だけあり、マニピュレーターによる細かい作業は得意だ。
「え?」
ルスカのカメラが捉えた映像は、それぞれい同期される。
「罠は罠でも爆弾解体作業か」
「青と赤のコード…… おかしい。普通は同じコートだし、今の爆弾はもっと精巧なはず。おそらくあのボックスを空けて時点で爆発している。液体窒素が必要なところ」
「そんなもの持ってないよ。怖いこといわないで?!」
思わずツッコミを入れるアイノに、最新式の爆弾に恐怖するルスカだった。
「これもフィクション――幻想の侵食ね。罠といえば赤と青。いちかばちか。タイムリミットがないだけ良心的かな?」
「まずこの宝箱に辿り着ける奴は少ないだろうしな」
サラマとジンが軽く溜息をつく。
「マニューバ・コート基準ならとんでもない威力かも」
アイノもカメラを凝視しつつ、後ろに下がる。
サラヴィは守るように立ちはだかる。
「ちょ! みんな酷い! ――ジン。愛してる!」
唯一近付いてくれたジンに対し、ルスカは目を輝かせた。ハートマークといったほうがいいかもしれない。
「俺がやろうか? しかしニンジャに宝箱の罠解除スキルはない。何故だ。ゲームでは定番だろうに」
『ただでさえニンジャ系統は盛りすぎだからです。シーフ系クラスはこぞってニンジャを目指すことになり、クラスバランスが悪くなります』
カスガの飛梅より通信が入り、真相が語られた。
「クラスバランスが悪いのは今更だろうに」
ジンがまたもや嘆息した。罠や解錠は可能だが、宝箱系のスキルはない。確かに歴史上、忍者が宝箱を空けたという話は聞いたことがない。
「待て。大泥棒とかは忍者じゃないのか」
「釜ゆでになりたいのかな。刃に心と書いて忍でしょ。泥棒系のスキルはないと思うよ」
サラマが妙にマニアックな指摘をしたので、ジンは黙ることにした。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
宝箱といえば罠解除。罠解除といえば「いしのなかにいる!」。嫌な思い出ですね……
赤と黒のコード、正確にはワイヤーだそうですが完全にフィクションだそうです。でもすっかりお馴染みですよね! というわけで幻想に侵食されています。
ニンジャなのに宝箱の罠解除ができないジン。レンジャーはできます! クラスバランス上の都合です!
次回、ルスカは無事宝箱の罠を解除出来るのか! お楽しみください!




