経験値ドレイン
「ルスカのオートマッピングは便利だな」
「レンジャーだし! ミルスミエスのOSは優秀だからね!」
アンデッドを蹴散らしながら、進むジンたち一行。ジンが感嘆してルスカが賛同している、ミルスミエスのオートマッピング機能だ。
ルスカも端末を確認しながら、一度行った道は行かないよう注意している。
「マニューバコートにはないって聞いたよ」
「ああ。シデンになる前のマニューバコートにそんな機能はなかった」
複雑な迷宮になっており、構造に意味があるものはない。途中で行き止まりなど頻繁に発生している。
「この意味のない構造こそが敵だな」
「そうだね」
サラヴィは若干苛ついている。法則性がなく、唐突に行き止まりがあるのだ。
その言葉にアイノも頷いた。
四機は巨大な地下空間に突入する。
「天井も高いな…… ほぼ空だ。さすが亜空間ダンジョンだ」
「航空機とかくるかな?」
「ん? 見てジン。中央に」
中央に鎮座している物体がある。
赤い箱に黄金のライン――宝箱だ。
「なんで宝箱が…… しかもゲーム風の……」
「ゲームのダンジョンに宝箱はつきもの。むしろ宝箱もないダンジョン生成は難しいんじゃないかな」
「ゲームが起点ゆえか。みんな、慎重に。見るからに罠だ」
「了解!」
四機が中央を行く。壁際のトラップを警戒してだ。
「あの宝箱、高さ十メートルぐらいあるよ」
「戦車でも入って居るのか?」
サラヴィも眉をこらして宝箱を見るが、とくに変哲もない宝箱のようだ。
「シーフって死に職じゃなかったんだ」
宝箱といえばシーフ系統だが、実際にマニューバコートサイズの宝箱など世界で発見された試しはない。
シーフ系統のクラスを取る者は少なかった。
「レンジャースキルでなんとかなるかも。ゲームだと何故かシーフ系統だし」
ルスカの鼻息が荒い。ゲームでのレンジャーは何故か万能職である場合が多いのだ。
「待て」
広場を中央に向かって進んでいたジンたちであったが、先頭のシデンが脚を止めた。
「――何か、いる」
「敵だね。不可視の何か。今までは物理的な形を伴っていたけど…… いや。顕界にいる。形はあるよ」
「ステルスか。円形隊形!」
ジンの号令のもと、三機はすかさず背中合わせの十字陣形を取る。
「嫌な気配…… これ、相当上位のアンデッドじゃないかな」
ルスカが敵を推測する。
「顕界にはいない、完全な悪霊の類いとか?」
「それなら私が蹴散らせるよ。そういう純粋な霊体じゃない。敵は幻想より生まれたものよ」
ジンの予想を即座に否定するサラマ。
精霊の姫が言うのだ。間違いはないだろう。
「悪霊を模した兵器とでもいうのかな。ゲームなら姿が目に見えない、生命力を吸う。あとは……」
「経験値減少、レベルドレインだな」
「最悪!」
「すぐに倒しましょう。これだけ広いと掃射も厳しいな」
ルスカが悲鳴を上げ、アイノの顔が引き締まる。
「敵がそうと決まったわけじゃない。確実に倒すぞ」
「うん!」
シデンに衝撃が走り、踏みとどまる。
「く! 攻撃を受けた! センサー類に反応がなかった。シデン、無事か!」
『機体損傷は無し――。経験値ドレインを受けました。レベルダウンは発生していません』
「経験値ドレインだと!」
『解析完了。負の生命力由来だと思われます』
「もう何なの負の生命力って!」
サラマが匙を投げた。サラマに理解できなければ誰にも理解できないだろう。
「牽制射撃開始! 無駄弾は撃つな」
十字になった三機も牽制射撃を開始する。
接近してきた敵機体があったのだろう。何かにぶつかった衝撃音がする。
「見えない敵は物理的に存在する、か」
「何故見えないんだろう。これも負の生命力……」
『いいえ。推測ですが敵機体は光学迷彩とレーダー吸収材を採用。物理的に破壊できます』
「見えない理由は負の生命力じゃないの?!」
ルスカも叫ぶ。理解できない現象はいっそすべて負の生命力で説明して欲しかったようだ。
『聞こえるかみんな。――いったん負の生命力から離れたまえ』
たまらずカスガにいる堀川からの助言が入る。
このまま放置していたら、報告書に記載される幻想事象が負の生命力だらけになってしまう事態を恐れたのだ。
「そ、そうだな……」
「人間というものは事象に命名してしまえば、なんとなく理解したような気になる。似非科学などはその錯覚を利用したものがほとんどだ。気を付けてくれ」
「了解した」
堀川の忠告を素直に受け止めるジン。何かしら心当たりでもあるのだろう。
奇襲する敵に対し、ジンは対策を考える。
「塗料をかけるか、範囲魔法ぐらいか。――経験値は返して貰うぞ」
ゲームなら倒した場合、経験値が戻ってくるだろう。
その経験から、早急に倒すことを決めたジンだった。
「マジックミサイル!」
シデンの周囲に10本のヴァーキによる魔法の矢が発生し、敵に向かう。
「自働追尾だ。これなら!」
ジンの思惑通り、マジックミサイルは五方向に分かれ、見えない敵を襲う。
爆発音とともに、被弾した場所から光学迷彩が剥がれる。確かに敵機体は五機いた。
『レベルの高いモンスターだと推測されます。装甲材質も異質です』
「どう異質なんだ?」
『先ほどの推測通りです。メタマテリアルによる光学迷彩と、複数の素材を用いた複合セラミック装甲です。着弾箇所の解析によりフェライトナノ複合材料に属するものでしょう』
「電磁波吸収材か!」
戦闘機などに使われるステルス用のフェライト塗料は有名で、ジンでもその程度の知識はあった。
「セラミックでアンデッドか。――ヴァーキを込めて殴るか」
シデンは戦闘用手甲を構えるのだった。
お読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
経験値ドレインされるとリセットボタン押すタイプでした。嫌ですね……
デスペナはまあリセットできないMMOなので受け入れるしかありませんが!
似非科学か本物の科学か作者が判断しかねないものに「量子水素エネルギー(Quantum Hydrogen Energy)」というものがあります。実際記事をみると様々な日本の大学やエネルギー企業が取り組んでいます。巨大企業も出資していますね。
常温核融合改め凝縮系核反関連の用語ですが、外国の文献をあたってもどうにも出てこない。常温核融合は物質(主にパラジウム)は水素を貯蔵できるので詰め込むと熱反応が起きる、という原理ですが、もし可能ならパラジウム単価は高いものの世界各国実験に成功しているはずでして。
量子水素エネルギーが外国で出てきても日本発なんですよね。
いまだWikipediaにも当然ない用語です。
ひょっとしたらノーベル賞物の発明になるかも、ですね! 続報を期待しています。
もしこれを新聞で見たらこの後書きを思い出してくれると嬉しいですw




