負の生命力って何?!
シデンがヴァーキライフルを構える。
「まずは様子見だ。援護を頼む! まずはヴァーキウェポンで牽制だ」
「了解!」
みんなの声が、同時に返ってくる。
「MPを多少使うが、魔法ほどじゃない。発射!」
シデンを先頭に全機、スケルトンとT-34に向かって発砲する。
T-34も反撃し、主砲を発射した。1941年式の76.2ミリF-34砲。初速630メートル/秒であり、近距離で回避できるものではない。
「受けてみるさ!」
もとより初速ショルダーシールドを用い、ガードするシデン。この世のものではない砲弾を受けるには不安はあったが、ある考えがあった。
相手も一種のエネルギー弾のようだ。
狙い通り、シールドに直撃しT-34の砲弾が消滅した。
「怨霊弾? 思った通りだ。シールドにも傷一つついていない」
「何いってるのジン! ちゃんと反撃して!」
「わかった!」
機関砲よりも音は響かず、瞬く間にスケルトンとT-34を蜂の巣にする。
「あれ……」
戦闘が終わった。
錆び付いた鉄屑の残骸が転がっている程度だ。
「オーバーキルですね。死者相手にキルという表現が正しいかは不明ですが」
アイノが正直な感想を口にする。
「しかしジンも無茶です。砲弾を受け止めるなど」
「やはり負の生命力にはヴァーキが有効なのかな、と。あいつらだって弾の補給なんてできないだろうし。怨念めいたものを飛ばしてくると踏んだんだよ。負の気砲だな」
ジンはアンデッドならヴァーキは使えないだろうと踏んだのだ。
そうであるならば、ヴァーキを込めた盾で威力を軽減できるだろうとも。
「ちょっと待って。負の生命力って何?!」
精霊であるルスカは耳聡く聞きつけ、詰問する。
「あれ? ないのか?」
何故かジン自身もアンデッドは負の生命力から成立すると思い込んでいた。
「ないよ。そんなもの! 負の生命力ってなにさ! どこからきた概念なの?」
「え。俺に聞かれても…… ゲームか?」
困惑するジン。精霊にあるルスカには解決せねばならない概念であった。
「負の生命力なんてものがあるなら、死が欠けるにはならないよね?」
「食らいつくなルスカ…… なんかエルフキャラが崩れ始めているぞ」
「は! いけない! ――初めて聞く概念だもの。ゲームでも滅多に出てこないでしょ?」
「吸血鬼には気が効果あるとか? 生命的な力が有効だと聞いたことがあるけど……」
「初耳」
ルスカが美しい眉をしかめる。
「思ったより根が深い問題だよ。ジンたちがそうあるべきと認識していたら、【負の生命力】なる概念もまた発生していることになるんだからね。卵が先か鶏が先か。この場合は明らかにゲームが先だよ」
「えぇ……」
「欧州全域のアンデッドはレヴナントになるんだろうけど、フィンランドだと祝福を受けていない魂。別の地域では呪われた生命とかね。北欧のドラウグルは肉体の幽霊。この迷宮では負の生命力で動くアンデッドという新しい伝承が生まれていたってことなんだよ」
「つまり…… ゲーム概念が、こいつらの新たなエネルギー源ということか!」
「そうだね。幽霊でも、呪われた存在でもない。【負の生命力】で動いている新種のモンスターが、幻想世界から顕界に侵食中ということかな。T-34も負の生命力とやらがエネルギーで無限の砲弾を装備している。負のヴァーキみたいなもんだよね」
「まずいな」
「でも【負の生命力】は【気】、つまり霊的なエネルギーで解消できる。ミルスミエスなら余裕で対処。マニューバコートでも魔法で対抗できる、か。これを知らないと手も脚もでないよ」
「この通信を聞いている堀川さん、頭を抱えているだろうな」
「あと何かないの?」
「アンデッドには回復魔法や蘇生魔法をかけると即死するとか?」
「なんで? 無効じゃダメなの? じゃあ負の生命力はマイナス値からプラスになると生き返るとか?」
「いや死ぬ。じゃないな。死んでるもんな…… 倒せる」
「なにそれ怖い。数学的にもおかしくない?」
「俺に聞かれても…… 負の生命力だから、正の生命力が毒になるという考えだとは思うぞ」
「どんな原理なの、負の生命力……」
「だから俺に突っ込まないでくれ! そこまでゲーマーじゃないから!」
ジンは必死に堀川と守山にSOSを送りつつ、先に進むことにした。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
ジンのSOSを受け取った堀川と守山と飛梅が全員頭を抱えていた。
返す言葉はない。スルーすることにした。非常な決断もまた求められる。
「負の生命力…… ロウヒめ。なんて概念を具現化するんだ」
「まさにゲームからの逆襲ですね。私もなんとなく、そういうものがあるもんだと」
「古来より冥府、黄泉の生き物はありますが、黄泉の生き物がいても、黄泉が発生源の生命など聞いたこともありませんからね…… イザナミ様は1500人殺すと思いっきり宣言してましたし」
「仏教でもそんな概念はないな…… 輪廻転生するし」
「生命磁気に生と負があるオドが近い概念かもしれませんが……」
「カール・フォン・ライヘンバッハ男爵か。当時、学会総出で叩き出されたし、気との概念とも否定された」
「マナとか?」
「同じ非人格的な力を意味するし、マナもヴァーキのくくりでいいだろう。マナは本来オセアニア諸語の概念だったのに何故か魔力の代名詞になっていたな。そういえば普及させたのはオカルト学会からか」
「私たち、オカルトについてすっかり詳しくなってしまいましたね……:」
堀川と守山が溜息をついた。ヴァーキを研究するには、オカルト的なアプローチが必要だったjのだ。
「幸いジン君が体を張ってくれたおかげで、ヴァーキが有効だった。日本外征部隊のサムライやニンジャなら余裕で対処できるだろう」
「速やかに情報を伝達します」
飛梅が即座に名乗りでる。
「しかし負の生命力とは厄介な概念が生まれているな。これはこのままジン君たちに討伐してもらわないと、手に負えないぞ」
「まったくです。もし今抑えられないと、負の生命力で動くモンスターが次々と。いえ、もう遅いかも知れませんがこちらも対策を立てる時間が必要です。そのためにも彼らにはダンジョン【レーニングラード】攻略してもらわないと」
堀川の言葉に守山が悲愴な表情で同意した。
いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!
ゲームお約束ツッコミ回? 負の生命力ってなんだろう…… むしろ初出はどこからだろう……
自分でボケツッコミを繰り返してそのまま反映した回です← ルスカがツッコミキャラに決定しました! エルフだしね!
おそらく負の生命力は日本のTRPGかJRPGのような気もするんですが、D○でも回復魔法でダメージ与えたり即死したラスボスがいたような気がする…… F○にもなんかあった気がする……
TRPGならS○にも似たような設定があったような気が? D&○は覚えてないや。
と煩悶して少し調べましたがわかりませんでした。ガチで調べませんでしたw




