ダンジョンモンスター【T-34】
五機の鋼のスケルトン。ゴブリンと違って中身はいない。
問題はスケルトンに随伴している三輌の火力支援車両だった。
サビだらけの車体。丸っこい砲塔に、現行戦車と比較して小さな口径の砲塔。印象とは裏腹に、思ったよりも大きい。
「T-34だと……」
アーネが絶句した。第二次世界大戦におけるソ連の主力戦車だった。
フィンランドとの冬戦争時に開発された。世界ではアメリカのシャーマンに次いで量産された戦車だ。
76.2ミリ砲が火を噴いた。ミルスミエスの肩部装甲を破損させる。貫通こそしなかったが、装甲技術の差に救われたというべきだろう。
「くそ。腐っても戦車の主砲ってことか。こっちは服だもんな!」
ミルスミエスは強化外骨格。防弾性能は高めとはいえ、戦車と真正面から殴り合いをしても勝てるわけがない。
それでも50ミリ機銃には耐えることができるし、爆発反応装甲など強化の余地はあるが、装備していない。地下迷宮の敵が戦車など想定外だった。
「博物館から引っぱり出してきたのかよ!」
「ちぃ。T-34か。最高時速55キロ、不整地でも30キロ以上は出せる。百年以上前の傑作戦車だ」
クラスがサムライのミルスミエスはライフルを構え発砲する。
砲弾は容易く装甲を貫通した。弾痕が発生するものの瞬く間に装甲が復元される。
「復元している?」
「あれもアンデッドモンスターだ。気を付けろ!」
サムライ部隊は砲撃で対抗するが、装甲を吹き飛ばしても瞬く間に再生する。
「隊長! 武器が……!」
「わかっている。これは【気】を込めて邪を斬断すべきところだ。総員抜剣!」
アンデッドには魔法武器。魔法武器が無ければ魔力付与しかないだろう。
サムライは刀を抜き、気を込めてエンチャントする。
背後のニンジャとノロンジは遠距離魔法で攻撃を開始した。
気を込めた武器でスケルトンを斬りつける。再生はなかった。
ニンジャの遁術もT-34には有効のようだ。
「いける。畳みかけろ」
五機のスケルトンを斬り伏せ、T-34を魔法で吹き飛ばす。
戦闘が終わり、T-34を慎重に確認する。搭乗者は存在しなかった。
「ゴーストタンクか……」
「初期型のT-34-76は砲塔に二人、後期型T-34-85は三人だったはずだが。これは初期型のピロシキと呼ばれた型だな。改めてみると居住性が最悪というのは本当のようだ。これで改良されたものだというのか……」
「データを照会しました。砲口径からしても1943年以前生産にされたタイプだと思われます。レーニングラードは第100工場でT-34を生産していた歴史もあるようですね」
残骸から魔石だけが残され、急いで回収する。
「――撤退しよう。MPが保たん」
「ですね。それにこの復元能力。他の軍で対抗することは……」
「厳しいだろうな。そのためにも俺たちはこの情報を持ち帰らないといけない。T-34はおそらく初期型だ」
「小隊が誰も欠けなかったことは僥倖です」
「そうだな。――撤退を開始」
映像はそこで中断された。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「今ご覧頂いた映像は、先行した日本外征部隊のもの。新国連軍は壊滅し、生還者はいません」
飛梅がプロジェクターを用いながら解説する。
「ダンジョンモンスターは鋼鉄のスケルトンと、ゴーストタンクT-34。物理攻撃は無効化され、気を――ヴァーキを籠めた砲弾などで対処可能です。日本外征部隊はクラス上、全員ヴァーキ使用可能でした」
「ニンジャにサムライ。古典的な日本の誤った認識ですが…… それが幸いしたのかもしれませんね」
「どういうことだね?」
アーネが飛梅に問いかける。
「ニンジャやサムライは何かよくわからない不思議な忍術やあやしげな剣術を使う――フィクションによる共通認識が、クラス能力を高めているのです」
「フィクションの――幻想による強化か」
「歴史もありますけどね。フィンランド軍のミルスミエスやマニューバコートも恩寵はありますよ。スナイパークラスが突出しています」
「それは…… そうだな。我が軍特有の事象らしい。お国柄ではなく、おそらくはかの英雄だ」
「それと同様ですね。新国連軍の自称エクソシスト隊も全滅です。MP供給がない部隊だったようで。祓うだけでも勝てないということですね」
「それで俺たちか」
ジンたちのパーティは高レベルな上、バランスも取れている。対応可能な戦力は彼らしかいないだろう。
「はい。ジンさんの部隊はニンジャ系ナイト系魔法使い系詩人系。バランスの良い高レベルPTです。――当然データ取りにはご協力をお願いしたいですね」
「データ取りとはジン殿に遁術を託した武神一同の連中かの? あやつらは好き放題やっておるのぅ」
飛梅の言葉に思わず眉をひそめるイネ。心当たりがあるようだ。
「そういわないでくださいな。胃が痛くなります。主に私の」
「お主、もう枯れるのか…… 可哀想にのぅ」
「勝手に枯らさないでください!」
守山がフィンランド軍に二人のやりとりを通訳する。
「カミというやつだな。WEB百科事典で見たやつだ。私も知っている」
「その概念です。ジンは氏子。――ガーディアンエレメンタルが雷に由来するものです」
「カミの区分はエレメンタルなのか?」
堀川がふと気付いて尋ねた。
「各国のWEB百科事典ではカミ、ヤクシャ、ラセツとして細かく分類されていますよ。日本だとまとめてカミとしたほうが理解しやすいでしょう。独立したカテゴリですね。あえて訳すならgodではなくくdeityが相応しいかと。神性や神も女神も含みますので」
「ギリシャ神話や北欧神話の神々と同じような区分か、納得だ」
「そのカミの力を持って、今度はAA-のダンジョンを攻略してもらうことになる。フィンランド軍はいかなる支援も行うと約束しよう。――レーニングラードの怨念はきっと我が国を襲うに違いない」
アーネはジンの顔をまっすぐ見据えた。ジンは懇願に近い眼差しに力強く頷いて応じるのだった。
いつもお読み頂きありがとうございます! 誤字報告助かります!
というわけで出したかったモンスターT-34です。
先月レーニングランードから離れたスターリングラードでT-34がパレードに出現して「リアルパネェ」と現実の進行速度に負けました! 悔しい……!
というわけで鋼鉄製のスケルトンとT-34です。T-34は残骸や怨念から、鋼鉄製スケルトンはカレリア地方フィンランド鉄の神話由来です。
DADANWEB小説コンテスト一次通過しました! とても嬉しいです! 皆様応援ありがとうございます!




