表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/65

幻想ダンジョンレーニングラード

 新たな仲間アイノが加入した次元空母カスガは、現在異なる次元を航行中だ。

 妖精たちに歓迎されて、目を白黒しているアイノ。保護者のように寄り添うサルヴィ。


「ようやく実体化できた」


 安堵のため息をつくサラマ。

 サンタクロースにリソースを奪われて顕現できなかったのだ。


「そうはいっていられないぞ。サラマ。事態は想定以上に悪い」


 セッポがサラマに声をかける。いつになく顔は険しい。


「フィンランドと日本外征部隊から救援要請がきている。バルト海が主戦場だ」

「バルト海かあ。あの場所は周囲にそれぞれ神話体系があるから幻想化しやすいはず」

「その通りだ。しかももっとも厄介な概念がダンジョンになったんだ」

「厄介な概念とは?」


 ジンが問いかける。精霊たちやミルスミエスの強化によって概念は重要だと理解している。


「レーニングラードって知っているかジン」

「ああ。さすがに知っている。ドイツとソ連の激戦区だろ。映画で見たことがある」

「旧名だがな。今はもうない。ノヴゴロド連邦のサンクトペテルブルク――聖ペテロの街だ。本来ならば、だ」

「本来なら?」

「幻想に侵食されたんだ。レーニングラードという概念、難攻不落の英雄都市にして惨劇の地だ」

「うん。レーニングラード。共産主義が生まれた地にしてかのレーニンの街。旧ソ連では大祖国戦争ともいわれていたわ」

「あれだろ。餓死者が大量に出たっていう」

「主にドイツ、だけどフィンランド軍も加わっている。そして有名なレーニングラード包囲線は約四年も続いたの。脱走者は士気低下を防ぐため自軍に殺されたわ」

「四年もの包囲戦…… 想像もつかないな」

「でしょうね。人々は次々と死に絶え、やがて広場には人間の死肉さえ売る店も現れ、共食いもあったという記録もあるわ。ネズミなどごちそうだった。そんな有様よ」

「く……」


 実際に飢えた経験がないジン。映画でしかしらない世界に絶句する。


「上下水道も途絶え、極寒の地にもかかわらず燃料も途絶えた。もっとも寒かった気温は摂氏マイナス18.9度。凍死者も続出した。ソ連軍は何度も包囲網を破ろうとして、失敗した。この戦争での死者は60万とも150万人ともいわれている」

「地獄そのものみたいな概念をひっさげて出現した新たなダンジョンマスターが【ヴェレス】だ。本来は冥府の神であり、バルト海の主神ペルーンの宿敵でもあるトリックスター的な存在だったが、一神教の普及により邪龍とも悪魔とも言われるようになった。ダンジョンマスターはこの邪龍の側面だな」

「レーニングラート戦の怨念を利用している?」

「察しがいいな。いくら英雄都市と呼称されたからといっても彼らが天に召されるはずもない。厄介なことに共産主義ってのは無神論でもあってな。すべての神や宗教を否定する性質を持つ」

「ソ連崩壊後に名付けられたサンクトペテルブルクはそのために被せられた結界かもしれないね」


 ジンも深く思い悩む。相当な強敵だ。


「そんな概念。ゲームじゃアンデッドだらけになりそうだ」

「お。察しがいいなジン。正解だ」

「待て!」

「敵はゴブリンやオークじゃない。亡者だな。しかも鋼鉄の身体を手に入れている。相当厄介だぞ」

「あいつらもゴブリンと同じ、巨大機械扱いのモンスターか! どうやって祓うんだよ!」

「そこはゲームと同じだよ。神聖魔法でも使えばいいんだが……」


 口ごもるセッポ。


「俺達は、ほら。異教だからな?」

「そう。亡者を祓う能力はないよ」

「戦闘手段がないのでは?」

「そこはほら。ゲームでもあるだろ。エンチャント。魔法付与だ。俺達ならヴァーキで戦える。日本のサブカルでも気が吸血鬼に効くだろ? それと同じだ」

「えぇ。そもそも気が吸血鬼に効くなんて聞いたことがないぞ」


 納得がいかないジン。

 

「そうなのか。俺の情報が古いな……」


 真剣に考え込むセッポ。悩み所が違うと思うジンだった。


「問題は違うよねセッポ」


 サラマがさりげなく話を戻す。


「おっと。そうだ。で、だ。さっきの話もある通り、死者たちは包囲された国、及び祖国への恨みも強い」

「当然だな……」

「俺達の国フィンランド、そしてドイツにアンデッドが一部侵攻を開始して阿鼻叫喚になっている。砲弾で吹き飛ばしても蘇るからな。鉄のくせに」

「でも主敵はドイツになるんじゃ」

「そうだな。だが実質バルト三国とポーランドが緩衝地帯になっている。当然巻き添えになった国々とドイツで絶賛内紛中さ」

「なんとかならないのか?」

「なんとかしにいくんだよ。俺達でな」


 セッポがにやりと笑う。


「フィンランド、バルト三国の大陸経由、及びバルト海から幻想ダンジョン【レーニングラード】攻略パーティが多数出現している。国規模のダンジョンだ。国家の思惑も絡んでいるがね」

「地球上とは関係ない土地がまるっと生まれたわけだからな……」

「魔石収集のため妨害も入るかもしれん。消えたら困る国もあるんだろうな。遠い国ほどそうだろう。そこでこんなダンジョンは俺達でとっとと攻略しちまおうってことだ」

「賛成だ。しかしどうやって潜入するんだ?」

「ん? あの周辺地域すべてがダンジョンになっている。バルト海で補給を終えたのち、そのままカスガで突っ込むぞ」

「空母ごとダンジョンか。豪快だな」


 もはやダンジョンといえるものではないのではないか。ジンはそう思うのだった。

いつもお読みいただきありがとうございます!

不定期ですが連載再開です。最低月二回は連載できるようにしたいと思います。


今回の舞台はレーニングラードと呼ばれた地。独ソ戦の死者は日本wikiだと60万から100万といわれていますがロシアのwikiだと150万説もあるとか。死者は膨大です。

次の敵はアンデッド! 強敵です。どう処理しようか悩んでいるのでなかなか筆が進みませんが、応援よろしくお願いします!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 被せた名前すらブルクが付いてるから城塞の意味だしね アンデットなら文字通り兵士は畑で収穫出来そうだな ソ連の概念なら戦車犬とか出てきそう 対アンデットなら有効なクラスは力士だろうか タン…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ