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再生能力の攻略法

「ここまで近づけたか。アイノは優秀だな」


 アイノが先行したルートは敵の警戒網をかいくぐり、シェートロール付近まで近付くことができた。

 森に慣れたアイノだからこそ探し出せたルートである。


「恐縮です」


 先ほどから褒められてばかり。透き通るような肌はすぐ赤くなってしまう。


「ここから先は強行突破だ。俺が先行する」

「はい!」


 ジンの戦闘能力は疑う余地もない。

 屈伸姿勢を取り、シデンが先行し、つかず離れずピサラが続いた。


「いたな」


 森林を進む二機は、隊列を離れ森からの攻撃に備えた哨戒のアイスゴブリンを発見する。


「邪魔だ」

 

 音もなく忍びより斬り捨てるシデン。


 旧式機とは思えない運動性と隠密性能を誇っている。

 

「やはり、強い……」


 刃物で装甲を切断するなど、かなり特殊な近接武器でなければ不可能だ。


 ヴァーキを用いているか高周波ブレードの一種であろう。



 二機が進むと視界に入ったシェートロールの巨体。


 しかし、強烈な違和感に襲われるジン。


「なんだあれは。倒せるのか?」


 トロールはトロールでも金属のトロール。それはいい。

 体表が水銀で出来ているかのように、液体金属なのだ。ドロドロと液体化した金属が機体表面を流れている。機体内部まで液体金属かもしれない懸念が生じたのだ。


「本当に外装だけが液体金属なのか。内部まで液体金属の可能性もあるな」


「わかりません。狙撃してみましょうか?」


「待ってくれ。狙撃は周囲のオウガだ。万が一効かなかったら一発ムダにすることになる」


「そうでしたね…… 周囲の敵を確実に減らします」


「オウガを狙撃してくれ。直後俺がシェートロールに仕掛けてみる」


「はい!」


 二機はまず遠距離からの攻撃を仕掛ける。


 距離は三キロ。シェートロールはこちらに気付いていない。


「ッ!」


 ピサラがヴァーキライフルの引き金を絞る。

 輝く魔砲弾はオウガに直撃し、転倒した。


「え? 何このライフル。とんでもない威力……」


 ヴァーキライフルは戦車砲以上の何かだ。ミルスミエスが携行可能な武装は肩撃ち式の120ミリ砲が最大だが、それすらも優に上回る威力である。


 ジンのシデンは火球を発生させていた。


「ボーライト!」


 火球はシェートロールに直撃し、爆発する。


 シェートロールの胸から上が吹き飛んだ。


 しかし見る見る間に上半身が再生する。若干縮んだ気がするが、今なお十メートル以上の巨体を維持していた。


「やはり再生能力か!」


 映画にある殺人機械のように再生するシェートロール。


 ゲームでもトロールはHP回復能力に優れている。ジンが抱いた違和感の正体だった。


「そんな! 倒せないということでは?」

「いや。形があり、顕界にいるんだ。どんな敵でも倒せないということはない。ゲームなら出血などの継続ダメージや火傷なんだが、あいつは流体金属だからな」


 ジンは振り返らずに、後部座席に声をかける。


「いるな。サラマ」


 ――いますよ! 相方ですからね!


 相方を力説するサラマ。ジンに忘れ去られていたらどうしようかと内心思っていた。


「どうして視認できないんだろう。ロウヒのときは空にいたサラマまで視認できたのに。


 ――あの時と違って、周囲のヴァーキが足りない。いわば魔力が薄いのです。


「そういうことか。ロウヒと対峙したとき――俺の素質もあったんだろうが、ロウヒの膨大なヴァーキによってサラマも視認できたんだ。シデンのリミッター解除で、その後の君とも接触できたんだな」


 ――そうです。それでも私と話せるということはヴァーキのこつをつかみましたね。


「誰に話し掛けているんですか。ジン。誰かいる、ということはわかります。強い気配を……」


 近付いてくるアイスゴブリンやオウガを狙撃しながら、アイノが訊ねる。


「子供の君を最初に助けてくれようとした、精霊の御姫様だよ。俺は彼女の声を聞いて幼い君のもとにいったんだ」


「精霊の御姫様! そんなことが……」


 初めて知る事実に、驚きを隠せないアイノ。


 ――あの時は私の声も届かなかったのですアイノ。


「今ならわかります! あの時はごめんなさい。色んな人を傷付けてしまいました」


 ――いいのです。あなたにも私の意思が伝わっていることが嬉しい。


「サルヴィたちと一緒に顕現しようとしたが、彼女だけ時間がかかるらしい。今でも俺たちの傍にいて、見守ってくれている」


「ありがとうございます。精霊の御姫様」


 目に見えないサラマに感謝の言葉を捧げるアイノ。


「危険な賭だ。失敗すると君も俺も死ぬ。できるだけ離れろ」


「お断りします。私はあなたの援護を続けます。死んでもです」


 無表情な少女は若干怒っているようだ。


「本当に危険なんだ」

「嫌です。私が頼んだことなのに、私だけ逃げるなんて許されません」


 ジンが軽く嘆息し、アイノの意思を受け入れることにする。


「どうやって倒すのです? ゲームならいざしらず相手は機械です」


「ゲームだと回復能力を上回る継続ダメージを与えるか、一撃死させるという手もあるぞ」


 ジンはにやりと笑った。手段はいくらでもある。イベントやラスボスでもない限り、不死身のモンスターは存在しない。


「MPはぎりぎり。最大の魔法をぶつける。万が一は済まないアイノ」

「はい!」


 シデンは厳かに合掌すると、徐々に両手を離していく。


「サラマ。シデン。行くぞ。制御を頼む」


 ――いつでもいいですよ!


 その掌には、白く輝く光球が浮かんでいた。


「それは――」


「融点もあれば沸点もあるさ。金属ならね」


 光球を空に飛ばすシデン。


「日遁の術!」


 光球からうねるような赤い奔流が発生し、龍のようにうねる。


 空気が炸裂するような衝撃――


 赤熱した奔流は空に昇り、シェートロールの頭上から降り注いだ。


 凄まじい熱量にシェートロールの姿が見えなくなる。


 沸点を超えて蒸発しているのだ。


 周辺のゴブリンも同様に溶解していく。直撃はせずとも一万度に達した業火のシャワーには耐えられなかったようだ。


 ――あそこまで強力なヴァーキを制御できるようになりましたね。


「ありがとうサラマ」


 姿が見えない少女が、笑っているかのようにジンには思える。


 彼女としても、この術には相当なリスクがあったはずだ。


「な、な……」


 あまりの威力に絶句するアイノ。


 砲すら所持していない人造の機械が発して良い威力ではない。


「日遁の術――紅炎だ。これで最上級忍術じゃないってんだからな……」


 自分の発した術に、驚きを隠せないジン。使い所を誤ると非常に危険だ。


 MPも空になっている。それだけの威力を持った魔法は、負荷も大きい。シデンもオーバーロード寸前だ。


「プレミネンスを使ったんですか!」


 あまりのことに普段冷静なアイノが思わず驚愕し問いただすほどであった。


「その一部をね。本来なら高レベルでないと使えない。サラマの護り――天空の加護があったからこそ使えた術。この日遁は威力ではなくて制御が難しい。太陽の機能を持ってくるわけだからな。下手したら俺たちが蒸発だ」


 武神一同も悪ノリが過ぎると思うジン。おそらく火の概念を空からうっかり落としてしまったサラマの概念も合わさった威力だと予想している。


「でしょうね。ですが、再生能力を持つシェートロールは蒸発させるしかなかった。納得です」


「蒸発してくれてよかった。飛び散った金属の粒はまた集まるからな」


 ジンはレーダーをみた。


 大規模な軍隊が展開中だ。


「フィンランド猟兵部隊も集結したようだ。俺たちの役目はここまでだな」


 指揮官機たるシェートロールを倒した今、残存するモンスターにはフィンランド猟兵部隊なら十分に対処できるだろう。


「ありがとうございます」


 ジンには驚かされてばかりだが、素直に礼を述べることができた。


「戻ろう。サルヴィのもとへ」


「はい!」


 アイノも一刻も早くサルヴィと再会したかった。


 シェートロールを消滅させた二機は、フィンランド国境付近に戻るため、森林を走り抜けるのだった。



いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります!


摩○支天「月遁は私デザイン」


武神一同が魔法デザインで悪ノリしていることがわかりますね!

負担はジンです。サラマの加護があってシノビのジンですらこの有様なので、ニンジャの傭兵たちは四苦八苦しているでしょう。一般兵のサムライやニンジャも書いてみたいですね。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 武神一同の魔改造強くて扱いずらそう。 [一言] ジンさんのヒロインの扱い的に、女泣かせポイント10点到達はけっこう早そう。
[一言] 1万度に熱されて蒸発しない金属があったらそれはそれで各国がシェートロールを狩り尽くしそう しかし最上級の攻撃系の術はどんだけの威力があるのやら 加熱系なら億度に達したり?
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