忍術無双
大量のゴブリンまで動員し、車列の要因である頓挫した戦車を動かそうと必死なモンスターたち。
シデンは森林に潜み、目標に狙いを定めた。
「ボーライト!」
ジンが火球を発射し、着弾すると轟音とともに爆発が起きる。攻撃魔法を用いたのだ。火球を直接ぶつけるファイアボールと違い、ボーライトは火球が炸裂し広範囲にダメージを及ぼす。
結果として敵部隊は一網打尽となった。
――出来れば国道沿いで暴れないとな。
ゴブリンが新たな敵に気付いた時には遅かった。
森を高速移動しながらヴァーキライフルで次々と巨大なモンスターを葬り去るシデン。ゴブリンどころかオークまで一撃だった。
「雪遁!」
天遁十法の一つ――雪遁を発動する。
暴風雪が巻き起こり、モンスター軍団に襲いかかる。
小型のゴブリンは吹き飛ばされ、オークや戦車は凍り付いた。
暴風雪は一瞬で止み、身動きが取れない戦車とモンスター軍団が残された。
「自分で使っておいて思うが…… 雪遁ってこんな術じゃないよな」
本来ならば雪に紛れて逃走する術のはずだった。武神一同による力作の術だ。
「足止めには十分!」
目的を達成したジンは国道をまたぎ、アイノが搭乗するエルヴズのもとへ向かう。
雪のなかに潜伏していたアイスゴブリンが飛びかかり襲いかかる。
咄嗟の奇襲には、ヴァーキライフルも間に合わない。
「ハッ!」
左手に仕込んでいたクナイ型の手裏剣を放つシデン。
ゴブリン程度の装甲を貫くには十分の威力を持つ。クナイはリール回収式で、連射には向かない。
「くそ」
シデンの前に巨大な人型兵器が立ちはだかる。オウガであった。
ゴブリンが自動車、オークが装甲車ならオウガは戦車だ。魔法も効きづらい強敵だ。
オウガが力任せに殴打してくる。戦車の装甲すら凹ませる破壊力を持つこの殴打にシデンはいつの間にかかき消えた。
「月遁」
水面に映る月光の映える影。それは幻の如く――
オウガの打撃は空を切る。月遁は、残像によって敵攻撃を回避する術だった。
いつの間にかオウガの背後に回っていたシデンは、すれ違い様に背面のコックピット部分を狙う。
正確にコックピットを貫かれたパイロットのオウガは即死し、塵となって消えた。
「コンボというべきか。月遁とバックスタブの組み合わせは便利だな」
バックスタブは暗殺術の一種。背面からの一撃が致死傷となり、パイロットを正確に狙う。人型にしか通用しないが巨大なオウガ相手には便利なスキルだ。
本来なら残骸を解体したいところだが、今はそれどころではない。
アイノを追うべく、静かに雪が降る森林を疾走するシデンだった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
サンタクロースが敵航空戦力を撃破し制空権を確保してくれたおかげでサルヴィは対地攻撃に移っている。
重輸送機であるティルトローター機サテーンカーリは積載に余裕があり、相応の武装も備わっていた。
「こちらフィンランド空軍。貴君の所属を確認したい」
フィンランド空軍所属戦闘機が遅まきながら飛来した。英語による通信をサルヴィに対して行っている。日本外征部隊の敵味方識別装置を装備しているサテーンカーリだが、見たこともない輸送機はやはり不審に思えるのだろう。
戦闘機は<シベリウス>。英国主体で開発した第五世代戦闘機テンペストのフィンランド空軍仕様機だ。
「こちら日本外征部隊機装第三中隊所属輸送機。国境を越えてフィンランドに侵攻してきた敵幻想大隊に対し即応した」
フィンランド語で返答する。日本外征部隊機装第三中隊はかつてジンが所属した部隊だ。
セッポの交渉で、彼らは日本外征部隊機装第三中隊の名と識別コードを継承している。ジンが内心感謝していることは精霊たちの間でも有名だ。
「敵味方識別装置信号確認した。大和連邦日本外征部隊所属機だな。――待て。あの日本外征部隊機装第三中隊だと? ばかな! 彼らは十年以上も前にロウヒを封印して全滅したはずでは!」
十二年前、ロウヒ消滅とともに行方知れずになった機装第三中隊は世界を救った英雄としてフィンランド国内で信じられている。
日本外征部隊機装第三中隊のみ唯一ロウヒとの交戦記録が残っていたからだ。
「詳細は大和連邦所属日本国に確認されたし。――そしてパイロットよ。私がフィンランド語を話していることに気付け」
今なお英語で会話を続けるパイロットに苦笑するサルヴィ。
戦闘機パイロットはばつが悪そうにしている。地元語で会話しないと失礼だっただろう。
「フィンランド人なんだな。申し訳ない」
「国籍はないがね。ゆえに無国籍者でも受け入れる日本外征部隊だよ。我々は」
「その輸送機で制空権を確保したのか?」
「機装第三中隊の援軍が敵航空部隊を殲滅。すでに帰還した。あなたたちはサッラ侵攻に備えて地上部隊を支援して欲しい」
サンタクロースが顕現して敵航空機を全機撃破したなど、事実を伝えても混乱するだけだろう。サルヴィはそう判断し、冷静に結果だけを言い換えた。
「了解した。協力感謝する」
「フィンランドに棲まう者にとって当然のことだ。以上」
住人ではない。棲息しているのだから。それだけ告げるとサルヴィは通信を終えた。
レーダーを確認し、戦況を確認する。
「ジンは幹線道路82号線に爆発と吹雪を起こした。一機のミルスミエスが部隊であり、一本道の進軍を阻止していると見せかけた。そうなればゴブリンどももアイノの追跡などしている暇はないからな。一機のエルヴズなど囮に過ぎないと思うだろう」
レーダーに別の友軍反応が発生した。
「地上部隊もきたか。時間の問題だな。――間に合って良かった」
じきにアイノとジンが合流する。
それだけで受肉した甲斐があったと思うサルヴィだった。
いつもお読み頂きありがとうございます! 誤字報告助かります!
主人公機シデンも活躍できました!
ロウヒをソロ討伐したことによって莫大な経験値が、活かされた感じです。
シノビの忍術と暗殺術、サブクラスの攻撃魔法とヴァーキライフルと魔法によって火力と運動性機動性に全振り。装甲は薄そうですが、回避系スキルも豊富といったビルド構成になっています。
初実戦なので最適化されていない状態なので、徐々に最適化されていくでしょう。




