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次元潜水空母

 就寝前に水車小屋に赴くジン。


 サルヴィから聞いた話をセッポに相談したかった。セッポはジンの来訪を予期していたようだ。


「簡単だ。俺たちは船で移動するからお前だけ、ラッピに飛ばすよ。様子をみてきたらいい」


「可能か。助かる。――船で移動? この人数をか!」


 受肉した精霊は大量にいる。千人以上はいるとジンは踏んでいた。


「そうだ。沈没した軍艦を改造した」


 自慢げに胸を張る


「この水車小屋みたいに内部の空間が広大になったりしているのか」


「そんなわけあるか。顕界では無理だよ。ほんのちょっとだけしか空間拡張されていない。ハルティアやアプオレントはクルーやパイロット担当だな」


「ちょっとだけは空間が拡張されているのかよ! 収容人員的にも、すでに一つの軍隊だな」


「日本・フィンランドの幻想対策軍所属の傭兵だな。調整は済ませてあるから驚かれることはないぞ」


「本当かなぁ……」


 いくら神様として信仰されていないとしても叙事詩の人物が救援にきたら大騒ぎになるとしか思えない。


「飛ばすって現地にテレポートするとか?」


「魔法はそこまで万能じゃないぞ。輸送ヘリだ」


「俺が体験した魔法が万能過ぎたからな」


「サラマの加護があるからな。お前は――あんまり嫉妬させるんじゃないぞ」


「させてない!」


「神様ってのは嫉妬すると浮気相手じゃなくて浮気した者を罰するからな。――人のことはいえないな。俺もそんな逸話があるか」


「脳が破壊された時のエピソードか」


「破壊されてねーよ!」


「追求はやめておこう。この人数をどうやって運ぶんだろう」


「ついてこい」


 セッポがいる水車小屋を出て川の下流に向かう。


 いつの間にか巨大な湖ができていた。


「この幽世カレヴァは本来のカレヴァではない。あれだな。魂の本質がある霊界というものがあるなら、ここは形作っている幽界。幽体の世界だな。必要な時に、必要に応じて作られる世界だ。ゆえに幽世なんだが」


「これほど日本語で解説できる共有する概念があるとは不思議だな」


「意外と世界共通かもしれないぞ。三位一体の概念だ。フィンランドの古代信仰でも魂は三種類あるんだ。日本だって肉体と魂魄があるだろ。中世から伝わる体系化された魔術では肉体とアストラルボディとソウル。ここはアストラルディメンションだな」


「しかしその幽世も今日で終わりと。ここは四次元になるのかな」


「余剰次元の概念で言うと俺たちは量子よりも小さな世界になるな。1フェムトメートルの世界だ。時間の流れが違うのも説明がつく。もっともこんな空間を作るにはこちら側の法則が必要だがね」


「水車小屋の中身が広いのも同様?」


「理解しているじゃないか。ただ顕界では顕界の物理法則が優先だ。カレヴァほど無茶はできないが」


「な、なんだこれは……」


 軍艦が浮上したのだ。潜水艦かと思ったが空母にも見える。飛行甲板らしきものまで備わっている。

 何より大きさが空母級だ。三百メートル近くあるようにも思われた。


「千人を超える受肉した精霊が必要な理由。これがこの軍艦の人員としてだ」


「潜水空母?」


「沈没した空母を潜水空母に改造した、かな」


「沈没した空母か。ん?」


 彼らの見ている前で巨大な物体が浮上した。


 どことなく形状に見覚えがある艦。


「これは沈没したミカサを改造したのか?」


「わかったか。轟沈したお前達の旧型空母を利用させてもらった。改装次元潜水空母<カスガ>だ。命名はお前の氏神だよ」


 悪戯っぽく笑うセッポ。


「この潜水空母はミルスミエス運用するために改造しているが、戦闘機や大型輸送機も搭載してある。全力で戦えるさ」


「単艦だけで運用するのか」


「顕界の勢力とも協力するさ。前にいったろ。日本政府と交渉中だって。こいつの譲渡だ。代金は技術だな」


「日本にしても日本外征部隊は海上自衛軍から引き渡した老朽艦。沈没した艦ならお釣りがでそうだな」


「残っていた遺体は顕界に出てからタイミングを計って日本政府に引き渡す。俺たちで弔うより祖国で弔ったほうがよかろう」


「なんというか。ありがとう」


「なあに。礼を言われるほどではないさ」



 沈没船は墓標ともいわれる。海は死者の国。


 セッポは当然のことをしたまでと思っている。


「機能はいろいろあるが、特筆すべきはサウナだな。電気式になるが。お前のために湯船も用意してやったぞ。スーパー銭湯方式だ」


「なんでそんなに現代日本の生活様式に詳しいんだよ……」


「教えて貰ったよ。こちらもフィンランドの生活様式を伝えてある。有意義な情報交換か」


「そうか……」


「風呂とサウナ、潜水機能だけじゃない。緊急避難やワープ的な使い方は可能だ。次元潜水空母だからな!」


「ワープ?」


「カレヴァを再構成し、目的地に繋ぐんだ。次元潜水空母たる所以さ。緊急回避にも使えるな。時間短縮には使えないな。移動時間はきっちり必要だし、何より莫大なエネルギーを消費し、さらに時間の経過が顕界と違う」


「戦闘中に緊急避難をして顕界に戻っても戦闘が終わっている可能性もあるのか」


「その通り。だが使い方によっては便利だぞ。フィンランド湾に出るつもりだったが、バレンツ海に変更だ。サルハラインにお前を送り届ける。間に合うかどうかわからんが、何もしないよりましだろう」


「ああ!」


 幼い子供の顔が思い浮かぶ。

 

 ――可能性がある限り助けたい。


 ジンは心からそう思うのだ。

いつもお読みいただきありがとうございます! 誤字報告助かります。


空母の艦名は奈良春日大社の三笠山(春日山)由来です。作者にとってはとても不思議な現象に遭遇する機会が多い場所ですね。験担ぎですw

横須賀の三笠は唯一乗ったことがある戦艦です!


アメリカの原子力空母でだいたい五千名前後の乗員です。操艦要員が三千で航空要員が二千ですね。

カスガのモデルは次元やら潜水やらはいったんおいて揚陸艦機能を持つイタリア軽空母のカヴールです。


分量が多くなって読みにくくなったので、分割。本日は計三回、あと二回更新して次章に移りたいと思います。


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