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スシ、テンプラ、ニンジャ、ニトベイナゾー

 ジンは質問を続ける。


「ロウヒ。いや各地のダンジョンマスターともいうべき存在はどうして幻想界からモンスターを呼べるようになったのだろう」


「簡単にいうとロウヒはヒーシというゴブリンに近い存在と重ねたのです。ヒーシを呼ぶ。つまりゴブリンを呼ぶと置き換えてゲームのモンスター<ゴブリン>を採用しました。それはもう世界中の仮想世界で殺されているのです。呼びやすかったでしょう」


「ゲームでさんざん虐殺したモブたちが復讐にきた?」

「違います。何万何億と殺戮しても無限に沸いて出る世界をゲームでさんざん遊び尽くしたことによって、顕界での認識が強まり繋がりやすかった、ということでしょう。それこそゲーム風ファンタジーは神話よりも身近な世界になってしまいました」


「そういうことか…… 思い当たる節はある」


「相応の認識されている力、存在力が必要です。ゴブリン以外にもゲーム文化で普及したモンスターたちは相応に認識されています。悪の軍勢、その尖兵という役割で」


「オークが種族化しているゲームもあるがね。だいたいはモンスターだろ?」


 セッポが付け加える。


「二人ともゲームに詳しいのな」


「ゲームに登場できるかどうか、神様のネットワークでも結構重要なんですよ」


「俺たちはまず登場しねえな。兄貴やロウヒの名前をごく希に見る程度だ。鍛冶屋ってファンタジーだと結構重要なのによ!」


「そうね…… 私にいたっては呼称も曖昧だから……」


 やはり二人は神ともいうべき存在だったのだ。


 残念ながらジンにその知識はなかった。


「じゃああれか。フリー素材扱いのギリシャ神話やローマ神話、日本神話の神様たちは採用されているだろ? 存在力が大きいのか。なんで顕界に顕現しないんだろう」


「歴史や従来の信仰に加え、ゲームでも馴染みが深いですね。存在力といえばいいのでしょうか。大きすぎるのです。ギリシャやローマ神話は天体にもなっています。そも存在が強すぎて顕現する必要もありません」


「俺たちはマニューバ・コートのスピリットがあれば干渉できるぐらい存在感というか存在力がないってこったな!」


「しかもフィンランド限定」


 二人の声に力が無かった。


「日本神話もおそらく日本人限定だから……」


「ニンジャやサムライは普及した概念ですよね」


「フィンランドの精霊には、日本のイメージってどんな単語が思い浮かぶのか」


「スシ、テンプラ、ニンジャ、ニトベイナゾー」


「最後のはなんだ! 昔の五千円札か!」


「ニトベイナゾー知らないんですか? フィンランドにおける歴史の転換期、中核人物ですよ!」


「武士道という著作なら読んだことあるぐらい。何をしたかはよくしらない」


「フィンランドは独立時、オーランド諸島の領有権で揉めました。それを当時の国際連盟の事務次官であったニトベイナゾーが、オーランド諸島の自治権も含めた新渡戸裁定を両国に提示し、解決したのです」


「こ、細かい……」


「もっと細かい話をいうと一緒にいたフィンランドの外交官と銀河鉄道の夜に繋がりますが、長くなるのでやめておきましょう」


「もうわけがわからない」


「ジン。お前がイナゾーと同じ日本人で助かったぜ。フィンランドでもやはり精霊信仰は異教なんだよ」


 セッポがしみじみと呟く。


「異教?」


「認識の問題ですね。国教は二種類あって、精霊信仰とはかろうじて共存している状態です。ですが一神教のもとでは異教、信じることが罪ともいえるのです。私達は信仰の対象ではなく、叙事詩の存在なのですよ。見えることはありません。かろうじて存在可能なのは信じてくれる人が僅かでもいるからです」


「助けた女の子もサラマが見えないようだったな。自分でも不思議だけど、よくサラマが見えたと思う」


 助けたい人間に認識してもらえない。それは精霊でも辛いだろう。


「ジンは名簿にあったそうです。だから雷や大気などに関わる私を認識できたんですね」


「名簿?!」


「ジンはタケミカヅチさんの氏子という眷属みたいですね。つまり雷神の系譜です」


「……そういや俺の氏神、タケミカヅチノミコトだった。帰国した折はお参りに行くよ」


 ジンは茨城県南東部出身。有名な神社がある。ジンも地元にいるときは初詣など欠かしたことはなかった。


 ――だからといって雷の精霊が見えるようになるなんて思わないじゃないか! ありがとうございますタケミカヅチ様。忘れていたわけではありません。決して忘れていたわけではありません!


 心のなかで、氏神に言い訳するジン。決して忘れていたわけではないのだ。


「ジン。聞いたぞ。お前達の拠点だった軍艦ミカサの由来だったそうじゃないか。雷神ゆかりにも程がある」


「そ、そういやそうだったな」


 そういえばお社にあった山が三笠山だったことを今更ながらに思い出すジン。

 

 子供から縁がある神様の加護を、まさかフィンランドで実感するとは夢にも思わず、地元の神様に対して非常に気まずい。


「氏神様、怒ってないか?」


「戦神たるものの氏子、最前線で戦えと伝言がありました」


「拝命したと伝えておいてくれ。望むところだ」


「はい」


 嬉しそうに微笑みサラマ。雷に縁がある人物は珍しいのだという。


 ジンの動揺は激しい。フィンランドの幽世で直に伝言を頼むことになるなど誰が想像できようか。


「ジン。日本にいたとき、シックスセンス? 違うな……霊感が強いほうだったろ」


「たまに。多少自覚がある程度には……」


 霊を見るのではなく、虫の知らせや不思議な現象に遭遇するといったものだ。


 そのせいで周囲と孤立していた感は否めない。


「おかげで俺たちと話せるんだ。この絶望的な状況が改善されたんだから助かるぜ」


「そうですね! 言語の発音も含めフィンランドは日本と共通点が多いのですよ。フィンランドは他の北欧言語とも異なります。フィンランドを形成する民族はいくつかありますがハプログループは異なりますので同起原説はなくなりましたね」


「精霊から遺伝子の話を聞く体験も珍しいが、科学水準は上なんだよな……」


 精霊はもっと原始的なものだと思っていたジンが素直な感想を漏らす。


「発達した科学と魔法は区別が付かないというでしょ? そんなものです」


「観測できない世界は予測できても実証不可能だからな。哲学の領域になる」


 混乱しているジンに、セッポは優しく笑いかける。


「あれだ。ジンはミルスミエスで魔法が使えるようになる。アクティブスキルでもいいがね」


「アクティブスキルと魔法の違いは?」


「本質的には同じだ。ゲームでもリソースはMPとHPだろ? 魔法は事象に干渉する代わりに機体強度を上げられない。他の部分で負荷がかかるからな。スキルを使うクラスは機体強度を底上げできる分、ヴァーキの使い道が限られるということだ」


「何から何までゲームで解釈には助かるが……」


「そのように設計したからな。俺が!」


 胸を張るセッポ。


「彼はあらゆるものを創成した神話があります。鉄や鋼の概念を創造。鍛冶の仕事である剣や鎧。船に疑似太陽と月。さらには現代風にいう金で出来た女性。つまりアンドロイドまで。だからこそマニューバ・コートを設計可能だった。そんな存在は彼を除いては……ギリシャの

神々ぐらいかも」


「鉄や鋼の概念にアンドロイド? 神話なら人工的な人間ということか。凄いな……」


「ふふ。大火災を引き起こした姫とは違うのだ」


「そこまでいうなら、私も言ってしまいますよ?」


「な、何を…… 俺に黒歴史はないぞ!」


 蒸し返されて鬼気迫るサラマに、若干怯えるセッポ。


「ロウヒの娘を略奪婚した挙げ句、新妻を寝取られて脳が破壊された話、しますか?」


「脳は破壊されてないぞ! 破壊されかけたけど!」


「ということは事実ではあるんだな!」


 寝取られたことは否定しないセッポに思わずジンが叫んだ。


「それに黄金の女。アンドロイドの目的は――」


「ごめんなさい」


 頭を深々と下げて謝罪するセッポ。


「た、大変だな。セッポは……」


「おう。色々な逸話が俺に集まった結果だ。かの大神ゼウスほどじゃないがね」


 心理的ダメージを受けているセッポに心の底から同情するジン。


 サラマは怒らすと怖いということも覚えたのだった。


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― 新着の感想 ―
[一言] 存在力が程々な神話の存在とか言うと八百万の神々にはいっぱい居そう
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