99話 闇の軍勢 その1
闇の軍勢がマシュマト王国の北の国境を突破したという情報は、ギルド本部を起源としてたちまちアルフリーズの関係各所に伝わった。マシュマト王国の国王の耳にも入った形だ。
早急にソード&メイジ、ビーストテイマー、ナラクノハナは招集されることとなった。春人とルナの二人は不在の状態での招集ではあるが。
「急に集まってもらって済まないな。全員が揃っているわけではないが、事態は緊急を要することになった」
ギルドマスターであるザックは急遽呼び寄せたことを謝罪しながらも、緊急性のある内容であることを告げていた。アメリア達も、状況は理解できたのか、彼を責めることはしない。
「正体不明の軍勢がマシュマトの領地内に脚を踏み入れたってことでしょ?」
「そういうことだ。早速で悪いが、君たちにはアルフリーズの北に位置するオードリーと呼ばれる村に行ってもらいたい。襲われるとすれば距離的にはその村になるはずだ」
北の国境線を越えた闇の軍勢。そのまま南に向かって来るとなれば、オードリーと呼ばれる村が襲われる可能性が最も高いと言える。アメリアからすれば聞き覚えのない名称ではあるが、ギルドマスターの言葉は信用に値すると感じていた。
確率としては、オードリーが襲われる可能性は高いことが頷けたのだ。
「わたくし達3組でその村に向かえばいいのですか?」
「ああ。なんとか協力して、闇の軍勢の進軍を食い止めてほしい」
ザックは他に頼める者いないからか、必死で懇願をしていた。アメリアとレナの隣にはナラクノハナのメンバーが立っていた。先ほど、お互いに目線は合わせない形で様子を伺っていた関係だ。お互い、どこか見知った雰囲気であった。
「こっちは別に構わないぜ。ソード&メイジとビーストテイマー。能力的に、申し分なさそうだからな」
真っ先に口を開いたのはディランだ。敵意などは感じられない。ニルヴァーナとリグドも言葉こそ出さなかったが、彼に同意しているようだ。
「そっちはどうなんだ?」
「私達も別に構わないわ。春人とルナも多分、同意してくれるだろうし」
この場には居ないが、アメリアは春人達も協力関係になることに異論は挟まないと確信していた。春人とルナの二人が不在の段階で、ナラクノハナとの協力関係が結ばれたのだ。闇の軍勢の依頼に限っての話ではあるが。
「オードリーへは別々に向かうとするかな? 君たちも仲間と合流などがあるだろ」
「それもそうですわね。合流次第、向かわせていただきますわ。場所については存じておりますので」
レナはリグドに深々と挨拶をする。急遽、決まったことではあるが、放っておいた場合は、このアルフリーズまで被害が及ぶ可能性が強い。ザックの緊急の招集は的を射ていることだった。
そして、ナラクノハナと一旦、分かれる形となり、アメリアとレナの二人は外へと出た。
「あれ、アメリア? レナさんも」
「春人?」
ギルドの外へと出たアメリアとレナだが、そこで春人とルナと出会うことが出来たのだ。しかし……二人ともかなり酔っている印象だ。
「……酒盛りしてたわね」
「あ、あははははっ。ご、ごめん……」
「……気分が悪い」
春人はまだ元気ではあるが、ルナは足元が覚束ないようだ。春人に寄り掛かるように立っている。春人が離れるとそのまま倒れてしまいそうだ。
「もしかして、依頼の件が決まったの?」
「まあ、そういうことになるわね……」
アメリアは頭を抱えながら、足元が覚束ない春人達に対して、これまでの経緯を話した。
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「え、もう攻めて来てるの?」
近くの宿屋で部屋を取った春人達はそこで、闇の軍勢が攻めて来ている可能性について聞かされた。相当に真面目な内容であった為に、一気に酔いも醒めた感じだ。ルナは大量の水を飲み干しながら酔いを醒ましていた。
「……私としては春人達が150万ゴールドも使ったのが信じられないんだけど」
「うっ……、すぐに返すからさ……」
「美人の店員さんはべらしてたわけ?」
アメリアは怒ってはいたが、それは春人が女性に手を出していたのではないかという怒りだ。150万ゴールドに対してではない。実際、春人ならばすぐに稼げるために、大した痛手でもなかった。
「……楽しくおしゃべりしてただけ。春人にこういう経験は大事」
ルナはまだまだ酔っていたが、しっかりと春人をフォローした。彼女の言葉は嘘には聞こえなかったので、アメリアの怒りも収まって行く。元々、そこまで叱責するつもりもなかった彼女ではあるが。
「まあ、春人がそういう店行った方がいいっていうのもわかるけど……」
「アメリア、微妙な表情をしていますよ? 春人様の人気の高さや性欲の強さなどを考慮いたしますと……愛人の一人や二人は作ってしまうでしょうね」
レナは丁寧な口調ではあったが、なかなか厳しい言葉を発した。性欲が強いというのはレナの予想でしかないが、春人としても的を射ている為に反論ができない。
アメリアは春人をにらんでいたが、この世界に於いては愛人を設けることは特段、珍しいことでもないので、それ以上、なにも言うことはなかった。もちろん、アメリアは独占欲が強い為に容認できるわけがなかったが。
「とりあえず、春人達が行った店のことは置いといて。私達もすぐに出発しないと。目的地は北の村、オードリーよ」
「馬車で数時間といったところでしょうか。急いだ良いかもしれません」
まだ酔いは完全には醒めていない春人とルナではあるが、事態は一刻を争うことは、先ほどのアメリアからの説明で理解することができた。彼らは重い腰を上げて立ち上がった。目指すは北の村、オードリーだ。
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マシュマト王国の国境線が破られ、数時間以上が経過していた。マシュマト王国の国境には軍隊が列を作って待機していた。王国軍も常に警戒はしていたのだ。だが……国境警備を任とする軍隊程度では、相手が悪すぎたと言えるだろう。
そして……ギルドマスターであるザックに話が通った段階で、闇の軍勢はオードリーの村を壊滅させていたのだ。
オードリーは農作物の生産工場の役割を担っており、その人口は1万人近くとなっていた。しかし、数百人は居るかという闇の兵隊に見事に占拠されており、村の中央部には大量の人間の死体が転がっていた。
その死体の傍らに佇む人物が二人。白いフルプレートを身に着けた聖騎士と、上半身をすっぽりと覆うフードと木目調の仮面を被った人物だ。
フードからはジーンズに包まれた両脚が伸びている。正体不明の部隊……その頭目と思われる二人もオードリーの村に滞在していたのだ。




