表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/145

93話 レベル99の魔物 その1


 Bランク冒険者であるネオトレジャーと、Cランク冒険者であるフェアリーブースト。彼らの前に現れたのは……その存在に真っ先に気が付いたのはナーベルだ。彼女は驚きの表情を隠せないでいた。


「ば、馬鹿な……!」


「ミノタウロス……!? 嘘でしょ!?」


 ナーベルに続き、リッカも驚きの表情に満ちていた。レベル99を誇るミノタウロスが彼女たちの前に現れたのだ。巨大な両刃の斧を携えた二本足で立つ牛のような化け物。


 リッカやナーベルが驚くのも無理のない相手である。この低層で出会ってしまうのは運が悪かったとしか言いようがない。そんなミノタウロスは既に攻撃動作に入っていた。


 ミノタウロスの先制の一撃は狼狽えているナーベル達にとっては無慈悲なものであった。レベル50に満たない彼女たちでは決して抗えない相手。案の定、ミノタウロスの動きは恐ろしい程に速く、巨体というハンデなど微塵も感じさせなかった。


 両刃の斧による振り下ろしはナーベルの脳天に照準を合わせていた。ナーベルは避けることもガードすることもできない。まさに21年の短い人生を終える瞬間であったのだ。


「ナーベル!!」


 しかし、怒号と共にその運命を断ち切った人物がいた。髪の刃を操るリッカである。変幻自在の刃を両刃の斧にまとわりつかせ、ミノタウロスの一撃の速度を遅らせたのだ。ナーベルは寸前のところで避けることに成功した。


「リッカ……! 助かった! どうやら、まだ生きているみたいだな」

「なに言ってんのよ! あんたは今度の食事会にも参加するのよ? こんなところで死ぬなんて許さないから!」




 まだ自分が生きていることに疑問すら浮かんでいるナーベル。そんな彼女にリッカは笑顔で話した。こんなところで死ぬことなど許さないと彼女は話していた。


「ははは。確かに参加したいところだが……あれが相手では……」


 汗を流しながら、ナーベルはミノタウロスに照準を合わせた。両刃の斧は地面に突き刺さっており、それをゆっくりと引き抜いている。ミノタウロス級のモンスターは周囲に結界を展開し、転送アイテムの使用を阻害することが可能なのだ。現在は、誰も転送することはできない。


 走って逃げきることも恐らくはできない。背を見せればたちまち距離を詰められ惨殺されてしまうからだ。


「命運は尽きたって言いたいの? ナーベルらしくないじゃん。どんなことにでも諦めない志しが大切なんでしょ」

「確かに……そうだったな」


 リッカはナーベルが以前から話していた言葉を思いだす。武人である彼女は正々堂々と戦い、どんな時にも諦めを言うことはない。リッカの言葉に、ナーベル自身も改めて自らの信念を思い出していた。


「私たちが3人で戦えば、ミノタウロスは倒せる可能性はあるわ。諦めるのはまだ早いわね」

「ミーティア……そうだな。全力で打ち倒すことにするか」


 リッカのみならず、ミーティアの言葉により、自分がいかに愚かだったかを痛感した。諦めるのは全てを出し尽くした後だ。なによりも食事会などの予定を控えている。こんなところで死んではいられないのだ。


「思えば、彼氏も出来たことがないからな。人生を謳歌する前に死んでしまうのは勿体ない」

「そそ、そういうことよ。ナーベル美人なんだし、すぐ作れるって」

「リッカに美人と言われるのは嬉しいが、お前には全く及んでいないからな私は。リッカが彼氏募集中というのが信じられん.外見は完璧でも中身の問題か」


 ナーベルはリッカの方が美人であると認めつつも、相当に失礼な言葉を発していた。少し余裕が出て来た証拠だ。もちろんリッカは不満気な顔をしていたが。



「ナーベル? すっごい失礼なんだけど? 私はその気になればいつでも彼氏なんて作れるんだから。見合う相手が居ないだけよ、ロクな奴いないし。せいぜい、高宮春人くらいじゃない? あいつの愛人だったらなってもいいかな~」


 彼女たちの会話はとてもミノタウロスに襲われかけている状況とは思えない。軽い会話を敢えてすることで、身体の力を抜く意味合いもある。


「いい感じで力が抜けたかしら? そろそろ本気で行かないと不味いわよ?」


 ミーティアは冷静に二人を諭す。お遊びは終わりだ。眼前のミノタウロスは両刃の斧を大きく振りかぶり始めた。リッカとナーベルの表情は一瞬の内に切り替わる。先ほどまで、軽い会話をしていたとは思えない程の切り替わりの早さだ。


 それはこの2か月間を冒険者として生き抜いた経験と言えるだろう。一瞬の油断が命取りになることを彼女たちは知っているのだ。


「もはや、祈るしかねぇな」

「そうね……」


 体力を使い果たしているヘルグは加勢できる状況ではないことはわかっていた。ラムネも同じ気持ちだ。自分たちでは、脚を引っ張るだけだとわかっているのだ。フェアリーブーストの命運は、ネオトレジャーに掛かっていると言える。彼女たちが敗北すれば、結果は同じになるからだ。


 もちろん、彼女たちを囮にして逃げることは可能であったが、彼らはそれをしない。悟としては気に食わない相手ではあるが、恩人でもある。彼もその場を離れようとはしなかった。


「行くわよ! ミラーシールド!」


 ミーティアは装飾が美しい剣を天にかざした。水属性の盾がミノタウロスの周囲に展開される。鏡の迷路を造り出したのだ。


 水の盾に反射される景色はミノタウロスの五感を鈍らせる。リーダーであるミーティアはレベル換算では55に到達していた。ネオトレジャーでは最強の能力者ということになる。



 そんな彼女が創り出す鏡の結界……レベル99を誇る化け物にも多少は効果があったようだ。明らかにミノタウロスは行動をもたつかせていた。


 そして、鏡の結界を突き破るように、リッカの変幻自在の刃がミノタウロスを襲った。レベル差がある為に、そこまでの傷を負わせることはできないが、多少のダメージを負わせることには成功しているようだ。ミノタウロスが狼狽えている。


「ただの木偶の坊ね。時間はかかるけど、大した奴じゃないわ」


 髪の刃を連続でお見舞いするリッカは見下すようにミノタウロスを見ていた。彼女と言えども、単独では到底勝ち目のない相手だ。しかし、ミーティアと連携することで、劣勢を覆すことに成功していた。


「はあああ!」


 さらにミノタウロスへの攻勢は続く。次に隙だらけになっているミノタウロスに攻撃を仕掛けたのはナーベルだ。自らの薙刀で、ミノタウロスの脚を突き刺した。


「ガウウウッ!」


 鈍いうめき声を上げるミノタウロスだが、やはり傷は浅い。


「くそっ、浅い……!」


 レベル99の実力の高さと言えば良いのだろうか。3人で攻撃をしている分、手数では確実に勝ってはいるが、ダメージはほとんど与えられていない。ネオトレジャーとミノタウロスの根本的な実力差が出ていると言えるだろう。


 ミノタウロスは以前に神官長のミルドレア・スタンアークにより倒されている。推定レベル600以上を誇る彼からすれば、レベル99のミノタウロスなど全力で戦うには値しなかった相手だ。


 だが、Bランククラスの冒険者からすれば命がけの相手になるのだ。実力差というものは理屈ではないことを物語っていた。



 その後も、ネオトレジャーのメンバーはミーティアの鏡の結界を盾にして攻撃を続けるが、ミノタウロスに有効打は与えられないでいた。そのような状態が数分以上経過し、ネオトレジャーにも疲労が見えたところを、ミノタウロスは見逃さなかった。


 隙が出来るのを待ちわびていたとばかりに、ミノタウロスは両刃の斧を振り抜いた。その一撃はナーベルに向かっている。


「ナーベル!」


 リッカは咄嗟に大声を上げるが、全ては遅かった。ミーティアの鏡の結界を掻い潜り、これ以上ないタイミングで斧は振り払われていたのだ。ナーベルに避ける術などない。


 ネオトレジャーはこの日、仲間の一人を失うこととなった……はずだった。




 だが、そうはならなかったのだ。フェアリーブーストの面々も含め、誰もがナーベルの死を確信した時、信じられないことが起きていた。


「グルルル!」


 攻撃を仕掛けたミノタウロスも慌てふためいている。それもそのはず、自らの両刃の斧は粉々に粉砕されていたからだ。ミノタウロスとしても何が起こったのかわからない状態だ。


「……!」


 一命を取り留めたナーベルは、自らの命を救ってくれた相手……リッカに目を向けていた。この時の彼女は赤い瞳を有した強烈な闘気を放つ、別の何かと呼んでも差し支えない存在に変化していたのだ……。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ